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「はい、そろそろ始めてね。じゃんっけん、ぽんっ!」


「うぇぇ。神様、混浴派だった」


「俺をリーフグリーンから守ってくれたんだよ。『アフェクションシャワー』」


 カーディナルが勝手に神様を変態扱いして顔を歪める。苦々しい顔に無理やり笑みを貼り付けたセルリアンは、神様の名誉の為に宥めつつ魔法を放った。カーディナルの頭上に浮かんだカボチャの周囲だけ、バケツをひっくり返したような雨が降る。

 「これってどういう魔法なんだ?」としおんは独り言を呟く。その横に居たリーフグリーンが「水を被ると最初に見た人に惚れる」と、とんでもない回答をくれた。どうしてわかばもセルリアンも惚れ薬みたいな魔法を持っているんだ。羨ましい。


「カボチャが傘になってて当たらないけどね」


「当たってみたかったの?」


「だって普段と違うセルリさんが見れたら面白そうじゃん」


 傘代わりになっている自分のカボチャを見上げたカーディナルが、悪戯っぽく口元に弧を描いて揶揄を孕んだ双眸を眇めた。呆れたように笑っていたセルリアンが、「普段通りだと思うけどなあ」と困った顔をする。期待に応えられそうになくて悩んでいるらしい。

 だが、カーディナルがセルリアンに惚れたとしても、今の親子みたいな関係と同じだと思う。それとも、魔法でメロメロになったカーディナルは、蕩けた瞳に愛情の色を滲ませて、積極的にキスなどを迫ったりするのだろうか。しおんは魅了系の魔法を覚えるか割と本気で迷う。


「セルリさん、いくよー。じゃんっけん、ぽんっ!」


「あらら、負けちゃった」


「神様ありがとう! 『フレイムキャット』!」


 カーディナルの掛け声で行われたジャンケンはセルリアンの負け。グーで勝利したカーディナルが神様への礼を叫んだ後、枚挙にいとまがない量の子猫たちを召喚する。炎で出来た猫たちは四百しかないセルリアンのゲージを二百にしてしまった。次にジャンケンで負ければ、ゲームにも負ける展開だ。混浴できる可能性の低さにしおんは少しだけガッカリする。


「やっぱり千だとすぐピンチになっちゃうなあ。じゃんっけん、ぽんっ!」


「うえっ!? ここは俺が勝って終わるところじゃないの!?」


「こんなに神様に守られるなんて、俺は負けたらリーフグリーンに何をさせられるんだ」


 セルリアンの掛け声で繰り広げられたジャンケンはカーディナルの負けだった。カーディナルが拳を作った自分の手を驚愕した表情で見つめる。セルリアンはカーディナルのカボチャに『ウォーターファントム』をお見舞いしながら、わざとらしく儚げな表情を浮かべて天井を見上げた。水で出来た大量の幽霊がカーディナルのゲージを四百に減らす。茶化されたリーフグリーンが気まずそうに視線を逸らしてボソッと呟いた。


「いや、セルリアンさん相手にそんな酷いことをするつもりはないけど」


「リーフさん、優しいもんね」


「代わりにレイブンにやらせるし」


「褒めたのになんで!?」


 にやりと口の端を吊り上げたレイブンが、揶揄った罰として飛び火を受ける。口は災いの元というし、しおんは何も言わないようにしよう。レイブンみたいに巻き込まれないよう、口を固く閉ざして、カーディナルに熱い視線を送ることにした。

 引き締まった細い腰。ジャージに包まれた美しい曲線を描く脚。磨いているのか艶々とした爪と、細長くしなやかな指。思わず抱き締めたくなるほど痩躯な身体。凜と咲き誇る花にも勝る整った顔立ち。

 大きめのローブ故、指しか見えていない萌え袖。頭の上に乗った黒い猫耳ニット帽。ふわふわとしてそうな毛先を赤く染めた茶髪。いつ見ても完璧な美人だ。そして、目に入れても痛くない可愛らしさもある。


 すると、ジーッと見ていることに気付いたカーディナルが、可愛らしく首を傾けて不思議そうに手を振ってくれた。勿論、しおんも振り返す。可愛い。幸福感に包まれながら、手を振り合っていると、ガシッと頭を捕まれた。鷲掴みにしたのは隣に居るリーフグリーン。


「お前もレイブンと一緒に店内の掃除だな」


「ひえっ」


 カーディナルと仲良くしていたら巻き込まれてしまった。地を這うような低い声に、しおんはビクッと肩を大きく跳ねさせる。カーディナルを応援したいのにセルリアンに勝ってもらわねば困る。混浴もしたい。しかし、カーディナルを裏切りたくない。カーディナルの味方でありたい。思考の波に呑まれて溺れ、グルグル目であたふた混乱していると、運命のジャンケンが始まった。


「よーし、俺の勝ち! 『フレイムキャット』!」


「あちゃー、負けちゃっ――おわあああああっ!?」


 結果はカーディナルの勝利。大量の猫たちが炎を帯びた身体でカボチャに突撃する。見事にゲージをゼロにされたセルリアンは、台詞の途中でお菓子の雨に襲われ、地面に沈んだ。うつ伏せに倒れたセルリアンの背中に、個包装されたミニドーナツの山が築かれる。その山を両手を横に振ってぺぺぺっと払ったカーディナルが、セルリアンを救出して魔力回復役を差し出した。

 のそのそと起き上がったセルリアンが薬を飲む。カーディナルは飲み終わるのをワクワクした様子で待っている。餌を目の前に出されて尻尾を振る犬みたいだ。そわそわと身体を揺らしていたカーディナルだが、待ちきれなくなったのかセルリアンの手を掴む。両手で掴んだ手を自分の頭に乗せ、グリグリと擦り付けた。どうやら一刻も早く撫でてほしかったらしい。

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