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 すると、透明の壁に張り付くしおんに気付いたリーフグリーンが、ドアを開けて手招きをしてくれた。どうやら特等席で二人のゲームを観戦させてくれるらしい。見た目に反して意外と優しいというカーディナルの言葉も嘘ではないようだ。しおんは少しリーフグリーンに対する苦手意識をなくしつつ入室する。室内は他の階の部屋と同じく真っ白な床で何もない。


「お得に買わせてもらうよ! じゃんっけん、ぽんっ!」


 レイブンが上げ潮のように腹の底から湧き上がる勇ましい力を込めた拳を突き出す。しかし、ジャンケンの結果はまたしてもチョキを繰り出したリーフグリーンの勝ちだった。リーフグリーンが双眸を爛々と昂ぶらせて口元に弧を描きながらカボチャへと魔法を撃つ。勿論、チョキで勝利したリーフグリーンが用いる魔法は、『チェリーブロッサムストリーム』。物凄い切れ味を誇る桜の花びらがカボチャの周囲にだけ吹雪く。

 レイブンのカボチャのゲージが一気に二百まで減ってしまった。千しかない分、一撃がいつもより重くなっている。レイブンはもうジャンケンに負けられない。レイブンは一筋の脂汗を垂らしつつ、血を沸き立たせたギラギラとした表情をしている。やはり此処に住む人々は好戦的な人ばかりだ。しおんは若干、身を引く。


「おら、どうした? お得に買いたいんだろ?」


「勿論! 学生の一人暮らしには、少しの出費でも大ダメージに繋がるからね!」


「えっ、学生?」


 余裕の色を失ったレイブンが笑みを引き攣らせて応えた言葉にしおんは目を点にした。殺気立ったギラギラとした瞳で挑発していたリーフグリーンから毒気が抜ける。横やりを入れられて大人の余裕を取り戻したリーフグリーンが、燃え盛っていたヤル気を鎮火させて嘆息する。その気迫に少し気圧され気味だったのか、ホッと肩の力を抜いたレイブンが年齢を告げた。


「僕はカーディナルちゃんと同じ十六歳だよ」


「へえー。あっ! もしかして、そのローブって学生の証?」


「そうだよ。普段着としても使えるから便利だよね」


 閃いたしおんに肯いて身に纏った黒いローブを見せるレイブン。チェック柄のシャツとジーンズの上から羽織っている状態だ。初めて会った時は休日だったからか、ローブを着ていなくて気付かなかった。カーディナルも学生だからダボッとした黒いローブをジャージの上に着ていたのか。

 と得心すると同時、アイボリーとお揃いコーデなわけではなかったことにも気付くしおん。学生なら誰でもカーディナルと同じローブを纏った格好になるのだ。つまり、カーディナルに話を通してもらって学生になれば、しおんもお揃いのローブを身に着けることができる。妄想するしおんの口が自然と緩む。


「なんでにやついてんだ、あいつ」


「どうしたんだろうね」


 リーフグリーンとレイブンの怪訝そうな視線で妄想の世界から帰ってきた。と胸を衝かれて目をパチパチとしたしおんは、慌てて緩みきった口元を引き締めて両手で隠す。訝しそうにしていたリーフグリーンとレイブンだが、どうせたいしたことじゃないと判断したようで、試合に戻った。眼鏡の奥で黒色の瞳を興奮気味に煌めかせたレイブンの掛け声でジャンケンが行われる。


「か、勝てた! 『アイスピューピル』!」


 パッと顔を明るくさせてシンプルな眼鏡を上にあげたレイブンがリーフグリーンの頭上を見つめた。

その位置に佇んでいたカボチャがカキーンと凍り付いて、すぐさま解凍される。眼鏡をかけ直したレイブンがジャンケンに勝てたからか改めて愁眉を開いた。それを見たリーフグリーンが、悪戯っぽく双眸を眇めて、含みのある笑みを浮かべる。


「その運、いつまで続くか見物だな」


「リーフさんのゲージが減るまで続けてみせる! じゃんっけん、ぽんっ!」


「おーっと、神様?」


 レイブンの掛け声で行われたジャンケンは、またもやレイブンの勝ちだった。少しだけ余裕をなくしたリーフグリーンが、口元に弧を描いたまま自分の拳を見る。今度はパーで勝利したレイブンが、そんなリーフグリーンのカボチャに向けて、『スノウナイト』を繰り出した。雪で出来た騎士が対象を攻撃する。これで、リーフグリーンのゲージは千から六百と四百を引いてゼロだ。


「うおおおおおっ!?」


 中にある小型爆弾が爆発して真っ二つに割れるカボチャ。抜けた底から大量の個包装されたビスケットが降ってきた。勢いよく背中を押されたリーフグリーンが、床にうつ伏せで倒れ、身体の上にビスケットの山を築く。魔力を根刮ぎ奪われて脱力した身体を倒したまま、「ちくしょー。もってけ、どろぼー」と弱々しい声でレイブンに何か渡した。

 グリーンマート割引券と書いた長方形の紙。折れたり破けたりしないようにラミネート加工もしてある。精算の際、レジで渡すことで割引を適用してもらえるようだ。しかも、リーフグリーンに勝った場合、五十パーセントも割引してもらえるらしい。「ううー」とのろのろお菓子の山から抜け出そうと藻掻くリーフグリーンが、泥棒と言った意味もよく分かる。


 リーフグリーンは凜然とした緑色の瞳も覇気を失い、まるで高熱に犯されているみたくぐったりだ。まさか魔力回復薬も飲まずに今まで勝ち続けてきていたのだろうか。尋常ではないほど辛そうなリーフグリーンに駆け寄ったしおんは魔力回復薬を差し出す。申し訳なさそうに受け取ったリーフグリーンが、小瓶の中に入った薬を一気に飲み干した。「悪いな。連勝してたから、薬の用意を忘れてたんだ」と本人の口から吐露され、しおんとレイブンは息を呑んだ。

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