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 カーディナルの抱き心地やにおいを堪能しまくった後、寮に入るまで宿泊するホテルを探しに行ったわかばとあんず。尻尾を踏まれた野良猫みたいに毛を逆立てて見送ったしおんは、現在、戸惑うカーディナルをギューッと腕の中に閉じ込めて肩口に顔を埋めていた。

 柔軟剤かボディーソープの柔らかく優しい匂いが、荒ぶった心を少しずつ落ち着かせてくれる。引き締まった腰の抱き心地も良すぎて、ずっと腕の中に閉じ込めていたい衝動に駆られていた。相変わらず、慣れている様子のカーディナルは大人しく無抵抗だ。


「カーディナルちゃんも買い物に来てたんだね。今、グリーンマートで『爆弾発掘ゲームに勝ったら割引』企画が始まってるよ」


「マジで!? リーフさんのそういう企画、珍しいじゃん」


 そんな至福の時間はレイブンの登場でぶち壊された。しおんは顔を上げてカーディナルにお得情報を伝えるレイブンを睨めつける。それに目をキラキラ輝かせたカーディナルが、「よいしょ、っと」という掛け声と共にしおんを横抱きした。しおんは突然浮いたことに驚いて、咄嗟にカーディナルの首に腕を回してしがみついてしまう。


「カ、カーディナル!?」


「レイブン、早くグリーンマート行こ!」


「う、うん」


 目ん玉が飛び出しそうなほど驚くしおんを無視し、横抱きしたまま下の階に行こうとしているカーディナルに、顔を引き攣らせたレイブンが苦笑を頬に含ませて肯く。ツッコミを貰えず離れるタイミングを失ったしおんは、そのまま出発されそうになり慌てて引き止めた。カーディナルみたいな小柄な女の子に横抱きされている状況は割と本気で恥ずかしい。


「ちょっ、ちょっと待って! 俺をこのまま運ばないで!」


「でも、俺と離れたくないんでしょ?」


「だったら、せめて逆にして!」


 離れたくないのは確かだ。あんずとくっついていた時間の二倍は触れ合っていたい。しかし、横抱きするならともかく、横抱きされるのは複雑なのである。必死に足を暴れさせて懇願した結果、本気度が伝わったのか、カーディナルが頬を紅潮させて慌てるしおんを下ろしてくれた。しおんは何が嫌なのか分かっていないカーディナルを素早く横抱きする。

 そして、有無を言わせず「よしっ、レッツゴー!」とエレベーターの方へと小走りで向かう。「いいなあ、しおんくん。代わってよ」と羨望の眼差しを突き刺すレイブンに、間髪入れず「絶対に嫌だ」と拒否を示しつつ、目的地のグリーンマートを目指した。


 しおん達三人はエレベーターを使って八階から下に降りる。グリーンマートの場所は地下一階の食料品売り場。フロアの半分を占める超大型スーパーである。大繁盛している店内を歩いてリーフグリーンの元に向かい、苦手意識を持つしおんの代わりにカーディナルが割引企画の参加を表明した。

 割引企画は対象の商品にシールが貼られており、その中から欲しいものを選んでリーフグリーンに渡す。そして、割引を賭けてリーフグリーンと爆弾発掘ゲームを繰り広げるというルールだ。ただし、リーフグリーン一人だと企画を回しきれない為、スタッフや知り合いが手伝いをしている。


「ああ。用意した部屋は全部埋まってるから、欲しい商品を持って少し待っててくれ」


 お馴染みのエプロンをつけたリーフグリーンが、眼鏡の奥にある緑色の瞳をブースに向ける。ブースは全部で二十も用意されていた。不正防止の為か透明の壁になっており、中の爆弾発掘ゲームが丸見えである。どんどん長蛇の列を捌く目的だろう。カボチャも特別なものを使用しているらしく、ゲージが千しかない。


「しおん、今日の晩ご飯は何が良い?」


「カーディナルの料理が食べられるなら何でもいいよ」


「じゃあ、唐揚げが食べたいから唐揚げね」


「そこ、イチャイチャするな。つーか、しおんはカーディナルを下ろせ」


 大人しく横抱きされたまま商品を見ていたカーディナルが鶏胸肉を手に取る。リーフグリーンが苦い色を滲ませた笑みを引き攣らせてしおんとカーディナルを引き剥がした。しおんは不服を申し立てようとしたが、他の客の邪魔になる為、大人しく従う不貞腐れた表情で頬を膨らませてリーフグリーンを睨めつけていると、レイブンが彼に声をかけた。その手にある買い物カゴに、生野菜やお惣菜などが所狭しと入っている。


「リーフさん、買いたい物が決まったから勝負してもらって良い?」


「よし。じゃあ、そこの空いてる部屋に入ってくれ」


 リーフグリーンがビー玉ほどのカボチャをレイブンに渡して手前のブースを指差した。ゲージ千のカボチャはグリーンマート側により用意されているらしい。普段の銀色ではなく銅色だ。「しおん、ちょっと此処で待ってて。俺、唐揚げの材料と野菜をカゴに入れてくる」とカーディナルに言われた為、しおんは暇潰しがてら二人のゲームを観戦する。

 リーフグリーンとレイブンがカボチャの軸を同時に押して、お互いの頭上に浮かべた。声は聞こえないが、どちらかの掛け声で行われたジャンケンは、リーフグリーンの勝ちだ。レイブンの頭上にあるカボチャの周囲にだけ、対象を覆い隠す量の木の葉の渦が巻き起こる。恐らく『リーフティフォーネ』だろう。声が聞こえないと分かりづらい。



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