⑩
「続きやるにゃ。じゃんっけん、ぽんっ! にゃっ」
「げっ、負けた。折角、次は猫のポーズを撮ろうと思ったのに」
「そう何度も撮られてたまるかにゃ! 『フラムスタンプ』!」
カーディナルの可愛い掛け声で行われたジャンケンはしおんの負け。しかもチョキの手に巻けてしまい、苦虫を嚙み潰したような顔で願望を吐露するしおんのカボチャに、炎を纏った巨大な猫が容赦なくのしかかって全体重を押しつける。心なしかカーディナルで遊ばれて怒っているように見えた。相変わらず、カーディナルの魔法はみんな主人に過保護である。
カボチャのゲージが千五百から九百になったのを見届けたしおんは、一体どんな命令をされるのだろうかと胸をドキドキさせた。語尾に「にゃ」をつけたり照れながらポーズをするのは、カーディナルがやるからこそ可愛いのであって、同じ事をさせられるなんて地獄でしかない。カーディナルは少し考える仕草をした後、悪戯っぽく顔を綻ばせた。
「今日の買い物は、全部しおんが荷物を持つにゃ!」
「よかったあああああ」
「うえっ!? 荷物持ちが嬉しいのにゃ?」
揶揄を孕んだ双眸を眇めたカーディナルからの命令に胸を撫で下ろすしおん。荷物持ちを命じられたのに安堵する姿にカーディナルが驚いている。が、今まで自分が指示したことを、命令され返されるより一億万倍マシだ。荷物だって別にそこまで重いわけでもない。
「しおんはマゾだからね」
「村でもその気質があったよな」
「おい、余計なことを言うな!」
ヒソヒソと顔を寄せ合いつつ普通の声量でカーディナルに告げるあんずとわかばにしおんはビシッと指を突きつける。変な性癖を曝け出されて変態扱いされたらどうしてくれるんだ。と二人を睨めつけると、「もう手遅れだろ」と言わんばかりの半眼を向けられた。失礼な幼馴染である。まだ変態のレッテルを貼られた覚えはない。
「じゃあ、いっぱい荷物を持たせてあげるにゃ」
「はい、喜んで!」
訂正、もう手遅れでも良い。茶目っ気全開な表情に笑みを浮かべたカーディナルに弄られ、しおんは先程の怒りを雲散霧消させて自分で変態のレッテルを貼った。ビシッと右手を額に翳して元気よく返事をするしおんに、幸か不幸かカーディナルは面白そうに笑っている。取り敢えず、変態だからと嫌われることはなさそうで安心した。
「いっくにゃー。じゃんっけん、ぽんっ! にゃっ」
「ああっ、また負けた! 俺のカーディナルにさせたいことが全部できなくなる!」
「はっはー、ざまあみろにゃ。ばーか! 『フラムスタンプ』!」
健気に「にゃ」を付け加えるカーディナルの掛け声で繰り広げられたジャンケンは、またしてもしおんの負け。もう一度、召喚された炎で出来た巨大な猫が、しおんのカボチャにのしかかって引っ掻く。爪を研がれたカボチャのゲージが九百から三百まで減った。最初は優位に立っていたのに一気にピンチだ。しおんは焦燥に駆られた表情で頭を抱える。
「やばい、負ける。やっぱり俺は何かご褒美がないと勝てないんだ……ッ。カ、カーディナルぅ」
「しおんは敵なのに俺がご褒美をあげるのにゃ?」
「はい! だったら、しおんが負けたら俺を抱き締めてよ。カーディナル」
縋るような眼差しを突きつけられて困惑するカーディナルに、手を大きく挙げたあんずが両腕を広げて抱擁を要求した。カーディナルが自らあんずの腕の中に飛び込むなんて、嫉妬深いしおんに許せるようなことではない。しおんは「はあああああっ!? そんなの許すわけないだろ!」とあんずを睨んだ。が、幼馴染故、特に怯えることなく、あんずは笑顔で挑発する。
「カーディナルを取られたくないんだったら、しおんが勝負に勝てばいいだけじゃん」
「絶対勝つ!」
「おおっ、ヤル気が漲ってるにゃ。でも、俺だってそう簡単には負けてあげないよ。じゃんっけん、ぽんっ! にゃっ」
「よっしゃ、おらああああっ! カーディナルの抱擁は渡さねぇ! 『ダークネスシャワー』!」
悪戯っぽく目を細めたあんずの挑発により火を点けられたしおんが、カーディナルの掛け声で行われたジャンケンに勝利した。勢いよく前に突き出した本気のグーは、爪が刺さっているほど強く握り締められている。メラメラと目の奥に宿る闘志の炎を燃やして、数え切れない量の真っ黒な棘をカーディナルのカボチャに降らせた。ゲージが九百になる。
続いて繰り広げられたジャンケンはカーディナルの勝ちだった。「いえーい。俺の勝ちにゃ!」と前に突き出していたパーをピースの形にし、カーディナルが『ファイアプリズン』を使う。三百しか残っていなかったしおんのカボチャが、猫の顔の形をした炎の檻に閉じ込められ、全てのゲージを持って行かれた。同時に、真っ二つになったカボチャの底から、一口サイズの大量の飴玉がしおん目がけて降り注ぐ。逃げ場はなかった。
「ぎゃあああああっ!」
見事、飴玉に押し倒されて埋もれたしおんが悲鳴と共に姿を消す。魔力を吸い取られて碌に動けない身体を捩って顔だけ外に出すと、カーディナルがニコニコと笑みを浮かべるあんずの腕に中に飛び込むところだった。「ああーーッ!」と叫ぶしおんの視界で、あんずがカーディナルをギューッと抱き締めて、ご満悦な様子でスリスリしている。誰かに抱き締められるのが好きなのか、色々な人に抱き締められすぎて慣れているのか、カーディナルは少しだけ恥ずかしそうに頬を色づかせつつもされるがままだった。




