⑨
部屋中に散らばった個包装された饅頭と一口チョコレートを掃除した後、あんずが「しおんの魔法も見せてよ」とワクワクした表情で身を乗り出してきた。魔法を忌み嫌う村に居た為、幼馴染である二人にも見せたことがないのだ。それに気付いたわかばも「確かに、見たことないな」と期待を込めた目になる。別に隠しておく必要もない。しおんは二人から提示された願望を叶えることにした。
「それもそうだな。カーディナル、相手してくれないか?」
「ん、いいよ」
しおんの言葉にペットボトルの水を飲んでいたカーディナルが了承してくれる。三連続になるのに嫌な顔一つせず勝負を受けてくれた。優しい、好きだ。爆弾発掘ゲームが好きなだけかもしれないが、妄想ぐらい自分に都合の良い方に考えても良いだろう。
端に寄せた饅頭とチョコレートはいつの間にか消えていた。カーディナルによると特殊な魔法を施した部屋に吸い込まれたらしい。行き先はお菓子を提供している駄菓子屋だそうだ。爆弾発掘ゲームに必須なカボチャもそこの駄菓子屋に売っている。
毛先を緩く捲いた茶髪の上に乗せた黒い猫耳ニット帽の位置を直し、カーディナルがカボチャを取り出して軸を押した。一体、何個持っているんだろう。しおんもカーディナルに倣って取り出したカボチャの軸を押す。二人の頭上に超小型車ほどに成長したカボチャが浮く。
「よーし、ゲームやってこう。じゃんっけん、ぽんっ!」
「よしっ、勝った。『ダークネスシャワー』!」
「おおー」
「しおんは闇属性だったのか」
カーディナルの緊張感のない緩い掛け声で始まったジャンケンに勝利し、しおんはカボチャに向けて枚挙にいとまがない量の黒い棘を撃った。触れると傷付いたり重力を五倍にする十死に余る闇の棘を見たあんずとわかばが歓声を上げる。カーディナルのカボチャのゲージが千五百から二百減って千三百になった。
「負けた方は勝った方の言うことを一つ聞くってルールだったよな」
「そんなルールないけど」
「カーディナルはゲームが終わるまで語尾に『にゃ』をつけて話すこと」
「勝手にルールを追加するにゃ」
愛くるしい姿を見たくて勝手にルールを追加してみたら、しおんに不平を慣らしつつも言うことを聞いてくれるカーディナル。不満そうに唇を尖らせながらも少し照れた様子で視線を逸らしていて、しおんの心臓がズキュンと大槌で勢いよく叩かれたみたいな痛みに襲われる。苦しみと受け入れられた歓びで思わず心臓部を抑えて屈み込んだ。
「しおん、どうしたにゃ?」
「あっ、ごめん。今、ちょっと喋らないで」
「なんでにゃ?」
気遣ったのに無言を要求されたカーディナルが困惑気味に小首を傾ける。語尾に「にゃ」をつけて話すカーディナルの破壊力の凄さを分かっていないらしい。会ったばかりのわかばとあんずですら、顔をほんのり紅潮させて硬直しているというのに。きっとカーディナルが喋るたびに心拍数を増幅させているに違いない。なんて言ったって、しおんがそうだからだ。
まあ、しおんの場合、可愛いという感情も溢れて止まらないが、苦言を呈しつつも言うことを聞いてもらえた歓びが強いのだが。同棲していることによって、少しは気の置けない関係になれているということだろうか。とにかくカーディナルとの親密度が上がって嬉しくてたまらない。いい加減に待ちくたびれたのか、カーディナルが手を前に突き出す。
「そろそろ、再開しても大丈夫にゃ?」
「うっ。はい、大丈夫です」
「なんで敬語にゃ? まあ、いいにゃ。じゃんっけん、ぽんっ! にゃっ」
「うぐっふ」
「しおん!?」
掛け声の後に付け足された「にゃ」にトドメを刺されしおんは膝から崩れ落ちた。辛うじて手はグーの形にして前に突き出している。が、とてもじゃないが泡を食ったような声で心配するカーディナルの手なんて見られない。キュッと締め付けられた心臓が痛くて、身体を丸めていないと辛かった。
「しおんの勝ちだにゃ。大丈夫だったら、魔法を撃ってほしいにゃー?」
「おう、任せろ」
カーディナルの甘えたような声で即座に復活したしおんは、カボチャに向かって、もう一発、『ダークネスシャワー』をお見舞いする。カーディナルに甘えられたら何でも言うことを聞きたくなる衝動に駆られる体質が役に立った。
カボチャのゲージが千三百から千百に減ったことなど気にも留めず、次にどんな命令をしようか考えるしおん。あまり破壊力の強すぎることを告げると、身体中の骨を折りそうな勢いで轟く心臓がもたないだろう。
「拗ねたような恥ずかしそうな顔で顔横でピースして」
「にゃっ!?」
律儀に命令を待っていたカーディナルが具体的すぎる内容に目を丸くする。「す、拗ねた顔?」と戸惑いながら頑張って頬を膨らませていた。しおんは羞恥心を煽るお手伝いをしようとカメラを取り出してカーディナルに向けた。カーディナルが「うっ」と記録に残されることを知り恥じらう。
ムッと頬を膨らませながら渋々と顔の横に移動させた両手をピースさせる。 「調子に乗るなよ、馬鹿」と言わんばかりに不貞腐れている為、どうやら羞恥心だけでなく拗ねた表情を作る手助けも出来たようだ。折角だからフラッシュを焚いたしおんは満足気に肯く。
「いいなあ、しおん。それ、ちょうだい」
「だめにゃ!」
あんずの申し出をしおんよりも先に紅潮させた頬に含羞の色を滲ませたカーディナルが涙目で拒否した。そんな可憐な表情で駄目と言われたら聞くしかない。ということで、さっきの写真はしおん一人で楽しむことにする。あんずが「ええー」と不満そうに口を尖らせた。




