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「この雨はどういう効果があるんだ?」


「触れた人を感動させるんだよ。俺が勝ったら、この魔法で強制的に泣かせてあげるからね」


「うぇぇ、絶対やだ」


 好奇心を満たしたくて尋ねたしおんに、あんずが悪戯っぽく目を細めて応える。どのようにして泣かせるのか気になっていたが、そういう魔法を扱うことが出来るようになったらしい。カーディナルが負けたら本当に強制的に泣かされると知り、苦虫を嚙み潰したような顔で嫌そうに両腕を胸の前で交差させた。赤い瞳の奥に闘志の炎が宿る。


「俺の涙なんて見て何が面白いんだよ。絶対に見せてやんないからな!」


「ええー、そこを何とか頼むよー。じゃんっけん、ぽんっ!」


 あんずの掛け声で繰り広げられたジャンケンは、むうっと頬を膨らませたカーディナルの勝利だった。へらへらとした笑みを湛えながら両手を合わせるあんずのカボチャに、カーディナルが「お断りでーす!」と容赦なく『ファイアプリズン』を放つ。猫の顔の形をした炎の檻に閉じ込められたカボチャのゲージが、九百から五百まで削られた。


「俺を泣かせたいんだったら、もっと本気を出さないと無理だよ?」


 先程までの表情を一転させ、揶揄を孕んだ双眸を眇めたカーディナルが、茶目っ気全開の笑みを浮かべ、首をこてんと傾けてあんずを煽る。否、悪戯気味な笑みを浮かべて挑発しているのだろうが、ただ可愛らしいだけで全く苛立たしさなんて芽生えてこない。恐らくあんずもそうなのだろう。「そっかあ」と笑みを絶やさず手を前に突き出す。


「だったら、神様を味方に付けられるように、ちょっとがんばろっかな」


「やれるもんならやってみろ」


「じゃんっけん、ぽんっ!」と同時に叫んだ二人により繰り出される二つの手。勝者はグーを出したカーディナル。カーディナルにより召喚された『フレイムキャット』達が、心なしか怒りをぶつけるみたくカボチャを攻撃した。炎で出来た猫達は主人であるカーディナルに懐いている。泣かせるなんて言い出したあんずに対して怒っているのだろう。

 今までで一番長い間、引っ掻いたり体当たりされたあんずのカボチャのゲージが残り三百になった。「泣かせる以前に、一回しか攻撃できてない!」と頭を抱えるあんずに、わかばが「神様に祈ってみたら?」と告げる。あんずは自棄になっているのか、左右の手の平を合わせて指をしっかりと絡め、天井を見上げながら瞼を閉じた。


「神様、お願いします。どうか、俺に大逆転のチャンスをください」


「だめっ! 神様、俺にこのまま勝たせてくれるよね? ね!?」


 それを邪魔するように、眉尻を下げて瞳を不安そうに揺らしたカーディナルが、天井に向かって縋るように首を傾ける。しおんが神様だったら絶対にカーディナルのお願いを聞くだろう。だが、神様は可愛さに屈しないようで、次のジャンケンで勝ったのはあんずだった。今まで絶好調だったカーディナルが目を丸くさせて「みゃあっ!?」と猫みたいな鳴き声を溢す。


「『ホーリーハーリケイン』!」


 あんずがギラギラと橙色の双眸を光らせて呪文を唱えると、カボチャの周囲に神々しい聖なる光の暴風が吹き荒れた。全てを呑み込むような白い光に包まれ、眩さのあまりしおんは薄目になってしまう。流石、チョキに選ばれた魔法だ。物凄い威力である。カーディナルのカボチャのゲージが千百から五百まで減った。

 「もう負けない! じゃんっけん、ぽんっ!」というカーディナルの掛け声で何度目かのジャンケンが始まる。またもやあんずの連勝だった。神様に二回連続で裏切られたカーディナルが、「うにゃっ!?」と自分の突き出したチョキの手を見つめる。もしかすると、神様も可愛さに屈していて、可愛いカーディナルが見たいのかもしれない。

 二人のゲージがどちらも三百になった。良い感じの勝負を繰り広げている。グーで勝利しない限りこれが最後のジャンケンになるだろう。真剣な表情でお互いを見つめ合うカーディナルとあんず。カーディナルとあんなに長いこと視線をかち合わせているなんて羨ましい。なんて思っているしおんをよそに、最後のジャンケンが始まった。


「「じゃんっけん、ぽんっ!」」


「よっしゃああああっ! 『ファイアプリズン』!」


「わあああああっ!?」


 勝者はカーディナル。快哉を叫びつつ魔法を唱えて、カボチャのゲージをゼロにする。全ての数字を削り取られたカボチャが真っ二つになり、あんずの上に大量の一口チョコレートを振らせた。想定以上の量だったのか、吃驚したらしいあんずの悲鳴が部屋に響く。強制的にうつ伏せにされたあんずの背中に一口チョコレートの山が築かれていった。


「ありがとう、神様。大好き!」


「ああっ、神様ずるい! 俺にも好きって言って、カーディナル!」


 投げキッスを天に向かって撃つカーディナルに後ろから抱きついて嫉妬するしおん。その間、わかばがあんずの周囲に落ちている一口チョコレートを食べ、目をキラキラと輝かせている。幼馴染は同じ行動をするものなのだろうか。魔力を持たない分、すぐに這い出てきたあんずも、わかばと一緒に色々な味の一口チョコレートを食べている。

 カーディナルがあんずにもわかばにも勝ったことで、しおんを連れ戻すのを諦めた二人。しかし、必ずしおんを連れ戻すと啖呵を切った故、帰るに帰れないらしい。しかし、しおんはカーディナルとの二人きりの同棲を誰にも邪魔されたくない。結果、二人は帰宅難民を受け入れる無料の賃貸住宅を借りることになった。契約期間は一年。それまでの間に、金銭を集めて別の賃貸住宅に移るか、一軒家を購入しなければいけないようだ。


「あっ、そうだ。学校に通ったら寮に入れるよ?」


「学校?」


「うん。しおん達って何歳? 俺は十六歳なんだけど」


 そんな二人にバイトを紹介していたしおんは、カーディナルの問いかけに「えっ、同じだ」と目を点にする。幼い頃から一緒に居るしおんとあんずとわかばは全員十六歳だ。まさか、カーディナルも同い年だったとは。そのことを伝えると、「よしっ、じゃあ通えるね。買い物が終わったら、話しておくよ」と、カーディナルが温和な相好を柔らかく崩す。瞬間、あんずとわかばが感極まった表情で、きっと天使に見えているであろうカーディナルに抱きついた。




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