⑦
「ねぇ、俺も爆弾発掘ゲームやりたい!」
自力でお菓子の山からの脱出を試みるわかばを横目に、饅頭を十個以上食べたあんずが挙手をする。期待を込めた双眸をワクワクと輝かせていた。しおんを連れ戻す為というよりは、純粋に爆弾発掘ゲームで遊んでみたいらしい。
と、面食らった表情で赤色の瞳を瞬いていたカーディナルが、不意にしおんの肩を抱いてグイッと自分の方へと引き寄せる。「あええっ!?」と突然すぎる至近距離に狼狽えるしおんにもたれ、カーディナルは無駄に色っぽく蠱惑的な笑みで尋ねた。
「しおんと俺、どっちとやりたい?」
「カ、カーディナルでお願いします……」
「もう、カーディナル! 色気振り撒くの禁止!」
「わっ!?」
背筋を粟立たせるいやらしくない上品な色香を浴びて、顔を赤らめたあんずに嫉妬したしおんはカーディナルをギュッと抱擁する。目を丸くするカーディナルにスリスリと頬擦りをし、頼むからこれ以上、信者を増やさないでくれと、心の中で懇願した。ムッと唇を尖らせて不貞腐れるしおんと、キョトンとしているカーディナルを、あんずが微笑ましそうに見ている。
どうやら先程の目に毒なほどのお色気を受けても、特にカーディナルに対する感情に変化はなかったようだ。ライバルになりうる可能性が消えて、しおんは胸を撫で下ろす。あんずがニコニコと穏やかな笑みを浮かべて、カーディナルとくっつくしおんに告げた。
「しおんはカーディナルが大好きなんだね」
「当然! それより、あんずも魔法を使えるようになったのか?」
ど直球に愛を伝えられて、「ふみゃっ!?」と鳴きながら顔を紅潮させるカーディナルが、ツッコミを入れる前に話題を切り替えるしおん。理由? ツッコミたいのにツッコミを入れられず、ジワジワと込み上げる羞恥心に悶えるカーディナルが見たいからだ。
案の定、発散できず行き場を失った恥ずかしさに支配され、カーディナルが面映そうな顔に紅葉を散らしながら視線を彷徨わせる。と、耐えきれなくなったのか、しおんの胸に紅い顔を埋めて隠し、額をグリグリと押し当ててきた。物凄く可愛い。
「うん、頑張って練習したからね。見せてあげたいから早く勝負しようよ、カーディナル」
「えっ、あっ、うん……」
「俺が勝ったら泣き顔を見せてね」
「うえっ!?」
顔を覗き込まれたカーディナルが肯くと、とんでもない性癖を暴露するあんず。ようやく落ち着いた様子だったカーディナルの驚いた顔にニコッと微笑み、頭を撫でながら「俺、本気だからね」と恐ろしいことを告げる。前言撤回。ライバルになりそうにないと思っていたあんずの性癖にも、しっかりとカーディナルの可愛らしさは刺さっていたらしい。
要注意人物のリストに加えるしおんから離れ、カーディナルがあんずにカボチャを渡す。負けると泣かされることになったが、一体どんな方法で泣き顔を拝むつもりなのだろうか。そんな感情がありありと書かれている。好奇心を刺激されてドキドキしているカーディナルに、穏やかな愛想の良い笑みを湛えたあんずが「よろしくねー」と手を振る。
マイペースな中にサディスティックな部分を潜めるあんずにカーディナルが手を振り返した。「わー、かわいいー」とあんずが喜んだ後、二人同時にカボチャの軸を押して試合を始める。手を振り返しただけなのに褒められ、カーディナルが不思議そうに首を傾けて戸惑っていた。完全にあんずのペースに乗せられているが、大丈夫だろうか。
「えーっと、ジャンケンをするんだっけ?」
「うん、いくよー。じゃんっけん、ぽんっ!」
首を横に倒したあんずに肯いたカーディナルの掛け声で二人のジャンケンが始まる。結果はチョキを繰り出したカーディナルの勝ち。「よしっ、『フラムスタンプ』!」と、いつもの調子を取り戻したカーディナルが、好戦的に赤色の瞳を煌めかせて元気に叫んだ。赤く燃え盛る炎で出来た巨大な猫が、あんずの頭上に浮かぶカボチャにのしかかる。
千五百あったゲージを一気に九百まで減らした巨大猫が、喜ぶカーディナルの前に降り立って撫でてという風に頭を突き出した。主人であるカーディナルは熱さを感じない為、褒められたがっている巨大猫の頭を撫で回し、嬉々として額同士を合わせてグリグリし合う。猫とじゃれ合うカーディナルの可憐な光景に、わかばもあんずもしおんも固まる。
「おい、しおん。お前、ほんっとうにあんなに容姿端麗で、抱き締めたくなるほど可愛らしい人と、一緒に暮らしてるのか?」
「いいなあ。交替してよ、しおん」
「絶対にしない。同棲に辿り着くまでどれだけ大変だったと思ってるんだ」
開いた口が塞がらない間抜けな顔をしていたわかばとあんずに詰め寄られるしおん。ヒソヒソと訝しんでくるわかばに肯定し、立場を狙うあんずの額は軽く指で弾いておく。本当に今までの人生の中で一番苦労したのだ。この権利は誰にも渡したくない。
「おーい、あんず。続きやるよー」
「あっ、うん。いつでもいいよ」
「よーし。じゃんっけん、ぽんっ!」
集まってヒソヒソ話す三人にキョトンとしていたカーディナルに呼ばれ、慌てて戻ったあんずが掛け声に合わせて二回目のジャンケンを行う。結果はあんずの勝ちだった。初めて見るあんずの魔法に興味を惹かれたしおんは期待で胸をドキドキさせる。
あんずが発動した魔法は『セイクリッドティア』。あんずの呪文によって、カーディナルのカボチャの上にだけ、白く輝く神々しい光の雨が降り注ぐ。だが、特別な造りのカボチャの所為で、どのような降下を持つ魔法なのか、いまいち分からない。




