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「作戦を立てる時間なんか与えへんで。じゃんっけん、ぽんっ!」


「ああっ、やばい! また負けた!」


「いくで、『サンダーフェニックス』!」


 ようやく大技を出せるからか双眸を煌めかせたアイボリーが、ジャンケンに負けて焦るしおんのカボチャに魔法を唱える。飛行機ほどの大きさをした身体に炎と雷を纏った不死鳥が、迫力のある咆哮を天に向かって放つ。そして、鋭い眼光でカボチャを睨めつけ、物凄い速さで突撃した。容赦のない体当たりと炎と雷が襲う。

 特大の雷を落とすとかよりも心拍数を増加させられて、しおんはドキドキと早鐘を打つ心臓を抑えながら悔しさに歯を食い縛る。何だか負けた気分だ。というか、攻撃され続けていて、もうゲージが三百しかない。このままじゃ、本当に負けてしまう。しおんは焦燥に駆られた表情で、カーディナルに縋るような眼差しを向けた。


「カーディナル、俺が勝ったら何かご褒美をくれないか?」


「ご褒美?」


「頼む、アイさんが強すぎるから、何か闘志が漲るご褒美をくれ」


 買ったばかりのもふもふしてそうなクッションを抱き締めたカーディナルが、ご褒美を強請るしおんの言葉に面食らった表情で赤色の瞳を瞬かせる。以前、アイボリーに勝利したときは、同性の権利が掛かっていた。

 あれぐらいの緊張感や勝利の歓びがなければ、アイボリーほどの強者に勝てない実力なのかもしれない。しおんが頭を深々と下げて待っていると、「うーん」と悩んでいたカーディナルから待望の言葉を手に入れた。


「じゃあ、しおんが勝ったら、買い物中、手を繋いであげる」


「はああああっ!? そんなん許さへんで! ホンマにデートしてるみたいやん!」


「よっしゃああああっ! 絶対に勝つ!」


 クッションを抱いていた右手を前に突き出して柔和に微笑むカーディナルのご褒美に、アイボリーが目を大きく見開いて猛反対する中、まだ勝っていないのに快哉を叫ぶしおん。まだまだ必要なものがたくさんある今回の買い物デート。二人で仲良く手を繋ぎながら歩けば、アイボリーの言う通り更にデート感を醸し出すことができる。しおんは目の奥に闘志の炎を燃やして、苦虫を嚙み潰したような顔に不満を滲ませたアイボリーを睨めつけた。


「ナルちゃんと手を繋いで歩くなんて絶対にさせへんで!」


「何としてでもアイさんを倒してカーディナルと手を繋がせてもらう! じゃんっけん、ぽんっ!」


 睨み返してきたアイボリーの瞳にも闘志の炎が燃えている。ご褒美作戦は諸刃の剣だったらしい。それでも、しおんに勝利への欲望が生まれたのは事実。必ず勝ってやると意気込んで、ジャンケンの掛け声を担当する。二人とも気合い満々で手を繰り出した。

 結果はようやくしおんの勝ち。流石、カーディナルパワーである。パーで勝利したしおんはアイボリーのカボチャに向かって『シャドーアレーナ』を撃った。真っ黒な砂嵐がカボチャの周囲にだけ巻き起こる。今日初めてアイボリーのカボチャのゲージが千五百から千百に減った。


「やっと勝てたよ! ありがとう、カーディナル!」


「うえっ? ど、どういたしまして?」


「まだ勝負は終わってへん。その幸せ、ぶち壊したるわ!」


 キョトンとするカーディナルの両手を握り締めて縦に大きくブンブン振りながら感謝を述べるしおんに、アイボリーがムッと不平の気色を頬に漲らせて幸せそうな対戦相手に宣言する。残り三百しかない絶望的な状況なのに優位なしおんは、勝ち誇った表情でカーディナルから離れた。そして、苛立ちを露わにしたアイボリーの掛け声で何度目かのジャンケンを繰り広げる。


「あっ、負けた」


「はっはー! 調子に乗んな、ばーか! ばーか! 『エクレールタイフーン』」


 結果はしおんの負けだった。パーで勝利を決めたアイボリーが、魔法を容赦なくぶつけて、しおんのカボチャにトドメを刺す。カボチャの周囲にだけ巻き起こる暴風雨と、光ってすぐに落ちる無数の雷がカボチャを真っ二つにし、中から大量のお菓子を降らせた。個包装されたミニフィナンシェがしおんを床に押し潰して山を築いていく。


「ぎゃあああああっ!」


「残念やったなぁ、しおんくん」


 口角を裂けんばかりににんまりと上げたアイボリーが、床に倒れたしおんの前に屈んで勝ち誇った表情で見下ろした。カーディナルもしおんの近くに駆け寄ってきて、「フィナンシェ珍しいんだよね」と、幾つか山の中から鞄に詰め込み始める。少しも心配してくれていない。あっさりと黒猫を描いた食器をアイボリーに渡す。


「おめでとう。はい、アイさん」


「ありがとう。それは、そのままナルちゃんが持っとって」


「えっ?」


 アイボリーは食器を受け取ることなく立ち上がると、不思議そうに目を瞬くカーディナルに微笑む。そして、値札を見て財布から同額を取り出して、カーディナルが持ったままの食器の上に乗せた。やはり、アイボリーもカーディナルにプレゼントするつもりで買おうとしていたらしい。思い描いていたシチュエーションを奪われて歯噛みするしおんの視界で、アイボリーがはにかむように慈愛に満ちた双眸をふんわり眇める。


「俺からのプレゼント。いっぱい使ったってや」


「うん! ありがとう、アイさん!」


 よっぽど気に入っていたらしい。ぱあっと顔を明るくさせたカーディナルが、食器を持ったままアイボリーにギューッと抱きついた。それを受け止めてよしよしと頭を撫でたアイボリーは、物凄くご満悦な様子で愛おしそうにカーディナルを見ている。二人の間に醸し出されている甘い雰囲気は、とてもじゃないがしおんに割り込めるものじゃなかった。

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