②
「次、いくでー。じゃんっけん、ぽんっ!」
「また、負けたぁ!」
「ふっふーん。神様も同棲なんて認めてへんねや」
アイボリーの掛け声で同時に繰り出した手はグーとパーでアイボリーの勝ちだった。またもや『シザーライトニング』でカボチャに雷撃を食らわされたカーディナルが、ハラハラした表情で三百まで減らされてしまったカボチャを見上げる。
勝ち誇った表情で神様すらも味方に付け始めたアイボリーの煽りに拗ねるしおん。追い詰められているカーディナルの顔も中々にそそるがアイボリーに負けてほしくない。そんなしおんの願いが届いたのか、次戦のジャンケンにチョキで勝つカーディナル。
「やったぁ! いけぇ、『フレイムキャット』!」
「何でや、神様ぁ!」
パッと顔を輝かせたカーディナルの呪文により赤い炎で出来た猫の集団が出現し、頭を抱えて神様に叫喚するアイボリーのカボチャを引っ掻いたり体当たりする。可愛い人は魔法も可愛いらしい。しおんは両手で顔を覆って天を仰ぎ見た。その間に炎で出来た猫たちによってアイボリーのカボチャが九百まで削られる。
「もう、勝たさへんで。ナルちゃんと同棲なんて狡いねん!」
「完全に私情じゃん!?」
「当たり前や!」
眉間に皺を刻んだアイボリーが同棲を認めない理由に魂消たしおんを睨めつけた。当の本人は「アイさんも俺と一緒に暮らしたいの?」と目を瞬いている。そんなカーディナルへと飛びついてギューッと抱きついたアイボリーが頬を擦り寄せつつ、「当たり前やん。けど、ナルちゃんに一人の時間も作ってあげないとあかん。せやから皆、ナルちゃんとの同棲は我慢してるんやで?」と本音を吐露した。皆ということはしおんのライバルがアイボリーの他にも複数人居るということだろう。
「よく分かんないけど、ありがとう?」
「そういうことやから、同棲は認めへん。さっさと勝負を終わらせて、諦めてもらうで」
「それはしおんが可哀想だから、アイさんには悪いけど、俺が勝つよ」
スリスリと擦り寄られ抱き締められながら首を傾けていたカーディナルだったが、両肩に手を置いて言い聞かせるアイボリーを真っ直ぐ見つめて宣戦布告をした。自分の為に頑張って戦ってくれていることに感動と歓喜が沸き起こるしおん。胸から溢れて止まらない歓びに乗って今すぐ小躍りしたい気分だった。
「仕方ないな。そういうことなら、ちょっと痛い目に遭ってもらうで」
「それはこっちの台詞だ。じゃんっけん、ぽんっ!」
小さく溜息を吐いてカボチャの下に瞬間移動したアイボリーとカーディナルが手を出す。グーを繰り出しているカーディナルの手に対してアイボリーの手はパーを選出していた。「うぇぇ」と苦虫を嚙み潰したような表情で呟いたカーディナルの声と同時に、『シザーライトニング』がカボチャにトドメを刺しゲージをゼロにする。
瞬間、パカッと二つに割れたカボチャから大量の飴玉が降り注いだ。真下に居たカーディナルが「みゃああああっ!?」という猫みたいな悲鳴と共に、容赦なく背中で山を築き上げる多種多様な飴の中に埋もれてしまう。
「はーい、ナルちゃんの負け-」
「ふみゃあぁぁぁ」
飴玉に吸われて魔力がすっからかんになっているカーディナルを救出したアイボリーが、喜色満面な笑みを浮かべてグッタリとしたカーディナルを上機嫌に横抱きする。どうやらカボチャの中に詰め込まれた菓子は魔力を吸収するらしい。結構あった魔力を一気に奪われてされるがまま抱き上げられたカーディナルが、満悦な様子で鼻歌を奏でているアイボリーに疑わしそうな眼差しを突き刺す。
「なんでこういうときだけ運がいいのさ」
「だから、神様も同棲は反対なんやろ。ということで、ナルちゃんは罰ゲームとして、俺の家で強制お泊まり会けってーい!」
「しおん、ごめぇぇぇん!」
カーディナルを横抱きしつつ竹箒に跨がったアイボリーが緩すぎる罰ゲームを告げた。魔力切れで動けないカーディナルが申し訳なさそうにしおんへの謝罪を叫喚する。このままだと野宿確定なうえ、大好きなカーディナルを連れて行かれてしまう。正直、説明書を読み込んだぐらいでアイボリーに勝てるとは思っていないが、カーディナルを奪われるうえ野宿になるぐらいなら勝負を挑むしかないだろう。
「待て! まだ、俺が残ってる!」
「まさか、次は君が勝負をするつもりなん?」
「そうだ! 俺が勝ったら同棲を認めてもらう!」
今まさに飛ぼうとしていたアイボリーの前に立ち塞がって声を張り上げるしおん。機嫌を一気に降下させたアイボリーのギロリとした睥睨にも負けず首肯する。と、フッと鼻で嗤ったアイボリーが竹箒から降りて、カーディナルを木陰に寝転ばせた。そして、好戦的に煌めかせた双眸に苛立ちを燃やして口元に弧を描く。
「面白いやん。叩き潰したるわ」
「今更だけど、同棲って言い方、おかしくない?」
木陰に寝転んでバチバチと火花を散らすしおんとアイボリーを眺めていたカーディナルが、ゲームに夢中で忘れていた違和感にようやく気付いてポツリと呟いた。