②
魔法を撃つのも忘れて身悶えていると、「早く攻撃しろ!」と顔を紅潮させたカーディナルにバッグを投げつけられる。照れ隠しによる愛の暴力も、毎回、痛くないものを選んでくれるから、全く痛くない。好きだ。と心の中でカーディナルへの愛情を垂らしつつ、チョキで買ったしおんは『グラヴィティスペース』を発動。
浮かれているうえ上の空だったせいか、コントロールをしくじって、カボチャどころかカーディナルまで重力で地面に倒してしまった。「みゃうっ」と無意識に猫の物真似を続けるカーディナルにキュンとしつつ、重力に押し潰されているのが可哀想で慌てて魔法を解く。
「ごめん、カーディナル。大丈夫か?」
「しおんって毎回謝ってくれるよね。気にしなくていいのに」
ゲージをきちんと六百減らせたことを確認し、焦燥に駆られた表情で駆け寄ったしおんに、カーディナルが嬉しそうにはにかむように顔を綻ばせる。脱力させた身体を仰向けに横たえて、醸し出されている無防備な色香と裏腹に、無邪気で可愛らしい笑みを浮かべるカーディナルに心臓を貫かれた。
今日は何回、しおんの心臓を攻撃してくるのだろう。きっとカボチャみたいにゲージがあったら、既にゼロになって真っ二つに割れている。「よしっ、それじゃあどんどん続きやろっか」と起き上がったカーディナルが、悪戯っぽく口元に弧を描いた。カボチャのゲージを五百まで減らされているのに、まだまだ余裕の色を保っている。
「せーのっ! じゃんっけんっ、ぽんっ!」
「あっ、負けた……にゃ」
「いぇーい! いけっ、『フラムスタンプ』!」
苦々しい表情で語尾に猫の鳴き声をつけるしおんと裏腹に、弾んだ声で勝利を喜び炎を纏った巨大な猫を召喚するカーディナル。赤い炎でできた全身でしおんのカボチャにのしかかった猫は、点火して燃やそうとしているみたいにゴロゴロしている。一通りカボチャの上でコロコロと転がった後、雲散霧消。しおんのかぼちゃのゲージが千五百から一気に九百になった。
「もう一回、猫にしてやる! じゃんっけん、ぽんっ!」
「ああーっ、カーディナルの鳴き声が聞きたくて設けたルールなのににゃ!」
「しおん、かーわいっ。『ファイアプリズン』!」
ようやく勝てたことでヤル気を漲らせたカーディナルの掛け声で行ったジャンケンはまたもやカーディナルの勝利。しおんはグーを出した己の手を恨みながら頭を抱えて項垂れる。その間に、揶揄を孕んだ双眸を眇めて茶化してきたカーディナルが、しおんのカボチャを猫の顔の形をした炎の檻に閉じ込めた。茶目っ気全開で口元に弧を描くカーディナルもとてつもなく可愛い。
負けても茶化してくる可愛いカーディナルを見られるなんて最高すぎるルールなのでは? だが、そろそろカーディナルの鳴き真似が聞きたい。次こそ勝ってみせると気合いを入れたしおんは、小さく深呼吸をして心を落ち着かせつつキリッと顔を引き締める。「次、行くぞ。じゃんっけん、ぽんっ!」としおんが掛け声を告げると、チョキで勝利できた。
「よっしゃああああっ! 『グラヴィティスペース』」
「みゃあああああっ!?」
大袈裟なほど大きな声で勝利の雄叫びを上げたしおんが、カーディナルのカボチャの重力を操作した瞬間、ゲージがゼロになって真っ二つに割れる。しおん念願の猫の鳴き声を出したカーディナルが、底から降ってきた大量の個包装されたミニドーナツに埋もれた。「うう、おいしい」と魔力すっからかんになって動けないカーディナルが、悔しそうにミニドーナツを食べる。
うつ伏せに倒れているカーディナルの前に屈み込んで、しおんは足下に落ちているミニドーナツを拾った。ココア味のミニドーナツだ。そして、包装している袋を開けて中身をカーディナルの唇に押し当てながら、勝ち誇った表情で口の端を吊り上げて勝利宣言をする。
「俺の勝ちだな、カーディナル。買い物、ついて行かせてもらうから」
「何でそんなに一緒に行きたがるんだよ」
「そりゃあ、カーディナルとデートするチャンスだし」
唇に当てられたミニドーナツをもぐもぐ咀嚼して嚥下したカーディナルに、しおんは揶揄いの色を滲ませた瞳でニッと両方の口の端を吊り上げた。面食らった表情をしたカーディナルが照れるのを期待したのだが、同じように揶揄を含ませた双眸で茶化し返してきた。
「だったら、冷蔵庫に入ってる魔力回復薬、口移しで飲ませてよ。ダーリン?」
地面に両肘を突いて手を頬に当て、上目遣いで可愛らしく首を傾けたカーディナルが、茶目っ気を滲ませた瞳を細めて愛おしそうに顔を綻ばせる。冗談だと分かっている。揶揄われていると分かっている。そう、全部分かっている。瞳に浮かんだ愛情の色は偽物だ。
なのに、しおんの心臓はあまりにも大きすぎる傷を負って、一瞬だけ凍り付いたような感覚に襲われた。硬直して石像と化したしおんを、カーディナルが目を瞬いて人差し指で突く。炎魔法でもかけられたみたいに解凍されたしおんは、両手で覆い隠した顔で天を仰ぎ見た。




