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「カーディナルちゃんと同棲なんてずるい!」


「いきなり押しかけてきてどうした」


 映画鑑賞中に乱入してきた邪魔者にカーディナルが猫の顔の形をしたクッションを投げた。顔面で受け止めた男は黒い髪を揺らしてダークブラウンのソファーへと駆け寄る。L字型に置かれたそこに座るカーディナルの横に正座して眼鏡の奥の瞳を潤ませて叫喚した。男が喚き散らかしている内容をまとめたところ、しおんを羨ましく思っているらしい。我関せずと映画を見続けていたしおんはソファーに横たえていた身体を起こして立つ。

 折角、手に入れた同棲の権利を手放すつもりなどないし、三人暮らしなど反対だ。レイブンとカーディナルに呼ばれている男をこの家に上げない為、涙目で騒ぐ彼を睨めつけた。レイブンもムッと頬を膨らませて不満全開の表情をしながら、立ち上がってしおんを睨んでくる。カーディナルがジトッとした眼差しを二人に突き刺しながら面倒臭そうにテレビを消した。


「僕が勝ったらしおんくんのポジションを譲ってもらう!」


「俺が勝ったらカーディナルとの同棲は諦めてもらうからな!」


 レイブンとしおんはカーディナルの家の庭に出て互いに火花を散らす。カーディナルはポップコーンを食べながら窓辺に座っていた。今までの誰との勝負よりも負けられないゲームだ。苦労して手に入れた同棲の権利は絶対に渡さない。顔に険しい色を閃かせてカボチャを取り出したしおん。キリッと顔を引き締めたレイブンもカボチャを取り出す。

 同時に軸を押して成長させて互いの頭上に移した。今までにないほどの強さと量の闘志を溢れさせて、運命を決める拳にギュッと力を込めて神様に祈る。ジャンケンで勝たなければ何もできないゲームだ。緊張で汗をかいている手が勝負の全てを左右する。レイブンの顔にも緊迫感が滲んでいた。声を揃えて掛け声を告げる。


「「じゃんっけん、ぽんっ!」」


 近所迷惑なほど大きな声を合図に行われたジャンケンはしおんの勝ちだった。パーで勝ったしおんはレイブンの頭上に浮かぶカボチャに向かって魔法で攻撃する。パーの手で勝利した際に用いると決めている魔法は『シャドーアレーナ』。対象であるカボチャの周囲に真っ黒な砂嵐を巻き起こして攻撃する魔法だ。レイブンの頭の上に佇んでいるカボチャのゲージが千五百から千百まで削られる。


「まだまだ! 勝負は始まったばかりだ!」


「このまま一気に終わらせてやる!」


 お互いに勝利しようと気炎万丈だ。猛り立つ声色で同時に掛け声を叫喚し、つかみかからんばかりの勢いで手を繰り出す。またもやしおんの勝利だった。しおんは味方してくれている神様に感謝をし、レイブンのカボチャに向かって『グラヴィティスペース』を放つ。カボチャの周囲とレイブンの重力が変化して、地球に居ると思えないほどの重さになった。


 当然ながら立っていられなくなったレイブンが、悔しそうに歯を食い縛りながら地面にひれ伏す。家の中に居るカーディナルは今回巻き込まれなかったようで、二人の白熱した勝負に見向きもせず漫画を読んでいた。しおんはズカズカと大股でカーディナルに近付き、ムッとした表情で漫画を取り上げる。「あっ、何するのさ」と拗ねるカーディナルには、是非とも試合を見てほしい。


「俺はカーディナルに見ていてもらわないと頑張れない」


「そんな引き締まった顔でダサいこと言うな」


「僕も! 僕も見ててほしいな、カーディナルちゃん」


 漫画を返してキリッとした表情で本音を暴露したしおんに続き、地面にうつ伏せで倒れたままのレイブンも半眼のカーディナルに素直になる。しおんはルール違反にならないよう、レイブンの重力変化を解除した。それを見ていたカーディナルは、半眼ながらも少しだけ頬を色づかせ、瞳を伏せてしばらく考え込んだ後、視線を逸らしたまま呟く。


「俺が飽きないゲームにしろよ」


「任せて、カーディナルちゃん!」


「照れてるカーディナルもかわいい」


「撮るな、ばか!」


 ぱあっと顔を明るくさせて純粋に喜ぶレイブンと裏腹に、しおんは持っていたカメラですかさずカーディナルの照れ顔を撮る。更にカァーッと顔を紅潮させたカーディナルにクッションを投げられ、顔面で受け止める羽目になったが後悔はしていない。猫の顔の形をした黒いクッションをカーディナルに返し、すっかり毒気を抜かれて落ち着いたレイブンと向かい合う。

 お互いに真っ直ぐな瞳で見つめ合った後、またもや異口同音にジャンケンの掛け声を叫ぶ。冷や水を顔に被せられてすっきりしたのか、冷静な判断ができるようになったらしいレイブンの勝ちだった。しかも、レイブンはチョキの手だ。ガッツポーズをしたレイブンは「カーディナルちゃん、見ててね!」とカーディナルにチラッと視線を送ってから魔法を撃つ。


「『アイスピューピル』」


 シンプルな眼鏡を上にあげてしおんの頭上を見つめた途端、その位置に佇んでいたカボチャがカキーンと凍り付いた。どうやら裸眼で見た対象を瞬時に凍らせる魔法のようだ。特殊な製造のカボチャはすぐさま解凍されてしまったが、いざ、人間に使えば中々に強そうで恐ろしい魔法である。眼鏡をかけ直したレイブンの黒い瞳が、カボチャからカーディナルの方へと映った。褒めて、褒めてと全身でアピールしている。


「相変わらず、凄いね。レイブンの目」


「でしょー? えへへ、カーディナルちゃんに褒められた」


「カーディナル、次は俺も褒めて!」


「ジャンケンに勝ったらね」


 素直に感嘆の声を漏らしたカーディナルの賞賛にレイブンが顔を蕩けさせて喜ぶ。それに嫉妬したしおんも身を乗り出して自分を指差しながら主張すると、カーディナルが少しだけ面食らった表情をした後、相好を崩した。呆れたような満更でもなさそうな柔らかい表情に、しおんはうっかり見惚れて硬直する。カーディナルはお茶を取りに台所に行って気付いていない。


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