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「うぇぇっ!? なんで止めるのさ、気になる!」
「あっ、よかった。まだわかってなかった」
「あんなところで止められたら分かんないに決まってるでしょ!」
ホッと胸を撫で下ろすセルリアンの態度に頬を膨らませて不平を鳴らすカーディナル。それはそうだ。が、リーフグリーンやアイボリーと同じように愛情をたっぷり注いでいるセルリアンが、そう簡単に二度目を許してくれるとは思えない。案の定、セルリアンは悪戯気味に口元に弧を描いて条件に追加した。
「しおんが俺に勝てたら、さっきの続きを言っていいよ」
「しおん、がんばれー!」
「やばい。今なら神にでも勝てる気がする」
しおんはカーディナルからの激励を受けて幸せそうに恍惚とした表情を浮かべる。完全に先程まで漲っていた燃え盛る闘志は決意は薄れていた。これだと、もしもセルリアンに勝利したところで、勢いのまま告白なんてできないだろう。もう一度、削がれてしまった勢いと闘志を燃やす為に、しおんは白熱したゲームを繰り広げようと作戦を立てた。
「それじゃあ、続けようか。じゃんっけん、ぽんっ」
「よーし、勝ったぞ! 『シャドーアレーナ』!」
「あらら」
セルリアンの掛け声で行われたジャンケンはパーを出したしおんの勝利。しおんは大して焦っていないセルリアンのカボチャの周囲に真っ黒な砂を巻き起こす。『シャドーアレーナ』は攻撃対象を黒色の砂嵐の中に閉じ込めることで、視界を遮ったり触れただけで傷を負わせたり出来る魔法である。
リーフグリーンとカーディナルの勝負の際に聞いた手によって、使う魔法を変えるという提案を、しおんも取り入れることにしたのだ。セルリアンのカボチャのゲージが千五百から千百まで減る。しおんのカボチャと同じ数字だ。まだ引き離されていない。勝ち目はある。告白をするかどうかはともかく、同棲の権利だけはもう一度手に入れたい。しおんはキッと顔を引き締めて勝負に集中した。
「肩に力が入りすぎると勝てる勝負も勝てないぞー。じゃんっけん、ぽんっ」
「うぐぐ、少し力みすぎたか」
相手からの助言を聞かず行ったジャンケンはセルリアンの勝ち。それもチョキの手に巻けてしまった。「俺の勝ちだね。えいっ、『アクアラヴィーネ』!」と、セルリアンがのんびりとした口調でしおんのカボチャを攻撃する。
バケツをひっくり返したような量の水が、雪崩のように上からドドドドドと勢いよく降ってきた。流石に多すぎる水をカボチャ一つで受けきれず、しおんにも少しかかり「うわっぷ!?」と髪の毛を濡らされる。
セルリアンから借りたタオルで水気を拭ってから、闘志を取り戻しつつ行ったジャンケンは、チョキを繰り出したしおんの勝利だった。カボチャの周りにだけ照準を絞って、『グラヴィティスペース』という魔法を使う。これは一定範囲内にある全てのものの重力を変化させる魔法だ。
一応、カボチャにだけ狙いを定めたつもりだったのだが、やはり近くに居たカーディナルとセルリアンを巻き込んでしまい二人も地面に倒れる。重くなったからだが地面に倒れた際、「みゃうっ」と鳴いたカーディナルが物凄く可愛かった。カーディナルの猫みたいな鳴き声は可愛らしくていくらでも聞きたくなる。
片膝を突いて少し冷や汗を垂らしているセルリアンが、「流石、チョキに選ばれた魔法。凄い威力だね」と褒めてくれた。それに「えへへ」と顔を緩めたしおんだったが、カボチャ以外の重力も重くしてしまっていることに気づき、慌てて魔法を解除する。重力から解放された二人に駆け寄って、焦燥に駆られた表情で謝罪を述べた。
「ご、ごめん! 爆弾発掘ゲームでは、プレイヤーへの魔法攻撃は御法度なのに」
「いいよ、これぐらい。わざとじゃないんでしょ?」
「そうそう。俺だってしおんのことを濡らしちゃってるし、故意じゃなければルール違反にはならないよ」
立ち上がってローブの土を払ったカーディナルと、申し訳なさそうに眉を垂らしたセルリアンの言葉に、しおんは愁眉を開いて身体を脱力させる。ルール違反をすると何が起こるのか分からないが、何も罰を受けずに済みそうでへたり込んでしまった。
「ほら、勝負は終わってないよ」と、手を差し伸べたセルリアンの助けを借り、しおんは立ち上がって自分の陣地に戻る。お互いの残りゲージは同じ数字の五百。チョキを出せば一気に勝てるが、それを読まれて負けると詰んでしまう状況だ。
「じゃあ、いくよ。じゃんっけん、ぽんっ!」
「か、勝てた! 『ダークネスシャワー』!」
「ありゃりゃ」
グーで勝利を収めたしおんは困ったように苦笑するセルリアンのカボチャに『ダークネスシャワー』をお見舞いする。黒い無数の小さな棘がカボチャの斜め上から降り注ぐ。先程のことがありカーディナルに当たらないか不安だったが、特殊な製造方法で生まれたカボチャにより、『ダークネスシャワー』は無事に全て雲散霧消させられる。
そもそも、カーディナルが緊張感の欠片もない表情で座ったまま、ボーッと黒い棘の雨を眺めていた。いざとなったら魔法でどうにかできるのだろう。心配しすぎてしまった。しかし、カーディナルにはすぐ助けられるよう目の届く範囲に居てほしい、なんて思っている為、これからも過保護に心配してしまうのだろう。それも悪くない。
「セルリさん、いくよ? じゃんっけん、ぽんっ!」
「よっし、俺の勝ち。そう簡単にゲームは終わらせてあげないよ」
偶には自分からと調子に乗って掛け声を担当したからかグーの手に負けてしまった。『アフェクションシャワー』と唱えたセルリアンの声を合図にカボチャに水がかけられる。特に変化は起こらない。一体、どういう魔法なのだろうか。試しにカボチャから垂れる水に触れようとすると、カーディナルから「やめておいた方がいいよ」と注意を受けた。
カーディナルの説明によれば、『アフェクションシャワー』は魅了魔法のようなものらしい。水を被った人は一定時間の間、最初に視界に入れた人に惚れてしまうのだそうだ。ちょっとカーディナルにぶっかけてみたいと好奇心が疼く。と、そんなしおんに視線を刺したセルリアンがニッコリ笑みを浮かべ、「めちゃくちゃかわいかったよ」と意味深長な感想を告げた。
誰かに惚れたカーディナルを見たことがある者の台詞だ。狡い、俺も見たい。という欲望を闘志に変えて、しおんが勝ったらカーディナルに使ってもらおうと心に誓う。目の奥に炎を燃やして行ったジャンケンは、チョキを出したしおんの勝ち。
快哉を叫びながら繰り出したしおんの魔法『グラヴィティスペース』が、セルリアンのカボチャからゴリゴリとゲージを削ってゼロにする。爆発して真っ二つになったカボチャから、個包装されたビスケットが大量に降ってきた。欲望の力って凄い。




