第9話 ハインツ(ハインリッヒ)視点 縄を編む王女
☆☆☆帝国ザルツ皇宮
ジムザー王国の隣国、地域大国の、ザルツ帝国では、新たな皇子の誕生に、お祭り騒ぎだった。
「皇太子殿下に、男の子がお生まれになった!」
「「「「オオオオオオオーーーーー」」」
「「「バンザーイ」」」
・・・私は、帝国第二皇子、ハインリッヒ、義姉上が、男子をお産みになった。
喜ばしいことだ。
しかし、皇宮には、私がそう思っていないと勘ぐる輩がいるから、腹ただしい。
第2皇子、それは、スペアだ。
もう、スペアの必要がなくなった。
第3皇子も健在だ。
それで、国外に婿入りの話が来た。
「ハインリッヒ!そろそろ、婚約者を作ったらどうだ?この中から選べ」
父上から、釣書を渡された。
ジムザー王国の三姫、ミリーシャとベルダ、イメルダ、
「ジムザー王国に滞在し、この中から、選べ」
「御意・・」
「今は、父として話している。嫌なら・・」
「父上、私は皇宮を出たいのです」
皇宮には、私を担ぎ出そうとしている勢力がいる。
だから、婚約者は先延ばしになっていた。
私は帝位に、興味がないことを示すために、騎士学校に入学した。
弟は、同年齢の公爵令嬢と仲良く兄上と義姉上を支える予定だ。
「ベルダ王女が、相性がいいと思うぞ」
「しかし、下馬評では、イメルダ王女が王位を継ぐはずでは?」
「それは気にするな。ジムザー王女の中から選べ。王配になろうともならなくてもかまわない。できるだけ、気の合う令嬢を選べ」
父上なりの優しさだろう。
「あれ、父上、四人の王女がいたはずでは?」
「一人、王位継承レースから脱落をした。辺境に追放されたぞ」
・・・そうか、追放された王女は見るべきものがないだろう。
そして、私は、ジムザー王国に向けて出発した。
人生で唯一の自由旅行だ。
伴は五人、爺が一人と、騎士学校の同期だ。
ジムザー王宮に滞在し、三人の中から、生涯の伴侶を選べか・・・
ジムザー王国、代々、王は、大勢の妃を抱え。
王子、王女の後継者争いが絶えないと云う。
今のジムザー王も謀略で他の王子を蹴落とし、王位についたのだな。
ついに、国境に来た。
ここは辺境、帝国民と王国民が混在している地だ。
ああ、自由気ままな旅も半ばも過ぎた。
そろそろ、嫌なジムザー王国か・・・
それにしても寂れている。飢饉の影響か?為政者は何をしている。
と気が立っていたかもしれない。
横柄に、通行人に道を聞いた。
「おい、そこの赤毛の女、ジムザー王国への道はこちらでいいか?」
「・・・・・・」
「おい、耳が聞こえないのか?」
「あの、人に物を尋ねるのに、馬の上から、それは、ないでしょう。失礼ですよ!」
「「「!!!」」」
その通りだ。従者一同、馬を下りた。
「ご令嬢、失礼した」
私は、今度は丁寧に尋ねた。
イモ村を通るのが、近いそうだ。
「私の村なので、一緒に、行きましょう」
「ヒヒ~~ン」(お話終わった?)
・・・白馬?に荷馬車?アンバランスだ。
それに、お付きの老人は、剣の心得がある。警戒しているようだ。貴族か?
女は、背中にボウガンを担いでいる。
お付きの少女と老人だけの寂しい行商?
(殿下・・・あれは、アルサ、追放された第1王女ですよ)
(何だと・・・)
爺が小声で教えてくれた。
準男爵の屋敷に案内された。
やはり、領主のようだ。
「そろそろ、夕方です。こちらで、お泊まりしませんか?お食事を出せますよ」
「それは、有難い。私は帝国騎士ハインツです。些少ですが、宿代です」
・・・ここは偽の身分と偽名を名乗った。
「まあ、私は準男爵のアルサです。有難うございます!」
金を出したら、「ニヤ」と口角が上がり。スーと受け取り。メイドに渡した。
それで良い。金目当てなら、身ぐるみ剥ごうなどと考えないものだ。
(殿下、私は初めて、見ました。お礼をあんなに、自然体で受け取る令嬢は・・)
(それは、すごいことなのか?)
(いえ、分かりません)
その時、飛び込んでくる奴らがいた。
「アルサ様!すこしも、内政チートではありません!農民と一緒に作業をするなんて!帰らせてもらいます」
「はい、本当にそれしかないのよ。どうぞ!帰るのは自由よ」
話を聞いた。
「何か。『生活防衛ギルド』を作ったら、内政チートやら、領政チートとか言って、人が来るようになりました。本当に縄を編んでいるだけですわ」
面白い。
「是非、私達も、体験視察をさせて下さい!」
「ええ、いいですが、本当に、農民と一緒に、作業をして、物を売りに行くだけですよ」
一週間程度の骨休みのつもりだったが、
面白い。貸し付けや、店頭売買、冒険者ギルドへの卸売、
民の生活を始めて体験をした。
何にもない。本当にアルサ嬢の言う通りだった。
暇な時に、夜。屋敷に農民が来て、作業をするだと、
「うんしょ、うんしょ」
領主自ら、製縄機を回している。
「ご領主様!頑張れ!」
「アルサ様、もう少しです」
「王女様、頑張れ!」
私は涙が出てきた。
もう、ジムザー王国王宮に行く気は失せた。
心が射貫かれた。
民とともにある貴族、教科書に載っているような領主がいたとは。
「・・・ハインツさん。お腹いたいのですか?」
「いや」
爺を使者として帝都に返し。父上には、第1王女の元でしばらく過ごすと伝えた。
ダメなら、ダメと来るだろうが、この女に興味が湧いた。
返事が来た。見合いの件は、断りをいれたそうだ。
他に考えがあるとのこと。
(『アルサ王女を落してみせよ。後は何とかする』との伝言でございます)
いや、政略は別にして、共にいたい。この頃から、明確に恋心を抱くようになった。
・・・・・・
☆☆☆3年後、現在、
今は、アルサ王女の元で、指揮官として、農民奪還作戦の指揮を執っている。
「ジーク、アルサ!」
本村を襲った盗賊を捕らえたすきに、
違法人身売買の中継基地になっている村を襲っている。
「なるべく、殺すな!がアルサ様の命令だ!」
「「「ジークアルサ!」」」
農民解放軍と名前をつけて、役割を明確にする。
との事で、アルサ嬢の私兵、農民軍は、『農民解放軍』と名前になった。
「何だか、ファシストとコミュニスト、両方合わせたみたいになったけど、まあ、どっちも全体主義だからいいでしょう」
と時々、遠い国の話をされる。
前世持ちだろうか?
「ハインツさん。言い忘れたけども、私が、暴走をしたら、殺してね」
「何を・・・何を言う」
「もし、私に反対する村人たちに、ヒドイ迫害をするようになったら、私も権力の魔に取り込まれた証拠だから・・・」
「させません!」
アルサは、確かに村人に洗脳を使ったが、
自分でも知らないうちに、
独裁者というよりも、シャーマンのような存在になった。
古代の殷の女将軍、婦好のように、シャーマンと指導者を合わせたような存在。
共同体の進む道を示し。先頭に立って突き進むもの。
「アルサ様、やっぱり、村にとらわれた娘っ子たちがいました。いや~火を使わないで良かっただ!」
「火?そう、娘達の人数、名前を・・・」
「確認しただ。全員、開放しただ。他の村の娘っ子たちがいただ!」
「会います!」
村人たちは、アルサの大まかな指示を、趣旨を汲み取り、自分で考えて行動するようになった。
信頼関係がある証拠だ。
最後までお読み頂き有難うございました。