第8話 アルサ視点 ④盗賊来襲
最初の飢饉の年から3年目になった。
「「「チェストーーーー」」」
ガン!ガン!ガン!
農民達に示現流を教えた。時代劇の見よう見まねだ。
農民達が手に持っているのは剣じゃない。メイスだ。両手で使う。
農民達に高度な剣術は無理だ
より、簡単に使えそうな方法を考えた。本物はもっと奥が深いものであるのは疑いようもない。
示現流の関係者がいたら、ごめんなさいだ。
付け焼き刃も付け焼き刃。
この村で戦える者は猟師さんぐらいだ。
このような訓練をするのは、
娘さんがさらわれたからだ。
最初、人買いが来て、売らないと突っぱねると、その日のうちに、娘さんが拐かされた。
私のせいだ。
奴ら強力だ。どこかの領地騎士、冒険者みたいだ。
たった、10名で白昼堂々村に来た。
こちらは自警団30名以上で迎え撃ったが、農民3人死亡、重傷5名、その他、大勢軽傷だ。
かろうじて、撃退をした。
「グスン、グスン、私が騎士を用意しなかったから」
「無理だろう。この領地なら、騎士は雇えない。兵士10名がせいぜいだ。それも普通の年だ。凶作なら解雇が普通だ」
「ハインツさん」
「私も加勢するぞ!」
「帝国に帰らないのですか?」
「弱者を守ってこそ、騎士だ!」
「「「オオオーーー」」」
ハインツさんとそのご友人、研修に来られた帝国騎士さんたちだ。
「大変だ!盗賊団が今度は、大人数で来るって、ギルドの斥候職からの情報だ!」
ガンムさんが来てもらっている。盗賊専門の冒険者だ。今、一日銀貨1枚、戦闘日は2枚で来てもらっている。格安だ。
「抵抗したから、今度は大人数で、一気に来るって、どうやら、後ろに貴族が付いているようだ」
「そう・・・」
「どうするアルサ、俺はたとえ一人でも戦うぜ!」
「おい、呼びすてにするなよ」
「青っちろい宮廷騎士が!」
「何だと!」
・・・私は考えた。戦略は決まっている。逃げる。対匈奴の李牧先生だ。
しかし、逃げるにしても、村人全員、それに、村人に集団行動は無理、農作業程度しか経験していない。
軍隊レベルの集団行動は、明らかに無理だ・・・
私は決意した。悪魔の方法を使おう。
団結力が強くなる。
学校や、軍隊、警察でも行われている方法を、更に強化した方法・・・
☆☆☆数日後
「お~い。村人よ。出てこい!略奪免除税をもらいに来た!」
「娘と食料を出せ!」
盗賊団が約50人きたが、
村はもぬけの空だ。
誰もいない。
アルサの戦略は、
見張りを置き。盗賊が来たら、一斉避難を命令した。
避難先は、
「おい、あそこに、人の気配がするぞ」
「馬鹿、あそこは女神教会だ!襲ったら、聖騎士団から襲われるぞ!」
「領主屋敷に、人影だ」
「馬鹿、猟師が狙っている。猟師だけは警戒だ」
「塀が高いな」
「出てこい!」
「村に火をつけるぞ!」
「チィ、イモ畑に行くか!」
「イモ、収穫が終わった後じゃん!」
結局、罵詈雑言だけ浴びせて、盗賊団は帰って行った。
それが、何回か続いた。
「おい、今日は・・・何でいるんだ!」
すっかり気が弛緩して、軽武装、30名程度で来た時に、
村の中で包囲された。
村人全員だ。千人はいるだろう。
お手製の盾を持ち。メイスを持ち。
すぐ後ろで、投石用スリングをグルグル回し。いつでも撃てるように準備をしている。
「おい!農民ども!死にたくなかったら降伏しろ!」
「ぶった斬るぞ!」
剣を掲げ。大声で威圧をするが、
シーーーーーーン
農民達は反応しない。
・・・・・
【お~~~~い、お前らぶっ殺すぞ!どけろ!はあ、はあ】
盗賊達は、もう、何回言ったか分からない。
緊張する。いつもなら、一声で、ビビる農民達が、ゴーレムのように動じない。
不気味だ。
やがて、人が割れ、輿に乗ったアルサが現れた。
言葉を発せず。
手をあげる。
すると、
シュン!シュン!
石が360度から盗賊を襲う。
バキ!ボコ!バキ!
「ヒィ」
また、アルサは手をあげたら、
投石は止った。
「降参する・・・」
「名誉ある捕虜の扱いを求める」
たった一斉射で、
盗賊達は戦意を喪失して降参した。
偶然にも、アルサの取った戦法は、戦国時代の農民達が、落ち武者狩りに使用した戦い方と同じだ。
この方法なら、どんな強い武芸者でも討ち取られたと云う。
盗賊を縛り。連行すると、誰かが叫んだ。
「ジークアルサ!」
その言葉に、続くように、
「「「「ジークアルサ!ジークイモ村!」」」
「「「ヒィ」」」
盗賊は恐怖を感じる。盗賊は軍隊経験のある者もいる。
規律のある軍隊、いや、違う。狂信者の群れ。この農民達は死をも恐れないであろう。
アルサは、心の中でつぶやく。
・・・私は悪、絶対悪の方法を使っている。
自分を悪と思わなければならない。
実際に悪だ。
でないと、タブスタが生じる。
ある首相は20数年その座についた。
それを独裁だと批判する勢力の党首は、同じくらい党内選挙もせず君臨している現象が起きた。
彼らにとって、この世は性悪説、自分たちはその中の善人、善人の上意下達こそ民主主義となっている。
まあ、現在、性悪説も性善説も、たいした差はないとなっている。
性悪説でも聖人は認めている。性善説でも努力しなければ善は保てない。
私の使った方法は洗脳だ。
アメリカの高校で行われたサードウェイブ実験、
何故、当時のドイツ国民はナチスを受け入れたかの問いに、教師が行った実験だ。
挨拶は、ジークアルサ、ジークイモ村にした。
上位者に話す時は、必ずこの挨拶をする。
最上位のリーダーは私だ。
細かいルールを作り。個の意識を薄くする。
すると、実験通り一日で攻撃的な集団が出来上がった。
「セバンさん。私が暴走をしたら、殺してね」
「御意」
・・・セバンさんは、この危険性を分かってくれている。
☆☆☆数日後
捕虜虐待は行われなかった。取り調べも行われない。
食事はきちんと出された。
盗賊達は安堵する。
しかし、
縛られたまま奴隷商に引き渡された。
「奴隷商だと!」
「そんな。売られるのか?」
「おいくらになりますか?」
「そうですね。戦闘奴隷として、一人銀貨三十枚で如何ですか?」
「ええ、それで御願いします」
「待ってくれ、話す!さらった娘の行き先も話すぞ!」
「そうだ。まだ、盗賊はいる。この村で戦わせてくれ!」
「黒幕も話す!」
「もう、聞きたい情報はないわ。貴方たちが何回も来たから、斥候を雇って、後をつけたの。
貴方たちの本村は知っているわ」
「そ、そんな」
「今ごろ、スホル子爵家は、農民達が一揆を起こしているころよ。貴方たちのスポンサーよね」
この日、辺境の一領主、スホル子爵家とその寄子が農民一揆を鎮圧出来ずに、行方不明になり統治不能になる。
何故なら、領主を守るはずの騎士達とお抱えの冒険者は、アルサの村で盗賊としてとらわれているからだ。
その報に、王国はかまう余裕はなかった。
最後までお読み頂き有難うございました。