第7話 アルサ視点 ③助けない勇気
秋、収穫の時期を迎えた。
収穫高、前年比2~4割になった。
最悪だ。
「税金を、3割にします。それでも払えない方は申し出て下さい」
「「「オオオオオオーーーー」」」
意外だったのは、女神教会だ。
独自の直轄地を持ち。布教地から10分の1税を取るが、
この時は、減免してくれた。
いや、違う。
「私たちは、貧しい者の味方ですわ。税率20分の1でいいですわ。その代わり貨幣で御願いしますわ」
なるほど、麦は1.5倍に高騰しているから、増収だ。生かさず殺さずかもしれない。
いや、飢饉だから、前年比減収だけども、損切りか?どうせ減収になるのだから、農民達への人気を獲得し、損を最低限にしようとしたのかもしれない。
したたかだ。
村には、女神教会の建物はあるがシスターお一人。
たまに巡回される聖女様や司教様が、ここにお泊まりになる。
シスター様がお一人で葬儀や結婚式を執り行う。
昭和の初め、東北で飢饉が起きた。政府はまず銀行を助けようとした。農民には支援は行き届かなかった。
それが、226事件の原因の一つになるのよね。
その愚を私が犯すわけにはいかない。
麦は売らない。だから、現金がない。
この世界では、収穫時に商人に売り。それで一年分の予算を得る。
「セバンさん。ベッキーちゃん。お給金です。これから、どうなるか分からないので、一年分差し上げます」
「いりません」
「ヒィ、いらないのです!」
「どうして、お給金があるから、仕事に責任が生じます。だから、もらってもらわなければ困ります」
「時々、アルサ様は、まるで、転生者のような物言いをします。確かにお給金があるから、仕事をしますが、我らは主従、恩を受けたから返したい。それが今です」
コクコクとベッキーちゃんも頷く。
ご恩?したっけ?
「私は無能のセバンと言われて、クビになるところを、引き取って頂きました」
「グスン、グスン、無能メイドと言われて、虐められていたのを引き取って頂きました!同じ無能王女だから仲間よねって、ヒィ、ごめんなさい。申し訳ございません」
いや、二人は無能じゃないよ。セバンさんは、全体を見渡し、必要なことをやってくれる。
フィールドでは歩いていることが目立つが、チャンスにはサーと動くサッカーのメッシュさんのようで、
ベッキーちゃんは、器用じゃないけど、言われたことは必ずやる。
だから、金庫番をやってもらっている。
彼女の美徳は信用だ。
「わかったわ。お気持ちを頂きます。お給金は、現金で半額払います。残りは借用書を書きます。これ以上は、主人の矜持とし受け入れられません」
「「はい」」
麦はある。
パンは、都市部ではパンギルドが独占しているが、村では違う。
各家庭で作る。
今は非常時だ。
麦を世帯毎に配給し、その代わり、無償労働をしてもらおう。
と思ったが、農民達は自律的に領内の仕事をしてくれる。
貸し付けも強化した。一世帯ごと銀貨10枚まで引き上げる。
「まだ、ちょこちょこ来るわね」
「ええ、娘を売るか売らないかの瀬戸際のようです」
「ところで、アルサ様、隣の領主のスホル子爵家より招待状です」
「ええ、行くわ」
☆スホル子爵家
行ったら、子爵家とその取り巻きの領主がいた。
子爵夫妻は、私とベッキーちゃんをジロジロ見る。
「まあ、王都のドレスが見られると思ったのに」
「質素が美徳なのかな。平民の上等が着るドレスで我慢されているのだ。メイドも孤児かな?慈悲の心で雇っているのだよ」
貴族の嫌みはいい。
「ご用件は?」
「ほら、農民が餓死しない方法をご教示願いたい。少し、減りまして、来年の税収に影響が出るくらいなのだ」
「なら、貴家のガラスの温室を頂きたい」
「それは、これは大金貨数百枚(数億円)の価値のものです。物の価値をご存じないのですか?」
「ええ、知りません」
断って、退席をした。そう言えば、ドレス、ここに来てから購入してないな。
温室では花が植えてある。薬草、野菜を植えればいいだろう。
呼び出して助けて下さいはないだろう。
あったな。似たような経験が、
前世、勤め先で、物価上昇で業績不振に陥った優良企業から、融資を条件に業務提携をしようとの申し出があった。
しかし、ボスは断った。
『断った?何故ですか?帳簿上は優良ですが』
『あっちの方が、社員の福利厚生が充実してやがる。社員食堂がカフェで、ロビーにフィットネスが出来るように運動器具がおいてある。ほら、スマホ充電出来る自転車っぽい奴だ。
リストラもしていない。我社は苦渋の決断をして生き残っているのに、この会社を助けたら、我社の社員に申し訳ない』
400円の社員食堂のカレーを食べながら、ボスは言っていたな。
つい一年前は320円だったのに、
事実、その会社は、消えた。危機に弱い会社だったのだろう。
自分よりも良い生活をしている領主を助けるいわれはない。
また、仲間も出来た。
「何をすれば良いのか分からないのだ!今、領民には麦粥で我慢してもらっている」
ザクソン村のザクソンさん。騎士爵だ。
家も大きな農家と変わらない。
奥さんが、大鍋をお玉でかき回している。
「分かりました。異世界イモの種芋を差し上げます。栽培方法を教えます」
「助かる。しかし、麦はどうしても欲しい・・・金はない」
正直だな。
「騎士様なら狩りはお手の物ではございませんか?お肉と交換させて頂きます」
「分かった!」
ドサッ!
後日、届いたのは、クマだ。愉快な仲間ではない。不作で、森の猛獣も里に出てきているようだ。
クマはなじみのある食材ではないが、この世界、動物性タンパク質は貴重だ。
クマ鍋にして、領民達と食べた。
そして、年は明け、更に飢饉は深刻になった。麦の値段が、飢饉前、一キロ大銅貨2枚と中銅貨一枚(2500円)だったのが、銀貨一枚(一万円)を越える。
流民が我が領までやってきた。
「食べ物を下され~~」
『断る!』とは言えない。
「貴方のご領主に頼みなさい。しかし、せっかくここまで来たのですから、種芋と現金を差し上げますわ」
「スホル様は、何もしてくれないだ」
大銅貨一枚と異世界イモ、生のものをあげる。
逆恨みをして、放火などされたら、たまらないからだ。
「ここに住んで良いのは、この村に親戚のいる者だけです」
厳しいけど、助けられる者は限られている。
「自分の領主に御願いしなさい。領に帰って、山、川で食べ物を探しなさい。三ヶ月生き延びて、異世界イモが育てば、まだ、生き残るチャンスはあります。女神教会も炊き出しをしていますわ」
「そんな。ここの領主はお人好しだから、助けてくれるって、子爵様は言っただ」
カチン!
頭にきたが、この農民は悪くはない。素朴すぎるのだ。
やがて、盗賊化した流民も来るようになったが、
領民達は自律的に自警団を作って、24時間、畑や倉庫の警備をするようになった。
冒険者を雇い。領民に、投石や剣術や槍などを講習してもらう。
気がつけば、
付近の領で、逃散者が出なかったのは、私のアルサ領とザクソン村だけになった。
「是非、アルサ様に、領政チートの秘訣を教えてもらいたい!」
貴族の子弟が来るようになった。
ザクソンさんは、私のおかげであると言っているみたいだ。
ドサッ
金貨の入った小袋を積まれる。口角が思わず上がるが、
あれ、私って、何にもチートをやっていない。
ただ、やるべきことをやっているだけだ。
そう言えば、飢饉で餓死者が出るのは、ほとんどが人災であると聞いたことがある。
教えることが何もない。
どうしよう。
最後までお読み頂き有難うございました。