最終話、「ジーク!ジムザー!」
時間は、少しまき戻る。
アルサの父、ウヌバルが、北の離宮に到着した直後
☆☆☆北の離宮
・・・アルサめ。まだ、まだ、甘い。甘すぎる。
人の本性は、悪、人は、欲望によって、動くのだ。
悪だから、ムチとムチで縛らなければならないのだ。アメは策略で使うべきだ。
ワシが、在位、45年、この座にいられた意味を理解していないな。
北の離宮には、裏金が眠っている。
大粛正したときに、没収して貯めた財産だ。
最後の、兄弟を粛正した後、この離宮に隠した。
無論、この金は、ワシだけが知っている。
関わった役人は、全て、アルサの軍と帝国軍が来る前に、毒殺したからな。
その金で、帝国軍が去ったら、兵を集め。挙兵してやるわ。
「ウヌバル、着いた。さっさと、下りなさい」
「ウヌバルだと、貴様が口にして、いい名前ではないぞ。何!」
北の離宮に、農民どもがいる。倉庫が開けられ、裏金が運び出されている!
「「「「グシシシシシシシシ、ジークアルサ!」」」
「ウヌバル、裏金は全て接収させて、頂きました」
「な、何だと!どうして、知っていた!」
「私は、無能のセバン、最も、貴方は、気にもとめなかったでしょうが、私は無能なので、皆、置物のように扱います。私の前で、裏金のありかを、ペラペラ話していましたね?」
「何だと!」
「あの大粛正を生き残るには、無能を装うべきだと思いました。第1王子に仕えた兄上は、粛正され、家門は断絶、父上と母上は、身を削る思いで、私に教育を施してくれました。
まあ、私の恨み言はいい。これからの話をしましょう」
「愚かな。そんなに、あの女がいいのか?ワシが復権したら、宰相にしてやるぞ!そこの農民ども、大将軍にしてやる。皆、幹部にしてやるぞ!」
「「「「グシシシシシシシシ!」」」
「俺たちに大将軍なんて、出来るわけないだろう」
「アルサ様がいいな」
「何故じゃ。クーデターを成功させたのに、アルサは、お前らを、王宮の幹部にしない。悔しくないのか?
使われ損だぞ!それも分からぬ阿呆ではあるまい!」
「このジジ、本当にアルサ様の親父か?」
「あのな。アルサ様は、俺たちを認めてくれた。使い捨てにしなかった」
「そう、そう、飢饉の時に、泣きながら、娘を売らないように、算段してくれた」
「何か、魔術を使って、俺たちを戦闘ゴーレムにしたけど、それも可だよ」
「でなければ、死んでいたかもしれないからな」
「な、何だと」
農民達は、勘で、アルサが洗脳を使ったことをうっすらと理解していた。
「ウヌバル、人の本性は、悪だ。だからこそ、小さな善が、人を揺り動かすこともできるのです」
「そんな。アルサは、偶然だ。今年、たまたま豊作になっただけだ。そんな奴に国政を任せる事は出来ない!」
「ほお、それは、天に愛されているのだ」
「おい、ウヌバル、陛下とお呼びしろよ」
「さあ、北の離宮を耕しなさい。貴方が、決めた法律です。北の離宮の王族の生活費は、年銀貨100枚(100万円)です。貴方が物価高騰を放置しました。
耕さないと、飢え死にですよ。お前が嘲笑したイモを植えなさい」
「いやだ。ワシにそんな下劣なことをさせる気か!」
「あ、ウザい、ウヌバル、今日の晩飯は抜きです!」
・・・こやつは、敵対する者には容赦しない。
それだけの男よ。
飢饉でも裏金を開放しなかった。
しかし、この男の娘が、アルサ様だとは信じられない。
だから、殺すのだけは勘弁してやろう。
こんな奴でも、天寿を全うしなければ、アルサ様は悲しむからな。
☆☆☆数週間後
「セバンさん。ごめんなさい。報告が遅れましたわ。実は、ハインツさんと、婚約しましたの」
「セバン殿、婚約の報告に来ました」
「セバンさん。私、婚約しました!」
「初めまして、王宮官吏のヨハンです。こ、この度は、ベッキーさんを、下さい!」
「アハハハ、ヨハンさん。私は父親ではないですが、報告有難うございます」
陛下とベッキー殿が、生涯の伴侶を連れて、来られた。
嬉しいことだ。私は、ウヌバルへの復讐で生きてきた。
だから、家族を持たなかった。
「ところで、お父様は?」
「はい、今、畑を耕しています」
「ウヌバル公、さあ、陛下が来られましたよ」
「ウウウ、アルサ、ヒィ、陛下・・・」
「まあ、すっかり、痩せて、健康的になったわ!私、常々、お父様は、早死にするのではないかと心配していましたわ」
・・・お父様、すっかり、健康的になって、
「セバンさんのおかげだわ」
「とんでも、ございません」
「はい、父上、雑穀の種を持って来ました。健康に良いのよ」
「セバンさんには、上着を持って来ました。私が選んだのだけど、寒くなったら着てね」
「有難うございます」
私は、もう、過去の人間だ。
太陽のアルサ様とは、今生の別れだ。私は、ずっと、ここにいよう。
「フフフフ、忙しいから、毎日はこられないけど、定期的に来ます。そうだ、足りない物はありますか?
お金とか足りてますか?」
「大丈夫です。銀貨100枚、辺境なら、農家よりも上です。お父上は、農家の生活を楽しんでおられます」
「まあ、そうなのね」
やがて、北の離宮の庭が耕作されているのを見て、満足したアルサは、去った。
・・・・・
アルサ一行が去った後、セバンは豹変する。
「おい、ご褒美をあげます。今日は、スープを出してやります」
「ウウウウウ、有難うございます」
アメとムチで、すっかり、ウヌバルは大人しくなった。
☆☆☆
私は、ついに、農民解放軍の洗脳を解くことにした。
皆には、ボーナス、銀貨30枚渡して、王都観光を楽しんでくれた。
「あら、皆様、ドレスや、服を買ったのね。お土産かしら」
「ええ、娘と女房に」
「俺はネックレスだぜ」
農民達が、辺境に帰る日、
私はスピーチをした。
「・・・・敵は去った!これからは、家族を守る防衛戦闘だ!」
「「「「ジークアルサ、ジークアルサ!」」」
そして、ある国の独裁者が、紅衛兵を解散したときのフレーズを言う。
「野に下れ!農民達よ!」
「「「「ジーク、ジムザー!」」」
「「「ジーク、イモ村!」」」
以後、アルサは、実務者の話をよく聞き。まるで、大船を動かすように、慎重に国政の舵を取る。
資金を市場に流し、一時、物価高は上がった後、収束を迎えることになる。
失政もあるが、成功もある。全体で見れば成功、緩やかな成長曲線を描いた。そんな統治であった。
アルサは、視察を好み。王国中を王配ハインリッヒとまわる。
その仲睦まじい姿は、国民から愛され、各地で大歓迎を受けた。
アルサもハインリッヒも生涯愛人を作らなかった。
ジムザー王国の歴史では珍しいことだ。
以後、これがスタンダートになる。
在位25年で、王子に座を譲り。
隠居し、余生はハインリッヒと幸せに暮らしたと伝えられる。
特筆すべきことは、
いつの頃からか、この国の者は、感極まったときに、「ジーク、ジムザー!」か「ジーク」の後に、人名を並べて叫ぶようになった。
それを聞くと、アルサは、
何とも言えない顔になったと云われている。
最後までお読み頂き有難うございました。