第10話 アルサ視点 ⑤王国軍来襲
盗賊問題が片付いたころ。
義妹、ベルダの使者が、このイモ村にやってきた。
「えっ、騎馬合戦?」
まあ、いわゆる貴族の決闘だ。王の許可を受けた貴族が、紛争を武力によって決着をつけるのがならいだ。
「私は、ベルダ殿下の副官、ザワードと申します。王宮で、アルサ様がベルダ殿下の挨拶を無視したことがございましたね。
著しく、名誉を汚されました。その決着をつけたいとのことです」
「まあ、分かりました。でも、一応、聞きます。女神歴何年何月何日のことですか?」
全く覚えが無いっていうか、ほとんど王宮では会わなかった。
「それは、どうでもいいです!受けるのですか?受けないのですか?」
「はい、受けません。代わりに私の全財産を差し上げます」
「ほお、素晴らしい」
・・・・
ドン!
と私のドレスとネックレス、自分用に作った縄、私用の予算、銀貨252枚(252万円)を出した。白王号ちゃんは勘弁してもらおう。あの子は、ベルダに懐かなかったからいいだろう。
「はあ?大金貨数万枚(数百億円)はあると見積もっていますが!謀りますか?」
そんなに、小国の国家予算規模などあるわけないでしょう。納得しないので、説明をした。
「生活防衛ギルドは、法人です。農民達のものです。私の財産ではありません。領地をかけますか?ベルダは化粧料もっているけど、それはここよりも広大なはずでしたが・・・」
「屁理屈を!なら、奪うまでです」
「あの、騎馬合戦は、お互いに、名誉と財産を賭けるもの。私が、勝ったら、ベルダは何を提示しているのですか?」
「はあ?貴女たちに勝てる道理あるわけないでしょう?こちらは、第1騎士団ですよ!」
さすがに、周りで聞いていた農民やハインツさんが怒りだした。
「御使者殿、いくら、何でも無礼だろ!」
「「「そうだ!我らがアルサ様を侮辱するな!」」」
「あの、勝ったら、私は何がもらえるの?」
「既に、村々は見てきました。騎馬もない農民軍、プッ」
「このハインツがいるぞ!」
結局、私が、勝ったら、何をもらえるのか。提示されないで、戦端が開くことになった。
「セバンさん。叔父様に手紙を出して!きっと、道行く先で、徴用をすると思うから」
「畏まりました。ザクソン卿にも警戒するように伝えておきます」
ベルダが特別ヒドイわけじゃない。この世界の戦争は、基本、現地調達だ。
今の状況では、兵糧はだせまい・・・
で、結局、
辺境の入り口の小山に、砦を築き。ここで、迎え撃つことになった。
「ゲシシシシシ!ジーク、アルサ、やってやります。目に物見せてやります!」
と息巻いているのは、ほんの数ヶ月までは、気のいい村長さんだった。
頭頂部が少し寂しいので、まるで、凶悪な野武士のように見える。ゴホン。
「ところで、糞尿問題はどうしようかしら」
「ジークアルサ!敵に投げつけてやります!」
数百人がこもるのだ。食料、水、エール、薪、
数日間、実験的に、砦にこもったら、結構、糞尿がたまると判明した。
領主屋敷にこもったときも、すぐに、おトイレがいっぱいになったが、その比ではない。
そう言えば、楠木正成は、敵軍に糞尿を投げつけたと伝説があるが、あれは本当だろう。
貯まるし、処理しなければならない。
って、何で、うら若き女性が、糞尿問題を考えているのだろうか?
勝ったら、私は何がもらえるの問題は棚上げになり。
ついに、ベルダたちがやってきた。
「アルサ様、近隣の村人たちは、食料を持って、女神教会、山に避難完了です」
「セバンさん。有難う」
セバンさんは、細かいところをやってくれる。助かる。
ベッキーちゃんは、物資の管理をしてくれている。助けられてばかりだ。
あれ?敵軍に違和感がある。
「少なくない?」
「おそらく、脱走兵が出たのでしょう」
来たのは、およそ千人だ。
おそらく、数千人は、脱落したのだろう。
「使者が来ました!」
「あのザワードです」
奴は、砦のすぐ下まで来て、叫ぶ。
「今、降伏したら、許してあげます!食料!羊と牛を寄越しなさい!」
バチャ!
「ギャ!」
私は、肥柄杓で、ザワードの顔面に、糞尿を投げつけた!
奴は、一目散に逃げやがった。
「「「ギャハハハハハハハ!」」」
「いいぞ!」
「ジークアルサ!さあ、お言葉を!」
「諸君!敵は、食料を欲しがっている。既に腹ぺこだ!あえて、言おう!ウンチまみれにしてやれ!と・・・・」
「「「ジークアルサ!」」」
「「「ジークイモ村!」」」
いや、ヒドイ演説だよ。
☆
一方、ベルタは、騎士に徒歩で、砦を攻めさせる愚を犯した。
攻城戦の用意はしていなかった。数百人がこもる砦である。
簡単に決着がつくと思っていた。
「何をしている!アルサごときに、攻めあぐねるとは!」
「木が落ちてきたり。落とし穴があります。ただの砦に見えて、巧妙に仕掛けが施されています。それに、糞尿まで投げつけます。衛生上の問題です。早急に綺麗な水が必要です!」
元々は開拓民、個々に土木スキルが身についていた。
彼らは、普段の開拓作業のように、砦にワナを施していた。
「一日で落せ!持久戦はできないのだぞ!徴用隊はどうした!」
「殿下!近隣の諸候が来てくれました!騎士爵の旗です!」
「うわ、矢が飛んできた!敵です!」
しかし、それは、アルサ側のザクソン騎士爵であった。
☆☆☆砦
私は脳内会議をしていた。
お前のやっていることは、楠木正成の尻尾だよ。
なら、尻尾の戦い方、ご覧あれ!
フッ、楠木正成は敗れたのだぞ!
そうだ。楠木正成の千早城は、結局、落城したのだ。
どうしよう。
アワワワワワ~~~
としていたら、3日目には敵は撤退した。
ザクソンさんと砦前の平原で面会をする。あれ、女神教の司祭様とシスター様も来られている。
「有難うございます!有難うございます!有難うございます!」
ザクソンさんは言う。
「自衛ですよ。私戦なのに、徴用という名の略奪行為をしようとしたから、そちらに加勢したまで、それに・・・」
「「「「ヒヒ~~~~ン」」」(ねえ。僕たち、どうなるの?)
「馬を鹵獲できましたから、収支トントンです」
ほお、さすが騎士様だ。聞くに、ベルタ発行の借用書、勝ったら、返しますねの書面で、食料を徴用しようとしたそうだ。
「数頭、お売りできませんか?」
「ええ、半額でいいですよ」
白王号ちゃんの仲間も欲しいし。騎士様用の馬なら、馬だけに馬力はあるだろう。
騎士の視点で、アドバイスをもらった。
「騎馬合戦は、負けた方は平民落ちになり。縛り首になります。脱走兵は死刑です。野盗化する心配がありますね」
「なら、騎馬合戦の勝利者の条件として、ベルダの助命と、脱走した騎士の赦免を要求します。
すると、帰れるところがあるのだから、野盗化はしにくくなるでしょう」
これも、セバンさんに手配をお願いした。ベルダの上司、王国騎士団総長に書状が届けられる。
ミーン!ミーン!
「蝉の声、それにしても、暑いですわね」
「ええ、今年は暑くなると農民たちは言っています」
「はっ、もしかして、今年は豊作では?」
私は、女神教会の司祭様に、お聞きした。
「もう既に、去年から、不作を抜け出している地域もあります。豊作になっています。この事をお伝えに参りました。戦勝のお祝いは、中立の立場では言えませんからね」
女神教会ネットワークだ。
「何故、この情報を?」
「次の政権ともパイプを持ちたいですから」
シスター様は、この領地でも炊き出しをしてくれた恩人でもある。
こんな泡沫候補の私にまで、もしかして、を考えているのか。
私は、必要な分以外の麦を売りに出した。
まだ、麦は高騰している。今のうちだ。
やっぱり、お金はあった方がいい。
結構なお金が集まった。
そうだ。お金があって、何に使っていいか分からなかったら、教育に投資だ。
テラコヤを作った。
教師は、手配が終わるまで、ハインツさんのご学友にお願いした。
帝国人だが、王国と同じ言語を使う。
文字の読み書き。計算、そんな程度だ。
しばらくすると、王宮から、使者が来た。
「辺境を良く治めたので、褒賞する?」
かくして、私は、王都に旅立つことになった。
金はある。
農民解放軍も、洗脳を解いて解散させよう。
で、王都に行ったら、女王に奉戴されてしまった。
いくら、過去を鑑みても、私が女王になる理由が分からない。
転生者なのに、少しもチートをしていない・・・何故?
最後までお読み頂き有難うございました。