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入った廊下から手近な部屋から順に様子を伺うと、ウダ・カズオの部屋らしき部屋を見付けた。
寝室として使われていないらしく、ベッドは片付けられている。だが部屋は埃を被っていない。机には酒屋のバーや小規模酒蔵等の副業に関する書籍が数冊と吸い殻のある灰皿が置かれていた。
書斎のような物か。
ざっと探すが実家らしく、中高生までの暮らしの品々の残りがいくらか棚や押し入れにあり、それより多少は目立つ位置に大学か専門学校時代の品々が置かれていた。
それ以降の品物は時代をスキップしたように種類が少なく、酒屋の仕事に関する物と、あとは車関係とアウトドアと草野球、そう多くもないがオンラインゲーム? のテキストやグッズ。古臭いしまわれたままの洋楽のCDアルバム。やはりしまわれたままの20年は前のグラビアタレントの写真集。それから・・ん?
小さな段ボールの中にあったのは子育てに関する書籍だった。
「子育て、だと??」
妻に関する品は卒業アルバムのみだった。私は思い立ち、隣の部屋を調べると、寝室だ。枕は2つあり、1人の物ではない。夫婦の写真が飾られていた。書籍の方で年代順の写真を確認していたからわかる。
これは、ウダ・カズオとその妻の寝室だ。2人には子も1人いるようだ。
この妻は大学か専門学校時代の写真からウダ・カズオと写っていた。
「どういうことだ? ダブル不倫? いや、それにしては形跡が無さ過ぎないか??」
私は困惑したが、サイドテーブルに夫婦共有らしいノートPCに目を付けた。
閉じた背面にメモが貼ってあり、パソコンのパスワードだけでなく、2人が利用しているいくつかの通販サイトやゲームか何かのパスワードまで書いてある。
「無用心過ぎるぞ、ウダ・カズオ」
私はパスワードを入力し、迷わずパソコンのメールを確認した。
「っ!」
ビンゴだ。妻からのメールだ。妻からはこれは、タブレットPCかっ。妻は家ではほぼ使っていないい上に寝室に持ち込み、出掛ける時はプライベートでも鞄に入れてゆく。盲点だった。
確認する!
「・・・なんということだっっ」
妻は、同窓会を切っ掛けにウダ・カズオとその妻とメル友になっていたっ! PCとタブレットでメル友とはっっ。今時、いや、むしろ程々の距離か?
酒屋故に勧める商品の画像等を纏めて送ったりもしている。スマホより見易いということか・・
妻の方はチャコの画像を大量に送っていた。
私は困惑に困惑を重ねながらメールを確認を続けると、ある時期、妻が恋愛相談を主にウダ・カズオの妻にしていたっ。
彼氏が再婚を申し込んでくれたけど、子供達や年齢的に気が引けてしまって、彼は職場の後輩だし・・
「再婚、だと??」
この相談に、うっかり共有しているウダ・カズオも答えてしまい、やや気まずいやり取りの流れになった後、3人の間でこの話題は話されなくなっていた。
目眩がした。
「ジュゥゥゥゥ・・・」
人間への変容が揺らぐ。
そんな気配は無かった。いや、自分の色恋を家庭に持ち込まないようにしていたのか? 思えば妻はかなり慎重にタブレットPCを持ち歩いている。職場で顔を合わせているのならプライベートな連絡を全てそれで済んでいたんだろう。
「ウダ・カズオではなかった・・だがっ、私の、妻でありながら! 年下の男と結婚しようとしているのかっっ??」
信じられない、あってはならない、あってはならない、あってはならないことだっ!!
(ゾウリムシ・ゲノムディア。ああ、ヤマダ・ダイスケでしたか。聴こえますね)
不快なテレパシー。サボテン・ゲノムディアからだ。口振りからして姉妹の内、先日対応した個体だろう。
(・・なんだ? まだ調整期間中だ)
(機嫌の悪い思念ですね。貴方、まず調整受けてませんね? 支部から私達に文句を言われましてもね)
(そんなくだらないことを知らせてきたのか?)
死にたいのか?
(違います。総帥ではありませんが、クィーンバラ・ゲノムディア様からの支援要請です。貴方の反応がS県の近いポイントにあったので。援護に行ってもらえませんか? どうも文科省の試作パワードスーツを着た部隊にクィーンバラ・ゲノムディア様の閥のナス・ゲノムディアが苦戦しているようで。無派閥の貴方は頼み易いんですよね)
(条件がある。私の今回の妻達は失敗だ。事後処理を頼む)
(またですか? 肉体の調整もですがカウンセリングも推奨します。あまり派手な個人活動はヤツらに狙われますよ? 内通者の特定もまだできていませんし)
(どうでもいい。死にたくなければ協力しろ)
(ああ、はいはい。結局そう来るんですね。わかりました。後処理はしましょう。任務を果たせば好きにして下さい。ただ、調整は受けて下さいね?)
(全て、終わったらな)
私は不快な思念を切り、ウダ・カズオの家を離れた。
ナス・ゲノムディア。文科省ごときに遅れを取るとは無能なヤツ。だが助けてやろう。
失敗した妻の処理なくして、次の妻は見付けられはしない。