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第101話、文化祭①

 ――その日がやってくる。


 文化祭の当日、朝。


 俺は最後の確認の為に、いつもの登校時間よりもずっと早くに教室へ来ていた。


 内装は問題なし、メニューもポスターも準備完了、小物の配置も完璧だ。食材の用意も昨日の内に済ませて調理実習室の冷蔵庫の中にしまってある。


 この日が来るまで本当に苦労した。

 何事も計画通りには進まないものだと改めて実感する。


 けれどそんなトラブルを乗り越えた事でクラスのみんなとの絆も深まり、俺の中でも文化祭を成功させようと気持ちが一層強くなった。


 前世の社畜時代も色々なプロジェクトに携わってきたが、ここまで本気になって一つの事に取り組んだのは初めてだ。


 デザインの決定、予算の確認、分担作業での進捗管理、トラブルが起きた時の対応策立案、社畜時代に経験した事やその時に得たスキルが文化祭の準備でも大いに役立った。


 そのおかげで俺はクラスのリーダーとして、文化祭に向けてみんなをまとめる事が出来たのだから。


 あとは当日を無事に乗り越えて成功の喜びを分かち合うだけだ。この晴れ舞台を最高のものにしようと気持ちが高ぶってくる。


 窓の外を眺めると雲一つない青空。

 今日はたくさんの人達が文化祭を楽しみにしてこの学園に来てくれるはずだ。


 そんな大勢を迎える為に装飾された校内。

 昇降口には手作りのアーチやボードが綺麗に並べられ、廊下の窓や壁にはカラフルな飾りつけが至る所に施されている。


 各教室もそれぞれのテーマに合わせた様々な装飾が綺羅びやかに彩り、まるで遊園地のような空間が広がっていた。


 俺達の教室も花やバルーンなどで華やかに飾り付けられて、黒板には女子がチョークで描いた可愛らしい文字に、壁や窓にもきらきらとした綺麗なモールを張り付け、机や椅子は喫茶店らしく配置し直されていた。


 今はまだ静かな学園だが、文化祭開始時刻になると校舎にたくさんの人が押し寄せるはずだ。


 想像するだけで胸が躍る。

 俺も高校生らしく浮かれてしまっているみたいだ。


 前世で仕事漬けだった頃は、どんなに楽しくても何処か一歩引いてしまう自分がいた。きっとそれは冷め切った心がそうさせていたのかもしれない。


 けれど転生して二度目の青春をやり直している今は、前世では感じる事の出来なかった様々な感情が湧き上がる。


 真白や玲央達と過ごすこの時間が本当に楽しいと心から思えるからだろう。自分の感情を素直に受け入れて楽しめるというのは本当に幸せな事だ。


 そうして教室から窓の外を眺めていると、廊下から弾むような明るい声が聞こえてきて、俺は笑顔のまま声の方へと振り返った。


 今日は朝早くから真白と一緒に登校してきた。


 メイド服の最終チェックをする為で、真白は俺にその姿を見せたいと言ってくれた。


 それもあって教室でずっと真白を待っていたわけだが、さっきの声の様子からメイド服の着替えが終わったのが伝わってきた。


「真白、準備出来たか?」

「うんっ、ばっちりだよ! どう、似合ってるかな?」


 俺の前に現れた真白は照れたように頬を赤く染めながら、嬉しそうにスカートを摘んで一礼してみせる。


 そんな真白の可憐な姿と上品な仕草に見惚れてしまった俺は、上手く感想を言えないまま固まってしまった。


 ふわふわの白いフリルがたくさんあしらわれた可愛らしいメイド服に、ハートの形をした純白のエプロン、膝まで隠れる清楚な黒いスカート。白くて可憐なストッキングが彼女の細い脚をより綺麗に見せている。


 そして頭にはメイドさん定番のホワイトブリム。真白の綺麗な黒髪とよく合っていて、本当にお伽話に出てくるような可愛いメイドさんそのものだ。


 それでいて天使のような愛くるしさもあり、真白の可憐な容姿とメイド服の相性は抜群で……思わず溜め息が漏れてしまう程に綺麗だった。


 そしてメイド姿の真白はスカートを翻すようにくるりと回ってから俺に向けて満面の笑顔を見せる。


 ふわりと舞い上がるスカートは咲き誇る花のよう。


 眩いくらいの可憐な笑顔と清楚なメイド姿の組み合わせはあまりにも魅力的で、見ているだけで心が洗われるようだ。


 たった二人きりの教室。

 真白のメイド姿を独り占め出来る優越感に浸っていると、彼女は悪戯っぽく笑って俺の前へと歩み寄って来た。


「あは、龍介。さっきからずっと固まってるね? びっくりしちゃった?」

「いや、だって真白のメイド姿……最強に可愛すぎるから。こんなの見惚れるなって言う方が無理だ……」


 俺が頭をぽりぽりと掻きながら正直な気持ちを言うと、真白は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに視線を逸らして俯いた。


「やばっ……顔が熱くなっちゃった。りゅ、龍介と目が合わせられない……っ」

「今日はいつもに増して照れてるな? 大丈夫か、真白?」


「え、えっとね……龍介にメイド服着てるところ見せるの、実は結構緊張してて。似合ってなかったらどうしようかなって、不安で……」

「それでもしかして予想以上の良い反応が返ってきて、いつもより照れてるわけか?」


 俺が言うと真白はこくこくと頷き返す。

 それによく見ればスカートの裾をきゅっと掴んでいて、どうやら口元がにやけるのを抑えているようだ。


 真白がメイド姿を俺に披露するなんて初めての事で、しかもその着ているメイド服は手作りで一から裁縫して作ったものだ。


 そんな想いの詰まったメイド服を、俺から褒められた事が真白にとって本当に嬉しかったのだろう。


 こうして俺の言葉一つで真白が喜んでくれるのはとても嬉しい。つい俺も恥ずかしさを忘れて顔が緩んでしまった。


 それから俺達は二人で見つめ合ってはにかみ合う。


 真白の天使のような微笑みを朝から見る事が出来て、俺は最高に幸せな気分になった。


「嬉しいよ、龍介……。やっぱりわたし、龍介に褒めてもらえるのが一番幸せ」

「ああ、すごい似合っている。真白のメイド姿は世界一だ」


「えへへ。龍介ったら大げさなんだから。でも、ありがとう。わたし、今日の文化祭はメイドさんとして頑張るね!」

「おう、頑張ろうな。俺も全力でサポートするから」

 

 真白はメイド服の裾をふわりと翻して、いつものとびきりの笑顔を見せてくれる。


 実は朝から俺もかなり緊張していたが、こうして真白と一緒にいるおかげですっかり肩の力が抜けていた。


 真白と二人きりの教室、そして窓から差し込む陽射しは心地良い温かさで俺達を包み込む。


 まるで俺達の文化祭を祝福してくれているかのように思えて、最高の文化祭が始まる予感に胸を躍らせた。

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