5.婚約破棄しましょう
場が治まり、身体測定の順番が回ってきた。
ここで見るのは魔法の力だ。
なんでもいいから魔法を使って、今の自分がどれだけ魔法を扱えるか見てもらう。
本の中でスレイヤは、得意の水の魔法を披露した。
しかし直前のフレアの存在が大きく、あまり注目はされなかった。
適当でいいかな。
どうせ、みんなフレアのことで頭がいっぱいだ。
聖なる力を操る女の子。
そっちに集中してくれて全然構わない。
私はそれなりに見せて終わらせよう。
「アクアランチャー」
生成した水を高圧縮して放つ水の魔法。
私は右手をかざし、前方で水の球体を生成し、用意された的に放った。
軽めを意識したつもりだった。
けど、放った直後に悟った。
「あ……」
アクアランチャーは的を破壊しただけでなく、背後の壁も貫通して粉砕してしまった。
「な、なんだあの威力……」
「スレイヤ……?」
「……」
やり過ぎた。
というより、修行しすぎちゃった。
自分がどれだけ強くなったのかは、こうして客観的に測らないとわからないものだ。
意図せず注目を浴びながら、私は反省した。
◇◇◇
「……はぁ」
入学式が終わり、帰り道。
私は大きくため息をこぼす。
いきなり盛大に失敗してしまった。
本当は目立たず終わらせる予定だったのに……。
「変に注目されたくないんだけど……」
やってしまったことは仕方がない。
これから気を付けよう。
そう考えていたところに、駆け寄る一つの足音。
「スレイヤ! もう帰ってしまうのかい?」
「……」
声をかけてきたのはアルマだった。
本の内容だと確か、身体測定が終わったあとにフレアと話をするはずだけど……。
時間的にそれも終わった後か。
本では記載がなかっただけで、一応私の元に来ていたみたいだ。
頑張るわね。
けど……。
ふと思う。
明日から気を付けようと思ったけど、それでいいのだろうか?
もう失敗して、目立ってしまった以上、これから大人しくしたところで無意味だろう。
ならいっそ、攻めに出てみるのも手かもしれない。
「さっきの魔法すごかったじゃないか! いつの間にあんな力をつけていたんだい?」
「……そうね、そうよ」
「スレイヤ?」
どうせこの数日後、私は彼に婚約破棄を告げられる。
理由は言わずもがな、フレアに一目ぼれしたからだ。
彼の言い分は確か、真実の愛を見つけた……だったかな?
勇者たちはお気に入りのキャラクターだけど、正直アルマのことはあまり好きじゃない。
前提として、婚約者を一度捨てているから。
そういう私怨が私の背中を押す。
未来が決まっているのなら……。
「アルマ、婚約を破棄したいなら構わないわよ」
「え……」
私のほうから、突き放してしまおう。
唐突な一言にアルマは言葉を失う。
だけどすぐに正気を取り戻し、尋ねる。
「何を言っているんだい? 急にどうして」
「あの子に一目ぼれしたんでしょ? 言わなくてもわかっているわ」
「――っ!」
図星だから、なぜ気づいたという顔をする。
わかりやすい男だ。
清々しいほどに。
「見てればわかるわよ。あの子が好きなら追いかければいいわ」
「ス、スレイヤ……これはその……」
「違わないでしょ? あの子に会って、随分と熱視線を送っていたものね」
「うっ、いや……」
言い返せもしないアルマに、私は呆れた。
少しでも私を好きな気持ちがあれば、何かしら反論するだろう。
それもない。
ということはつまり、最初から好意なんてなかったんだ。
なら、終わらせてしまおう。
こんな偽物の関係は。
「さようなら、アルマ。頑張ってあの子の気を引けばいいわ」
「スレイヤ!」
「私とあなたは他人よ。だからもう……話しかけないで」
私は彼に背を向け歩き出す。
どんな顔をしているのか、引き留める気はあるのか。
もはやそれに興味もない。
私は生きる。
生きるために、必要ない者は切り捨てよう。
彼らとの関わりなんて一番いらない。
魔王との戦いも、他所でかってにやればいい。
私は関わる気はない。
ただもし、関わってしまうのなら……。
その時は――
「魔王だって倒してみせるわ」
破滅の終わりを回避する。
そのために、私は強くなったのだから。
ここまでが短編の内容です!






