31.主人公の出番
「昨日は上手くいったみたいね」
「おかげ様でバッチリ回収できたよ」
「そう、よかったわ」
「ん? なんだかあまり嬉しそうじゃないね」
「嬉しいわよ」
そんなことはない。
メイゲンとライオネス。
二人の戦いは思った通りに進んでくれたらしい。
これで二人の問題は解決できた。
とても順調、喜ばしい。
「それにしては元気がないね」
「……わかるでしょ」
疲れているのよ、私は。
いつもの中庭で、木の幹を背もたれにして座り込む。
昨日の疲れがどっと押し寄せる。
結界の中で七日間ぶっ通しで戦ったんだ。
一日休んだ程度で取れる疲れじゃない。
「しっかりしてくれ。まだ折り返し地点にも達していないぞ」
「わかってるわよ」
「ちょっとベルさん! スレイヤさんはお疲れなんです! 休憩の邪魔しちゃダメですよ! はい、スレイヤさん、あーん」
「……恥ずかしいからやめて」
今はお昼休み。
お弁当のおかずを食べさせようとしたフレアを止める。
彼女は涙目になってしまう。
「えぇ! せっかく作ってきたのに」
「食べないとは言ってないわ。自分で食べられるから平気よ」
「でも、疲れてますよね? 朝からずっと元気がありませんよ」
「心配いらないわ。疲れもそのうち回復する」
別にどこか怪我をしているわけじゃない。
ただの疲労。
休息をとれば回復する。
もっとも、あまり悠長に休んではいられないのだけど。
昼食を終えたところで、ベルフィストが私に尋ねる。
「で、次のターゲットは?」
「ベルさん! まだ休憩中です!」
「いいのよフレア、先に進めるべきだわ」
「スレイヤさん、休んでからのほうが……」
彼女は心配そうに私を見つめる。
心配してくれるのは嬉しいけど、のんびりはしていられない。
おそらく、ベルフィストは理解している。
私は彼と目を合わせる。
「ライオネス、メイゲン、私は二人の心の隙間を埋めたわ。その影響は間違いなく、他の勇者たちにも及ぶ」
「そうだとも。近しい者だけじゃない。力と力は引き寄せ合う。すでに彼らは出会ってしまったみたいだからな。遅かれ早かれ、互いの変化に気付く」
「ええ。そして……私たちにたどり着く。気づかれるわけにはいかないのよ」
私たちのアドバンテージは、心の隙間の理由と対処法を知っていること。
だけど、人の心なんてコロコロ移り変わる。
変化していく。
それがいい変化か、悪い変化なのかは別として。
私たちの知らないところで心が変化してしまえば、私たちのアドバンテージは消える。
皆がそのままでいるうちに決着をつける。
そのためにも、休んではいられない。
「休むなら全部が終わった後でゆっくりするわ」
「……倒れないでくださいよ」
「気を付けるわ。ただ、これから頑張らないといけないのは私じゃないわ」
次のターゲットも決まってる。
彼の心の隙間を埋めるためには、私じゃきっかけを作れない。
こういう時こそ、彼女の出番だ。
私の視線はフレアに向く。
「私ですか?」
「ええ、そうよ」
次なるターゲットは、天才魔法使いビリー。
勇者の中で唯一の平民であり、悲しい過去を抱える人物でもある。
彼の攻略は、今までのように戦いでは解決しない。
まずはきっかけ作りだ。
そのために。
「ビリーをデートに誘ってほしいの」
「で、デート!」
今度はフレア、あなたが頑張る番よ。
◇◇◇
新入生の中で最も魔法使いとしての才能を持つビリー。
彼は少し変わっている。
原作でも、あまり他人と関わろうとしない。
しゃべるのは勇者たちと、主人公であるフレアだけだ。
それも必要最低限でしかない。
彼はいつも、図書室にいる。
一般科目と魔法科目の一部授業を免除されている彼は、図書室で一人本を読んでいた。
彼以外誰もいない図書室は静かだ。
ペラっとページをめくる音と、窓から吹き込む風の揺らぎだけが聞こえる。
そこに、彼女はやってくる。
「こんにちは! ビリー君!」
「フレア……」
主人公と勇者が二人きりで出会う。
親交を深めるための個別イベントだ。
原作でもビリーとの交友のきっかけは、この図書館だった。
方向音痴なフレアが迷い込み、そこにビリーがいた。
「どうしたんだ? 今は授業中だろ?」
「えっと、道に迷っちゃって……気が付いたらここに来てたんです」
「迷った? もうずいぶん経つのに道を覚えてないのか?」
「はい。あはははは……」
少しわざとらしいけど、セリフは完璧だ。
原作でも聞いたセリフをフレアが口にしている。
その様子を、図書室の窓の外からひっそりと観察する。
「ここ、図書室ですよね? ビリー君は授業受けなくていいんですか?」
「俺は授業の一部を免除されているんだ」
「そうなんですね! あの、少しお話しませんか? ずっとビリー君とお話してみたいなと思っていたんです」
「……そうだな。どうせ授業には間に合わないし」
二人は隣り合った席に腰かける。
その様子を、私とベルフィストが見守る。
「中々いい雰囲気じゃないか?」
「そうなってもらわないと困るのよ。何せこの後……」
フレアがビリーをデートに誘うのだから。
正確には、彼を街に連れ出すことが彼女の役割だ。
主人公らしく、上手くその天才をのせてね。
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