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3.強くなろう

 スレイヤ・レイバーン。

 彼女の役割はハッキリしている。

 主人公に敵対するもう一人のヒロインであり、数々の嫌がらせをして主人公を困らせる。

 周りの男性を奪おうと画策したり、権力の全てを利用して主人公を陥れようとした。

 地位もあり、最初はスレイヤが優位に進める。

 しかし失敗が続き、徐々に学園での地位を失い、最終的には魔王に加担してしまった。

 完全な敵となった彼女は、魔王の命令に従い主人公たちを追い詰める。

 自らの地位を奪った主人公に復讐するために。

 だけど、最後には魔王に裏切られて殺されてしまうんだ。

 多くを救った主人公が、たった一人救えなかった人物。

 最後の最後まで、悪役として生き抜いた。

 そんなキャラクターに……私は生まれ変わってしまった。


「はぁ……」


 食事を終え、自室に戻った私は力なくベッドに倒れ込んだ。

 違う違うと思いたかったけど、手に入る情報がどれも、私の運命を暗示しているように感じてしまう。

 私はもうすぐ十五歳になる。

 来年、王立ルノワール学園に入学して、私は出会うだろう。

 この物語……いいや、世界の主人公に。

 主人公と共に世界を救う五人の勇者たちにも。


「……」


 どうする?

 このまま平穏に一年過ごして、学園に入学する?

 そうして出会ってしまえば、私はもう逃げられないんじゃないの?

 いや、でも、あれはあくまで本の中のお話だ。

 私はスレイヤじゃない。

 スレイヤのような選択をしなければ、破滅の未来は訪れない。


 ……はずだ。


 ごくりと息を呑む。

 私自身が考えを否定するような寒気を感じる。

 物語は七部に構成されていた。

 共通である序章と、各勇者たちを選んだ場合の結末。

 そして最後の章は、全ての勇者を選んだ際にたどり着く本当の終着点。

 どの選択肢に進もうとも、スレイヤの運命は変わらない。

 主人公が誰を選び、共に進もうとも……。

 スレイヤは必ず敵対し、魔王に加担して主人公たちを追い詰め、結局は裏切られて死ぬ。

 その運命に変わりはなかった。

 まるで、お前は死ぬために生まれてきたのだと、運命に告げられているように。


 私が感じた悪寒は、おそらくそれだ。

 仮に私がスレイヤとは違う道を選んでも、結局同じ未来が待っているんじゃないかという不安。

 逃げても、変わらなくても、私は魔王に殺される。

 物語を進めるための材料に使われる。

 そうなる予感がした。

 いいや、なぜだか確信が持てる。

 このままでは、私は必ず不運な死を遂げるだろう。

 物語のスレイヤのように。

 そして……一度死んだ前世の私のように。


「……嫌だ」


 強く思う。

 一度ならず二度までも、不幸な死を迎えたくはないと。

 せっかく生まれ変わったんだ。

 絶対に不幸な未来にたどり着きたくない。

 どうすればいい?

 ただ逃げるだけじゃ足りない?


 だったら……。


「強くなろう」


 答えは単純だった。

 スレイヤの死は、魔王と関わることで完結する。

 どういう形であれ、魔王によって殺される。

 そういう運命なんだ。

 それなら簡単だ。

 私が、魔王を倒せるくらい強くなればいいんだ。

 死の元凶が魔王ならば、魔王さえ倒せれば私は死なない。

 魔王を倒せるくらい強ければ、他の何かに殺される心配もない。

 そう、強くなればいい。

 主人公よりも、勇者たちよりも、魔王よりも強く。

 

 なってみせる!

 必ず生き残って、幸せになるんだ。

 今度こそ――


 誓いを胸に、時は流れる。


 一年後――


  ◇◇◇


「忘れ物はないかしら?」

「はい」

「しっかりやるんだぞ。まぁ、スレイヤなら大丈夫だろうが」

「わかっています。それじゃ、行ってきます」


 両親に見送られ、私は屋敷を出発した。

 学園の制服に身を包み、馬車に揺られて王都の主要部へ向かう。

 生まれ変わって一年が経過した。

 私は予定通り、王立ルノワール学園に入学する。

 

「……ようやく、ね」


 一年はあっという間だった。

 厳しくも激しい日々を過ごし、私は自らの成長を実感する。

 魔王よりも強くなる。

 そう決意して、毎日のように訓練した。

 あの性格の両親だったから、私の性格の変化もそこまで疑うことなく接してくれた。

 ほしいと言えば手に入る環境も役立って、修行する場所や相手にも困らなかった。

 剣術、槍術、弓術、その他もろもろの武術系。

 魔法も含めて完璧にマスターしたと自負している。

 元々スレイヤは貴族出身で、生まれながらに優れた才能を持っていた。

 彼女の性格が違えば、物語の中でも主人公や勇者に匹敵する英雄になれただろう。

 そういう記載が本の中にあったほどだ。

 一年間の修業を経て、今の私は間違いなく強くなっている。


「さぁ……」


 もうすぐ始まる。

 私の運命を決める出会いが。

 序章が。

 心の中で気合を入れて、私は入学式が行われる会場に向かった。

 会場は学園の敷地内にある。

 馬車で行けるのは学園の入り口まで。

 敷地内は徒歩での移動となり、関係者以外は立ち入れない。

 たとえ親類であっても、名のある貴族でも、無関係なら部外者として扱われる。

 言わばここは聖域だ。

 私は会場を目指して一人で歩く。


 さて、そろそろタイミング的に……。

 

「スレイヤ」


 思ったところで声をかけられた。

 優しく少し高い声色で私の名を呼びかける。

 振り返った先にいたのは、美しい金髪の優しそうな男性だった。


 私が、この世界が本の中と同じだと確信した理由は、私の家や学園の存在だけじゃない。

 スレイヤには婚約者がいた。

 それこそ、今私に声をかけた人物であり……五人の勇者の一人。


「アルマ・グレイプニル」

「ん? どうしたんだい? いつも通り、アルマと呼んでほしいな」


 彼はニコッと笑う。

 アルマは私の、スレイヤの婚約者だ。

 少なくとも今は……。


「なんだかいつもと様子が違うね。ここ最近は僕の家にも来てくれなかったし、長く体調でも崩していたのかな?」

「……そんなことありません」

「――! なんだか冷たいね。本当にどうしたの?」


 素っ気ない態度をとる私に、アルマはキョトンと首を傾げる。

 その反応にもなるだろう。

 本来のスレイヤは、彼にだけ猫を被っていた。

 自分をよく見せようと上品に振舞って、人懐っこく接していた。

 普段を知っている彼からすれば、今の私はさぞ不自然だろう。

 だけど、これでいい。


「失礼します」

「え、ちょっと、スレイヤ?」


 私は彼と関わる気はない。

 なぜなら彼は、主人公を支える勇者の一人だから。

 スレイヤの婚約者がどうして主人公の味方になるのか?

 簡単だ。

 彼はこの後、運命の出会いを果たす。


「あの、すみません」


 私たちは呼び止められた。

 今度は女性の声だ。

 振り返るまでもなく、それが誰かわかってしまう。

 この出会い方こそ、本の中の流れと一緒だから。


「入学式の会場はこっちで合っているんでしょうか? 広すぎて迷ってしまって……」


 ゆっくり振り返った私に、申し訳なさそうな顔で尋ねる。

 銀色の髪に透き通る青い瞳。

 男女問わず見入ってしまう雰囲気を持つ彼女こそ、この世界……いや物語の主人公。

 光の聖女フレアだ。

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