21.水と油?
後編スタート!
主人公の友人キャラクター。
数々の物語に登場し、悩み苦しむ主人公の気持ちを後押ししたり、窮地に颯爽とかけつけたり。
脇役だけど、物語に絶対必要な位置にいる存在。
いわゆる準主役の位置に、本来敵対するはずだった私が立ってもいいのだろうか。
そんな疑問は吹き飛んだ。
彼女の……屈託のない笑顔を向けられて。
「これからよろしくお願いします! スレイヤさん!」
「……ええ」
温かくて優しい手だ。
私と違って、女の子らしい綺麗な白。
この手を最初にとるのは、勇者の誰かだったはずなのに。
その役目を奪ってしまったわね。
「ふふっ、スレイヤさんの手、あったかいですね」
「……あなたには負けるわ」
こうして、私たちは友人になった。
◇◇◇
放課後になる。
授業が終わり、皆が帰宅する時間。
空もオレンジ色に染まり始めた頃に、私は中庭に訪れた。
もちろん一人じゃない。
彼女も一緒だ。
大切な話をするために、誰もいない場所に移動したかった。
他人に聞かれるわけにはいかない。
「秘密のお話、楽しみです!」
「楽しいようなことじゃないわよ」
「そうですね。悩みごとですから、ちゃんと聞きます!」
とことん明るい。
この明るさが、彼女の持つ大きな武器だ。
「ところで……この人は誰ですか?」
「ようやく聞いてくれたね」
秘密の話をするんだ。
当然、私とフレアの二人だけじゃない。
秘密の共有者はもう一人……彼がいる。
「さっきからついてきて……もしかして怪しい人ですか!」
「ひどいな君! 俺のどこが怪しいんだ?」
「見た目です!」
「ストレートすぎる……」
「ふふっ」
思わず笑ってしまう。
こういうやり取りは原作にもあった。
陽気で捉えどころのない発言をするベルフィストに、フレアが天然なツッコミを入れる。
悪気がないからグサリと刺さる。
目の前で魅せられると、本の内容を思い出してしまうな。
「スレイヤさん、この人もいて大丈夫なんですか?」
「ええ、一応……協力者よ」
「協力者……」
フレアが不安そうにベルフィストを見つめる。
ベルフィストは咳ばらいを一回して、改まって名乗る。
「俺はベルフィスト・クローネ! 彼女の婚約者だよ」
「こ、婚約者?」
「違うわよ」
「あ、よかった」
あっさり否定した私の横で、なぜかフレアがホッとしている。
「ちょっとスレイヤ、酷いじゃないか! 俺たちは将来結婚する約束をしてるんだぞ?」
「え、そうなんですか?」
「……そうね。近い話はしてるわ」
約束というよりは契約に近い。
お互いの望みを叶えるために要求を飲み合った。
「けど、婚約はしていないわよ」
「似たようなものじゃないか」
「違うわ。複雑なのよ」
「複雑にしたのは君のせいだけどね」
「お互い様でしょ?」
私とベルフィストのやり取りを、フレアはじとーっと見つめる。
なんだか不満そうな顔だ。
「未来の花嫁だよ」
「今のところただの協力者よ」
ベルフィストと私の意見は一致しない。
彼は私に視線を向け、そこは未来の夫と言ってほしいとか軽口をたたく。
私はそれを無視する。
面倒くさいから。
「……スレイヤさん、この人やっぱり危ないと思います」
「そうね。私も思うわ」
「酷いな二人して!」
主人公としての勘かしら?
彼が危険なのは本当よ。
だって彼の正体は……物語のラスボスなんだから。
「変人だけど協力者なのは事実よ」
「将来結婚することもだぞ」
「……そうね」
私の安全を守ってくれるなら、彼と結婚することに抵抗はない。
全ては私が、この世界で生き抜くために必要なこと。
そう納得している。
けど、隣で納得いかない、と顔に書いてある人がいた。
「スレイヤさんは、この人のことが好きなんですか?」
「別に」
「そんなさらっと……」
だって本音だから。
好きか嫌いかで言えば、嫌いなほうだし。
正直に嫌いと言わなかっただけ優しいと思ってほしいわね。
「だったら! こんな人よりスレイヤさんにはもっと相応しい人がいると思います!」
そう言って彼女は私の腕に抱き着く。
まるで……。
「その相手は自分だと、言いたげな顔だな!」
「――! そ、そんなつもりはありません! 私はスレイヤさんのお友達として、あなたみたいな人は認めません!」
「お前の許可など必要ないと思うが!」
「あります! 大切なお友達のことですから!」
二人の間でバチバチと視線が交錯する。
主人公とラスボス。
水と油。
決して混ざり合わない二つの存在を……こうして出会わせたことは失敗だったかもしれない。
「はぁ……」
この先、上手くやっていけるだろうか。
不安でしかなくて、ため息をこぼした。






