20.主人公と悪役ヒロイン
「……スレイヤさん」
「貴様……」
私はライオネスの手首をつかむ。
互いににらみ合い、場ばピリピリと緊張感で包まれる。
「離せ」
「あなたが離しなさい」
「貴様……誰に向かって言っている?」
「あなた以外にいないでしょう?」
お互いに一歩も引かない。
無理やり引きはがしたいけど、純粋な腕力ではライオネスが優勢。
大人しく離せばそれでよし。
ただ、彼は引き下がらないだろう。
「立場をわかっていないようだな」
「同じよ。この学園の中では対等……外でも、同じ貴族でしょう?」
「ふっ、同じ? 馬鹿を言うな貴様。貴様ごとき中流貴族の娘と、このオレが同格であるはずがないだろう?」
「……離す気はなさそうね」
だったら仕方がない。
少し痛いけど、我慢しなさい。
「ボルト」
「――っ!」
バチっと彼の手首に電流が走る。
たまらずライオネスはフレアの腕を離した。
自分の手首を守るように握り、私のことをギロっとにらむ。
「貴様……」
「離さないあなたが悪いわ」
「……その態度、物言い……やはりお前は気に入らない。多少魔法が使える程度で、調子に乗っているようだな!」
「多少……じゃないわ。あなたよりはずっと上よ」
私の煽りは確実に、ライオネスの心を刺激する。
その証拠に、彼の表情が明らかに変化する。
「いいだろう。なら見せてもらおう。スレイヤ・レイバーン! オレと決闘しろ」
「け、決闘!」
「いいわよ」
「スレイヤさん?」
即答した私に、フレアは心配そうな顔を向ける。
私は彼女に囁く。
「心配いらないわ。私……これでも強いのよ」
あの魔王と、激戦を繰り広げられるくらいにはね。
ライオネスはニヤリと笑みを浮かべる。
「決まったな。今すぐ始める。ついてこい」
「ええ」
「ちょっとライオネス!」
「止めるなメイゲン。このオレをコケにした罪、その身で償ってもらわねば釣り合わん」
引き留めるメイゲンを振り払い、ライオネスは先頭を歩く。
私とフレアもそれに続く。
呼ばれたのは私一人、彼女は授業を受ければいいのに……なんて、この状況では言えないわね。
ちょうどいいわ。
この戦いを見て、彼女がライオネスと親密になる可能性を減らせればいい。
それだけ?
私は単に、イラついてライオネスを止めたような……。
「ここだ」
「訓練部屋ね。許可はとっているの?」
「無論だ。オレの手にかかれば許可など簡単に降りる」
「本当かしら」
どっちでもいいわね。
「手早く終わらせましょう」
「その余裕、すぐに消え失せるぞ」
私とライオネスは距離を空けて向かい合う。
互いの後ろにはフレアとメイゲンが心配そうに立っている。
「相手を戦闘不能にする。もしくは降伏させることが勝利条件だ」
「ええ」
「決闘は何かをかけるものだ。敗者は勝者に従う。それでいいな?」
「構わないわ。どうせ勝つのは私だから」
「――後悔するなよ」
ライオネスの魔力が膨れ上がる。
さすが貴族の嫡男、魔力量は常人のそれを凌駕する。
けど生憎、私はそれ以上のものを知っている。
「あれを見た後だと、可愛く見えるわね」
「燃え盛れ! バーンストライク!」
ライオネスの前方に魔法陣が展開され、炎の渦が私に放たれる。
炎が衝突すると同時に、竜巻のように上昇する。
「スレイヤさん!」
「ふっ、この程度か。所詮は口だけの……」
「ぬるいわね」
私は腕を振るい、炎を蹴散らす。
「――!」
「こんな炎じゃ魚も焼けないわよ」
私が煽る。
ライオネスは苛立ち、大きな舌打ちと同時に新たな魔法を発動する。
「メテオストライク!」
彼の背後に無数の炎の球が生成される。
それが私の周りを取り囲み、一斉に放たれ着弾する。
爆発と煙が舞う。
が、当然私には通じない。
無傷の私が煙の中から現れ、ライオネスは驚愕する。
「馬鹿な……」
「ぬるすぎるわ。本物の炎は――」
私は右手をかざし、手の平に魔法陣を展開。
吹き出す業火が立ち上り、巨大な剣のような形を作る。
「こういうものよ」
私は炎の剣を振り下ろす。
ライオネスは横に大きく跳んで回避した。
いい判断だ。
もし受けていたら火傷じゃすまなかったわよ。
「よく躱したわね」
「っ、なめるな!」
ライオネスが炎を身体に纏わせ突撃してくる。
見てわかる通り、彼が得意な魔法は炎だ。
彼の家系は、炎魔法を極め、それを子孫へ継承する。
ライオネスは十分に強い。
すでに学生の領域は超えている。
ただ、相手が悪かったわね。
「私が見ているのは、学生なんかじゃないわ」
「すごい……格好いい」
彼の炎は私に届かない。
すべてかき消され、相殺される。
苛立ちを隠せないライオネスは、どんどん攻撃が雑になる。
「そろそろ終わらせるわよ」
「……ふざけるな。このオレが、女風情に負けることなどありえん!」
激しい怒りがライオネスの魔力を増幅させる。
感情の起伏によって魔力制御が乱れる。
優れた魔法使いほど、感情の制御は完璧にこなす。
だけどライオネスはまだ学生だ。
実力はあっても未熟。
大きな力を持つからこそ、未熟さが際立つ。
乱れた魔力操作で魔法を使えば、暴発してしまう。
「消えろ!」
ライオネスの全身から炎が立ち上り、周囲に放たれる。
彼は無意識だ。
放たれた炎の一つが、フレアに向かう。
「え――」
それに彼が気づいた時には手遅れ。
攻撃は当たる。
「……あれ?」
「まったく、困った男だわ」
私が、こうして守っていなければ。
「スレイヤさん!」
「大丈夫? 怪我は?」
「ありません。スレイヤさんが、守ってくれたんですね」
「偶々よ」
私も無意識に身体が動いていた。
危ないと感じたら、勝手に彼女を守っていた。
不思議だわ。
これじゃまるで、私が彼女にとってのヒーローで、彼が……。
「くそっ」
悪役みたいじゃない。
「スレイヤ・レイバーン……」
彼は睨む。
だけど、戦う前のような覇気はない。
彼自身わかっているんだ。
私が割って入らなければ、フレアが大けがをしていたことに。
するとそこへ、教員の声が響く。
「こら! ここで何をしている!」
「え、先生?」
「無許可で訓練室を使うことは禁止されているんだぞ!」
「やっぱり許可なんて取ってなかったわね」
そうだと思ったわ。
さて、大騒ぎになる前に逃げましょう。
私はフレアの手を握る。
「行くわよ」
「は、はい!」
「こら! 待ちたまえ!」
叫ぶ教員の声を無視して私は駆け出す。
聞こえなくなるまで遠く。
建物の外に出て、中庭に隠れる。
教員も追ってきていない。
「はぁ、まったくとんだ時間の無駄だったわ」
「あの、スレイヤさん!」
フレアが私の前に立ち、キラキラした瞳で見つめる。
「ありがとうございます! 助けてくれて!」
「……偶々と言ったでしょ」
彼女は首を振る。
「守ってくれました……本当に、格好よかったです」
「……そう」
そういうセリフは、勇者たちに言うべきね。
本来なら私がもらう言葉じゃないわ。
「スレイヤさん、私に恩返しをさせてください!」
「必要ないわ」
「嫌です!」
そう言って、彼女は私の手を握る。
「嫌ってあなた……」
「私がしたいんです! 助けてもらうばかりじゃなくて、スレイヤさんの力になりたい! 私! スレイヤさんのお友達になりたいから!」
「友……達……?」
「はい!」
彼女は私の手をぎゅっと握り閉める。
まっすぐに私の瞳を見て話す。
「実は私……スレイヤさんに憧れていたんです」
「私に?」
彼女は頷く。
恥ずかしそうに。
「スレイヤさんみたいに、強くて、優しくて、格好よくて、綺麗な人……初めて見ました」
強くて、格好いいまではなんとなくわかる。
私は優しいかな?
綺麗っていうのも、両親以外に初めて言われた。
「だから、ずっとお友達になりたいと思っていたんです!」
「……」
原作のフレアは、スレイヤが魔王に殺されたことを知り、悲しんだ。
彼女のセリフはハッキリ覚えている。
もっとお話をして、分かり合って。
お友達になれたらよかったのに。
原作では叶わなかった思いが、今ここで――
「私を、スレイヤさんのお友達にしてくれませんか?」
「……」
叶おうとしていた。
フレアはうっとりとした視線を私に向ける。
そんな顔、私に向けちゃダメだ。
本当なら勇者の誰かに言うべきセリフを……向けるべき言葉を、私なんかが貰って……。
「いいの? 私で」
「スレイヤさんがいいんです」
「そう……」
そんなこと言われたら、たとえ女の子だって。
「じゃあ、今日から友人ね」
「――はい!」
嬉しいと、心から思ってしまうのだから。
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イラスト:NiKrome先生
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