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12.こんにちは、ラスボスさん

 私が知る本の物語の中で、彼は平凡な一般生徒として描かれていた。

 事実、成績も実力も抜きんでているものは一つもない。

 脇役故に明確な戦闘描写こそなかったが、勇者たちには遠く及ばないのは明らかだった。

 しかし妙に聡く、戦況の報告が的確だったり、戦術に関するアイデアが光る場面はあった。

 そういう部分で主人公たちを助ける役割を持っている。

 読者だった私は、かってにお助けキャラクターみたいに思っていた。


 だけど、物語の序章が終わり、それぞれの勇者の個別エピソードに入る直前だ。

 私たち読者は衝撃の事実を知ることになる。

 主人公の周りで起こった不可解な出来事、襲撃には黒幕がいた。

 名前は伏せられていたけど、その黒幕の描写がベルフィストと重なった。

 実は魔王と裏で繋がっているのか。

 その予想は半分正解で、半分は間違っていた。

 彼こそが魔王サタンの魂を宿す依代だった。

 そんな人物と、偶然にも鉢合わせてしまったんだ。

 警戒しないほうがおかしい。

 主人公や勇者たち以上に、この男とは会いたくなかった。

 つくづく運が悪い。


 彼は大きく背伸びをする。


「う、うーんと! 君、名前は?」

「……教える必要はないわ」

「え、そっちは俺の名前を知ってるのに? 名前くらい教えてくれてもいいじゃないか」

「……」


 私は答えない。

 じっと彼のことを睨む。


「答える気なし、か。というか、一応上級生相手にその態度は失礼だぞ? 俺は別に気にしないけど、セイカも気にしないだろうけど」

「……」

「他の上級生相手には気をつけろよ。この学園にはプライドが高い奴が多いからな。変に刺激するとろくでもないことになる」


 先輩らしい優しいアドバイスだ。

 気のいい性格で、周囲からも慕われている。

 平民から貴族まで、様々な身分、立場の人が在籍する学園。

 その中でもダントツで友人が多いのは彼の特徴だった。

 場を和ませる独自の雰囲気があるのだろう。 

 現に私も、彼と話していると気を許しかけてしまう。

 絶対にダメだ。

 相手はただの人間じゃない。

 私が最も警戒しなければならない相手……。

 スレイヤを殺した存在なのだから。


「なぁ、さっきから何をそんなに警戒してるんだ?」

「……急に男が上から降って来たのよ。警戒して普通じゃないかしら?」

「それは確かに……ビックリさせて悪かった。適当な木の上で昼寝でもしようかと思ったんだが、思ったより枝が貧弱だった」

「そう、気を付けてほしいわね」


 会話をしながら頭は別のことを考える。

 この状況をどう切り抜けるか。

 出会ってしまった以上、私の存在は彼に知られた。

 いや、知られることが問題じゃない。

 物語の表舞台……私が知る原作の中で出会うのではなく、裏側で偶然にも接触してしまったことが問題だ。

 この後の展開を予想できない。

 今の彼がどういうスタンスで学園に通っているのか。

 そもそも魔王と彼の魂は混在して、どちらが主になっているのかわからない。

 原作で描かれていたのは、彼と魔王が交じり合っている様子だったけど、それはあくまで終盤の話。

 途中の経過はわからない。

 読者をワクワクさせるため、不自然に描写が削られていた。

 今の彼は魔王なのか……それともまだベルフィストという人間なのか。

 どちらにしても、私の敵であることに変わりはない。


 敵……そうか。


「ふふっ」

「な、なんだ? 急に笑い出して」

「そうよね……どうせ会ってしまったのなら、もう手遅れだわ」

「何を言って……」

「――閉ざせ」


 隔離結界。

 使用者を中心とした一定領域内を透明な壁で覆い隠し、現実世界と隔離する。

 空は灰色になり、木々の色も暗くなる。


「結界? おい、どういうつもりだ?」

「それはこっちのセリフよ。あなたこそ何のつもりで、私の前に現れたのかしら?」

「は? だから説明しただろ? 俺はただサボってただけで」

「本当にそう? 何か別に考えがあったのではないの? 魔王サタン」


 その名を口にした途端、彼は大きく目を見開き驚いた。

 しかしすぐに表情を戻し、冷静に返す。


「何を言ってるんだ? 俺はベルフィストだ。人間を魔王呼ばわりはさすがに笑えないぞ」

「そう言いながら笑っているわよ。隠す必要はないわ。私は知っている。あなたに……魔王サタンの魂が交じり合っているのを」


 私は断言する。

 もし仮に、間違いだったのならそれでいい。

 だけど確信があった。

 主人公のフレアを筆頭に、五人の勇者たちが存在する。

 そして私、スレイヤがいて……。

 これだけキャラクターが揃っていて、魔王だけ存在しないなんてありえない。


「そういう冗談を初対面の相手によく言えるな」

「冗談を言っているように見える?」

「……」

「……」


 私たちは見つめ合う。

 疑念と警戒を織り交ぜて、絶妙な距離を保って。

 私の表情の真剣さが彼に伝わった頃、彼は大きくため息をこぼし、腰に手を当て俯く。


「はぁ……ったく」


 雰囲気が、変わる。

 ゆっくりと上げた顔は、その瞳は――


「どうして、それを知っている?」


 魔王のそれに、変化していた。

 

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