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思い出補正  作者: ふみ
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#2 違和感

 昨日の子どもたちが作っている秘密基地の進捗も気になっていたが、子どもたちだけの世界に高校生の篤が割り込んでしまうことは遠慮しておきたい。


 気になることが増えてしまってはいるが、基本的には穏やかな一日ではあった。祖父母も篤の前では平静を装っているが、ソワソワとして落ち着かない態度が見え隠れする。


「……軽トラックが走ってくところは見かけるけど、人の姿は見ないんだよな」


 田舎とは言え、人の姿が少なすぎるように感じていた。

 高齢者が多くなって過疎は進んでいるらしいが、住んでいる人の数はそれほど少なくない。現に、篤は昨晩に多くの人影を見ている。そして、見かける人影は少なくても人の動く気配は常に感じてた。


「あっ、スマホ忘れた」


 普段の生活では忘れることはなかったが、のんびりとした雰囲気でスマホの存在感が薄れていたかもしれない。特に必要になることもないが、まだ戻ったとしても大した距離はなかったので取りに帰ることにした。


 すると、家の前で昨日出会った少女と篤の祖父母が話をしている場面に遭遇する。ショートカットの可愛らしい少女が、祖父母と楽しそうに談笑していた。

 昨日出会った麦わら帽子の少女だったが、今日は動きやすそうな服装になっている。


――まさか、こんな場所で同じ年頃の女の子と出会うなんて、思ってもみなかったな……。祖父ちゃんや祖母ちゃんの知り合いだったのか?


 少女は篤が近付いていることに気付いて、慌てて何かを隠した。


「おっ!どうした?今日は早かったな」


 祖父が篤に話しかけてきたが、封筒のような物を隠す動きには気が付いていた。


「あっ、うん。……スマホ忘れたから、取りに戻っただけ。……必要ないかと思ったんだけど、念のためにね」


 篤は言い訳しているように感じていた。この女の子と祖父母の関係性や封筒の存在に意識が向いてしまっている。

 それからスマホを取って戻ってきたが、少女は篤を待っていてくれた。


「お散歩するんでしょ?一緒に行こ」


 当然のように提案してくる少女に篤は驚かされた。少女の態度には躊躇いがなく、とても初対面とは思えない。


「君と一緒に散歩?」


「そうだよ。昔は一緒に遊んだでしょ?」


「いや、女の子と遊んだ記憶なんて俺には無いな。……誰かと間違えてない?」


「間違ってないよ。篤君でしょ?……私は、名取晶だよ」


「……ナトリ、アキラ?」


 篤は脳内で名前の検索を始めた。昔一緒に遊んだ女の子で該当するデータはなかったが、男の子で一致してしまう子がいた。


「……えっ!?アキラ君なのか?」


 昔一緒に遊んだ一つ年下の男の子を思い出した。美少年だと思っていた子は、数年の時を経て美少女に変貌を遂げている。活発に遊んでいる姿と名前の響きで、男の子だと思い込んでいた。


「そうだよ。……久しぶりだよね」


「まぁ……、でも、女の子だったんだ」


「だって、あの時は男の子じゃないと一緒に遊んでくれなかったでしょ?」


「……そうだったかな?」


 女の子と一緒になって遊ぶことが照れくさかっただけだとは思う。幼い男の子ならではの身勝手なルールだと思うが、秘密基地を女人禁制にしていた記憶はある。


「でも、篤君が来ているなんて知らなかったから驚いちゃった。」


「君は毎年来てるの?」


「来てるよ。ちゃんと()()


 篤は隣りを歩いている少女を昔のように名前で呼ぶことが出来ない。


「毎年来てれば、可愛くなった私とお散歩できるチャンスがあったのに残念だったね?」


 篤は肯定も否定も出来ず黙ってしまった。そんな篤を横目に、晶は嬉しそうに跳ねるように歩く。


 のんびりと散歩を楽しんでいたが、篤は周囲の異変を感じ取っていた。姿を見かけていないが、慌ただしく動き回る人の気配だけを感じてしまう不思議な感覚だ。


「……何だか変な感じがしないか?」


「えっ?……変な感じって、どんな感じ?」


「ゆったりした雰囲気なのに、空気はピリピリとしてて、ちょっと落ち着かないと言うか……」


 篤が感じていることを言葉にするのは難しかったが、何とか伝えようとしてみた。


「……やっぱり、気付いちゃったんだ」


 晶は暗い表情に変わって、歩く速度も遅くなっていた。


「『やっぱり』って、何か知ってるのか?……夜中に、あんな恰好で出歩くなんて変だろ?」


「……あんな恰好って?」


「夜中に大勢の人が出歩いて、全身が白い服の人もいたんだ」


「……そっか、見ちゃったんだね」


 晶は立ち止まって、篤を悲しい目で見つめた。


「篤君、知らない方が幸せなことってあるんだよ」


「何それ?……知らない方が幸せって、どういうこと?」


「……言葉通りの意味」


 晶は、それ以上は話してはくれなかった。明るさは消えてしまい、俯き加減で歩き始める。そんな晶についていくと、子どもの頃に一緒に遊んでいた場所に着いた。

 そこは、今も子どもたちが秘密基地を建設しており、二人は木の陰からコッソリ眺めていた。


――この場所に何かあるのか?


 自分たちの頃と同じように廃材を利用したりした秘密基地の建設が始まっている。年上の子が指示を出して拾い集めた物を組み合わせている。

 ただ子どもが遊んでいるだけの風景だが、違和感もあった。その違和感の正体が分からない気持ち悪さを抱えたままで時間は過ぎ去ってしまう。



 そして、この日も深夜になると動きがあった。

 篤が部屋の電気を消して寝ようとすると、再び祖父母へ訪問者の気配がする。恐怖心を消し去ることはできなかったが、このままでは居心地が悪い。

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