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思い出補正  作者: ふみ
1/4

#1 帰省

 高校2年の夏休み、藤井(あつし)は祖父母の住む田舎で一週間を過ごすことになった。

 

 今年は、両親が仕事の都合で帰省できず、篤一人で祖父母の様子を見に行くように言いつけられてしまっていた。

 自然に囲まれた山間の地域で、小学生の頃は両親に連れられて一緒に帰省していたが、ここ数年は友達と過ごす時間を優先してしまい祖父母に会うのは久しぶりになる。反抗期ということもないが、自然の中で遊ぶよりも地元で友達と遊ぶことを優先させてしまった。


 祖父から連絡があり、8月11日から来てほしいと連絡があった。

 およそ半日かけての移動となるが、出迎えてくれた祖父母の嬉しそうな顔を見て、「状況確認なんて電話で済ませればいい」と言ってしまったことを反省する。


 到着後、お互いの近況報告会が始まる。

 祖父母は元気で病気らしい病気もなく過ごしていたらしい。血色は良く、70歳を超えても生き生きとしていた。

 祖父母は篤のことも色々と知っていてくれた。両親から聞いていたのかもしれないが、気にしてくれていたのだ。それだけでも帰省しなかったことを後悔してしまう。


 話し終えると祖父は大きな鎌や梯子などの道具を軽トラックに乗せて出かけようとしていた。

 篤は帰省中に宿題を片付けてしまう予定だったが、空いた時間は祖父母の手伝いをするつもりでもいた。


「……俺も手伝うよ?」


 到着したばかりではあったが、祖父だけでは心配だったので篤は声を掛けた。


「そんなこと気にせず、篤はゆっくり過ごしなさい」


 祖父からは笑顔で断られてしまう。道具の確認をしている時に祖父がタブレットを使用しているところをチラッと見てしまった。


――えっ?あんな物も使うんだ。……しかも、かなり扱いに慣れてる様子だな

 

 夕食までの時間を使い散歩してみることにしたが、周辺の家から妙な緊張感が漂っている。

 一見すると田舎の景色でしかないのだが、何かが違うようにも感じていた。


「おや、徳さんのところのお孫さんだったね。こんにちは」


 篤を見かけた人たちは声を掛けてくれる。篤も挨拶を返すが、自分のことを皆が知っていることには疑問もあった。


――どうして俺が徳次郎の孫って、すぐに分かるんだ?


 顔を見ただけで気付かれてしまうことが不思議だった。ここで遊んでいたのは幼い篤であり、篤が徳次郎の孫だと即座に判断できることは不自然に感じてしまう。


――そんなに俺って変わってないのか?


 そして、声を掛けてくれた人たちは祖父と同じように道具を持ってどこかへ向かっていた。

 篤は違和感の正体を知りたくなって尾行を試みた。途中、トランシーバーの音声が聞こえてきたが、距離が離れているので「明日は、……さんが……。子どもは……で……が必要。」途切れ途切れにしか理解出来なかった。


 見つからないように注意していたこともあるが、尾行していた相手は突然パッと消えてしまった。尾行は敢え無く失敗してしまったが、見覚えのある懐かしい場所に着いている。


――ここって、俺たちが「秘密基地」を作ってた場所だ


 帰省すると、ずっと篤はこの場所で遊んでいた。

 小さな林の中に切り開かれた場所があり、いろいろな資材が捨てられていた。それらを拾い集めて囲いを作ったりしただけの秘密基地を作る。その秘密基地に、家からお菓子を持ち寄って皆で食べたりした。昆虫を採ったり、川で釣りをしたり泳いだりして遊んだ夏休み限定の田舎ならではの体験がある。帰省した時の拠点はこの秘密基地であり、子どもたちだけで秘密を共有することができていた。


――小さい頃は、そんな遊びに夢中になれてたんだ……


 思い出に浸ってしまい、誰も見つけられないままで散歩は終了となった。祖父たちの動向は気になっていたが、暗くなる前に家に戻ってみることにした。


「んっ?……こんな場所でも通信は安定してるんだ」


 何気なく取り出したスマホを見ると、山の中でも通信は安定しており快適な通信環境になっていた。タブレットも使われているみたいなので、見た目とは違い近代化も進んでいるのかもしれない。


 何も収穫は得られなかったが、祖父は既に帰宅していた。三人で夕食となるのだが、素朴な料理が美味しかった。山で採れた山菜や自家菜園の野菜を使っており、食材そのものの美味しさもあるが味付けも良い。


「……すごく、美味しい」


 単純な感想しか言えなかったが、祖母が嬉しそうに笑ってくれる。楽しい夕食となった。



 次の日も、祖父母は軽トラックに何かを積みこんで作業をしていた。


「おはよう。……何か手伝うよ」


 声を掛けると慌てた様子でタブレットを隠してしまい、また断られてしまう。荷台にもシートを被せられ、篤に見えないようにした。祖父母の態度には不自然さしかなかった。


 そして昼食の後、家の中で不釣り合いな物を発見してしまった。


――えっ!?……ドローン??


 ドローンで危険な場所を監視することに使うので、実用目的で所持している可能性は高い。祖父の趣味の可能性もあるが、驚かされてしまう。


――タブレットにドローンか……。祖父ちゃんたちも便利な生活してるんだ


 近所で見かけた人もトランシーバーを使ってもいた。ただ、篤の目に触れる場所には近代的な物は置かれておらず、数年前に来た時と変わらない状態を保っている。


 この日に帰省してきた家族があったらしく、外では小学生くらいの子たちを見かける機会が増えていた。余所行きの服を着ているので、本格的な遊びは明日以降になるのだろう。

 

「すごく良い場所を発見したんだ!俺たちの『秘密基地』を作って、遊ぼうぜ!!」


 一人の男の子が他の子に話している声が聞こえてくる。本人は小声のつもりだろうが、興奮気味になっていることで篤にも届いてしまう。「きっと、あの場所だな」と直感できてしまうのは、自分の思い出と重ねてしまったからかもしれない。


 そんな中で篤は一人の少女と出会った。帰省している少女だとは思うが、昔遊んだ中に同世代の女の子を篤は記憶していない。しかし、すれ違った時の既視感は不思議な感覚だった。


 散歩から戻ると、家の中で『ピーピーピー』という警告音を篤は聞いた。音の発信源は奥にある祖父の部屋だ。


「大丈夫?何か鳴ってたみたいだけど?」


 祖母に聞いてみたが、「えっ!?何の音かしらね?」と白々しい対応を見せだけで誤魔化されてしまう。祖父母の不自然な態度や落ち着かない雰囲気に疑問もあったが、普段を知っているわけではないので篤は考え過ぎだと思うことにした。


 すると、家の奥から祖父の話し声が聞こえてきた。


「……誰か来てるの?」


「誰も居ないわよ。たぶん、電話してるんじゃないかしら?」


 固定電話は居間に置いてあるので携帯電話で話していることになる。だが、先ほど聞こえてきた音は着信ではなく何かの警告音で間違いない。奥にあるのは祖父の部屋であり、作業部屋にもなっているので篤は一度も入ったことがなかった。

 多少の疑問は残る反応ではあったが、大した問題ではないと思って篤も聞き流した。


 祖母を手伝うために台所に入ると篤の写真が飾られていた。中学の卒業式で部活の後輩から花を受け取っている瞬間を撮られた物である。


――こんな写真を飾ってくれているんだ。……しかも台所って


 祖母が料理をしながら写真を見ていると思うと、照れくさくなってしまった。



 そして、日付が変わった直後の深夜に異変が起こった。祖父への来客があり、話し声が聞こえてくる。祖父は軽トラックのエンジンを掛けているので外出するらしい。


――こんな時間に出かけるのか?


 篤は二階の部屋の窓から外を窺ってみた。


――えっ?何だ?


 外には幾つもの懐中電灯の光が動いていた。かなりの人数がいて、中には全身を白い服で固めている人もいた。

 そんな光景を見て、怪しげな儀式を想像した篤は怖くなってしまう。


――こんな夜中に、何かあるのか?……田舎ならではの風習とか、かな?


 好奇心と恐怖心で葛藤するが、この時は恐怖心が勝ってしまった。子どもの時は、家族で使っていた客間も、一人で寝るには広く感じて心細くなる。


 この地域で生活をしていない篤にとっては、当然知らないことの方が多い。夏休みや正月に数日だけ泊まりに来るだけで、地域の情報はなかった。恒例の風景だったとしても、小さな頃は遊び疲れて熟睡していた時間なので気が付いていなかっただけかもしれない。


――祖父ちゃんも真剣な顔で話してるみたいだし、何があるんだ?


 何をするのか気になってしまう好奇心と、知らない方が良いかもしれないとする恐怖心で葛藤していたが、この時は恐怖心が勝ってしまった。

 それでも気になってしまって、1時間ほどは寝つけずに布団に入っていたが、その間に祖父が帰ってきた気配はなかった。



 翌朝になって、祖父母の態度に変化は見られなかった。昨夜のことを聞いてみたくはあったが、篤は聞けずに過ごしてしまう。  

 最初、祖父母が落ち着かない態度なのは篤が来てくれたことを喜んでくれているだけだと思っていたが、それだけではないように感じてしまった。

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