05
一ヶ月の勉強期間を終え、約二週間のお披露目会が始まった。お城のある敷地の一角、南離宮と呼ばれる大豪邸とその周辺が会場になる。
南離宮の内部は勿論、南離宮の別邸、広々としたお庭も会場になっていて、広すぎないだろうか? と思ったけれど、その位の範囲なら『愛しい運命の番』がどこにいても見付けられるらしい。
だから異世界人である私たちは、好きな所で好きに過ごしていていいらしい。向こうが見付けてくれるまで。
お披露目会の初日、杏奈と私は中庭を臨むティールームでお茶をすることにした。この世界に落ちて来た時声を掛けてくれた金髪碧眼の美女、エディスさんも一緒に。
アメリカ人である彼女と言葉の問題もなく、普通にお喋り出来るのが不思議で仕方がない。英語なんて私はさっぱり話せないのに。
向こうの世界と変わらない味のお茶と、見た目も華やかなお菓子に杏奈は夢中なようだ。
「まあ、今日はのんびり過ごしていても問題ないようよ」
エディスさんはジャムの乗ったクッキーを食べ、次のクッキーを選びながら言う。
「どういう意味ですか?」
「さっき、メイドの子に聞いたの。毎年異世界人の花嫁・花婿のお披露目パーティーは開かれるんだけど、初日から迎えに来る人は稀なんだって。自分の領地だか、暮らしている場所からここへ来るにも時間がかかるみたいでね。愛おしい相手と今すぐ会いたい、と思っても思うように行かない現実があるみたい」
なるほど、と私は納得してお茶を飲んだ。
「でも、何人か獣人さんを見たよ、私」
杏奈はフルーツの乗ったプチケーキを食べて、目線を中庭に向けた。そこには真っ白い髪に丸みを帯びた耳、透き通った水色の瞳に太い白と黒の尻尾を持つ獣人さんがいた。
その奥には黒髪に大きな三角耳、濃い紫色の瞳と先っぽだけが白い黒く大きな尻尾を持つ獣人さんもいた。
どうやら、一番乗りの獣人さんたちらしい。
「近くに領地があるとか、この街に生活している人なのかな? それなら初日からいるのもわかるね!」
なるほど、と私は納得してクッキーを食べた。
「誰が一番最初にお迎えが来るのかしらね? 一番最初も恥ずかしいけど、最後はちょっと精神的にキそうだから嫌よねぇ」
エディスさんの言いたいことはよく分かる。でも、どうせ迎えが来るんだったら、早い方が気が楽だと思う。
いつ来るのか分からない存在を待ち続けるって、精神的にしんどいことだろう。
「ああ、ここにいたのですね愛しい人。お待たせしてしまって、すみません」
甘いセリフが降って来たと思ったら、片膝を付いてエディスさんの手を取り、その甲にチュッとキスを落とした獣人さんが目の前にいた。
先程、中庭にいた白い髪に水色の瞳をした獣人さんだ。
「え、ええ?」
エディスさんは驚き、耳まで真っ赤になっているけれど獣人さんはお構いなしだ。
「驚かせてすみません、でも、驚いた顔もまた愛らしい。私はゲラルト・エルラー。雪豹の獣人です。アナタのお名前は、愛しい人?」
「あ……ああ、エディス・マッコールですけれど」
「エディス、素敵な名だ。エディスと呼んでも? 私のことはゲラルトと呼んで下さい、愛しい人。そして、アナタのことを教えて欲しい」
チュウチュウと音をたてて、何度も手の甲にキスを繰り返し獣人さんはエディスさんにアプローチする。
こんな他人の存在とか目とかガン無視して、猛烈なアプローチをするなんて……この獣人さんが特別なのか、それとも全員が似たような感じなのか。
「え、えっと……私たちはお邪魔なようですので……」
杏奈の服を引っ張り、逃げようとすると獣人さんはようやく私たちの存在に気が付いたようでニコリと笑った。
「いいえ、せっかくのティータイムにお邪魔してしまい申し訳ありませんでした。おふたりはどうぞお茶を続けて下さい、私どもの方が場所を変えますので」
真っ赤になって固まっているエディスさんをお姫様抱っこで抱き上げると、獣人さんはササッとティールームから出て行ってしまった。
遠くから「ちょっと~! なんなの~」とか聞こえたような気がしたけど、私たちにはどうにも出来ないことなのだ。
獣人さんの愛ってのは、凄いなと思った。
ありがとうございました。