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02

 大学図書館で初心者でも作りやすいお菓子や料理の本、唐突に読み返したくなった童話集を借りる。そして、同じ短大に通う同じ年齢の従姉妹と共に買い物に出かけた。


 地下鉄を乗り継いで新幹線の止まる大きな駅にまで出ると、最近出来たというイタリア料理店でパスタランチを食べた。パスタは美味しかったし、デザートの小さなケーキも美味しくて「また来ようね」とか「別のパスタも食べたい」なんて従姉妹と笑い合った。


 その後、夏の洋服を買い足したいとデパートに向かってビルとビルの間の細い道を歩いていた時だ……突然地面が無くなっていた。


 アスファルト舗装された道がちゃんとあったはずだ、事実私と従姉妹から数メートル離れた所にはある。なのに、私たちの立っている所だけぽっかりと無くなっていて、その穴は底が見えない暗闇が続いているように見えた。


 ふっと一瞬だけ浮いている感じがして、そして、落ちた。


 その底の見えない穴に飲み込まれ、私にしがみつく従姉妹の悲鳴を聞きながら私は意識を失ったのだ。




 次に目が覚めたとき、従姉妹と私は見知らぬ場所にいた。


 広いロビーというか大広間という感じだ。建築も調度品も西洋風で、きっとお高いんだろうなと想像がつく。私たちが座り込んでいる絨毯も毛足が長くふわふわだ、これを土足で踏むとか躊躇われる。


「ねえ、レイちゃん……ここ、どこ?」


 従姉妹の杏奈は今にも泣き出しそうだ。


「さあ? 元いた所じゃあないよね」


「あの落っこちた穴の先ってことだよね? え、異世界とかそういうやつ?」


「異世界?」


 私は聞くと杏奈は大きく頷いた。


「そういう小説とかマンガとかあったでしょ、冴えない男の子が異世界に呼ばれて〝この世界をお助け下さい、異界の勇者様〟とか言われて、新しい世界で可愛い女の子や親友と一緒に世界を救う的なやつ」


「あーあー、分かった」


 何冊か読んだことがある、なかなか面白かったし気分転換にと気が向くと手にして読んだ。杏奈が言っていたような内容もあったし、生まれ変わって記憶を持っていたりなにかの拍子で思い出したり……とバリエーションも豊富で楽しかった。


 しかし、それが現実として自分の身に降りかかるとは。世の中なにが起きるか分からない。


「あの、大丈夫ですか?」


「えっ、はい」


 声を掛けられ、杏奈と共に顔を上げればそこには真っ白い肌に金髪碧眼の美女がいた。どこのモデルか女優さんか、というレベルの美女だ。


「良かった、いつまでも座り込んでいるから具合が悪いのか怪我でもしたのかと思ったわ」


「ありがとうございます、大丈夫です」


「あたしも」


 ふたりで立ち上がり、周囲を見渡す。そうすると美女と私たち以外にも何人もいるのが確認出来た。そして彼らの人種が様々なことに驚く。北欧系の人もいれば中東系、ヨーロッパ系に私たちのようなアジア系もいて、性別も男女まちまち。


「ところで、ここはどこですか?」


 杏奈の質問に金髪碧眼の美女は肩を竦めて分からない、と言う。


 彼女は自宅で食事の支度をしていたのに、突然床が無くなり落っこちて気付いたらここに立ちつくしていたらしい。どうやらここにいる者全員が同じような経緯(突然床や地面が無くなり、そこから落っこちて気付いたらここ、的な)でこの場所に到着しているらしい。


 そんな話しをしているうちにも、数名がこの大広間に落っこちて来てざわめきが広がる。


 ここはどこなのか、これからどうなるのか、元の場所に帰る事が出来るのかと不安な気持ちが増殖していく。


 そういう私も自分の置かれている立場に改めてゾッとした。ここがどこかこの先どうなるのか、そういう疑問ももちろんあるのだけれど、帰れるのか否かを考えると胃が重くなる。


 読んだ小説やマンガの知識を鑑みれば、帰れないという確率が高い。もしくは、帰る為には途轍もない労力を必用としたりする。

 なんとなくそれを察している杏奈も顔色が悪い。


「レイちゃん、どうしよう……恐いよぉ」


 私も恐いわ、普通に恐い。


 ざわつく室内にパンパンッと手を叩く音が響いた。大広間はよく反響するらしく、拍手の音は思ったより大きく聞こえた。


「さて、皆様。ようこそ、異世界へ! 残念ながら皆様はもう以前の世界へは戻ることが出来ません。ですので、こちらで幸せに生活出来るよう頑張って参りましょう!」


 にこやかに宣言した男は麦わら色の髪にやや濃い茶色の丸い耳と長い尻尾を持った、異世界人だった。


 その彼の後ろに控える男性たちも、メイドさんらしい揃いの制服を着た女性たちも皆、獣の耳と尻尾を持っている。


 その場にいた数人が意識を失って倒れ、私のすぐ横にいた杏奈も気を失って絨毯の上に倒れた。

 開示された情報に対して脳の処理が追いつかなくなり、意識を可憐にぶっ飛ばしたものと思われる。

 もしくは現実逃避か。


 残念ながら私はしっかり意識を保ったままだった。

 本当に、残念だ。

ありがとうございました。

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