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 場所を借りているジュース屋さんにお代わりのおすすめジュースを注文し、休憩所の隅っこに座った。

 今度のジュースはリンゴっぽい味で甘酸っぱい。


「その、宝珠の館ってなんですか?」


 そもそもなにをしている館なのか分からないから、訪ねてみようと思ったのだよ! マーティン氏の紹介だから、とんでもない場所ではない、と思いたい。


「え、レイくん知らずに行こうとしてたの?」


「はい。教師役の方に一度訪ねてみるように、と言われていましたので」


「うう~ん。それはどういう意味だったのかよく分からないね」


 マリウスさんは大きな尻尾を揺らし、首を傾げた。


 それは善意で紹介されたのか、悪意で紹介されたのかってことだろうか? その答えは……分からないけど、善意であって欲しい。悪意であっても不思議は無いけど。


「宝珠の館ってのは、その名の通り宝を授けてくれる場所だ。この場合の宝というのは、子どものことになる」


「……子ども? 子どもを授ける?」


 どういうこと? 子どもは男女の営みをして、母親のお腹で赤ちゃんが育って出産ってなるんじゃないの? この世界では違うの?


「宝珠の館に暮らしているのは異世界人ばかりだ。と言っても、異世界人なら誰でも館の住人になれるわけじゃない。伴侶である番を、事故や病気などで亡くしてしまった異世界人だ」


「……え」


「坊主、おまえもそうだろうが、番の召喚儀式でこちらの世界にやって来た異世界人はこちらの世界の者と伴侶になる。その後は二人で仲睦まじく夫婦として暮らしていく、それが一般的だ。が、中には突発的な事故だったり、病気に罹ったりして命を落とす者も出てくる。二人の間に子どもがいれば祖父母や一族の援助を受けることが出来るが、いない場合はな……まあ、生活に困るって奴が出てくるんだ」


 なるほど、子どもが居ればその子が孫だの甥姪ってなるから、異世界人もその子の親だから支援してくれるけども、子どもが居なければ一族の者とは扱われなくなるのか。


「んだから、そういう人たちが集まるのが宝珠に館ってわけなのね。異世界人に子ども産んで欲しいって獣人は一定数いるから、二人か三人産めば死ぬまで生活には困らないって話しだよ」


 マリウスさんは緑色のジュースを飲んで、ウエッてなった。なんのジュースだろう。


「あの、どうして異世界人との間に子どもを望むのですか? 伴侶がいるのなら、望む必要が無いですよね」


「異世界人からは、伴侶の種族しか生まれないんだよ」


 ん? ちょっと意味が分からない。


 私が首を傾げていると、マリウスさんとバーニーさんは苦笑した。「本当にこっちに来たばっかりなんだねぇ」としみじみ呟いて。


「例えば、異世界人と虎獣人の夫婦がいたとして、そのふたりの間に生まれる子どもは全員虎獣人なのよ。熊獣人となら熊獣人、ウサギ獣人とならウサギ獣人しか生まれないの」


「獣人とヒトとの夫婦の間に生まれるのは、獣人とヒトと半分くらいの確立なんですよ。でも、獣人っていうのはその……獣人の子どもの方が欲しい風潮がありまして。確実に自分たち一族の子を産んでくれる異世界人さんは、人気なんです」


 な、なるほど? 獣人の子もヒトの子も産まれるけど、どっちかと言ったら獣人の子の方が嬉しいものなのか。


「それにな、番との間に子どもが出来ないってこともある。各国の王族や上級貴族なんかにとっては、子どもがないのは重要な問題になる。そういう時にな、お願いするわけなんだよ。報酬を払ってね」


 確実にコチラの世界の獣人やエルフ、ドワーフなどの子が産める異世界人に、子どもを産んで貰うための施設。宝珠の館っていうのは、子どもを産んであげても問題のない異世界人が集まっている。


 ………………おおおおおおい!

 マーティン! マーティン・フォー! いくらなんでも酷いんじゃないの!? 私には確かに番がいないけども、迎えにきて貰えなかったけども!


 それでも、まだ十九歳で……男の人と子どもが出来るようなことなんてしたことが無いし、そもそも付き合ったこともなくて!


 そんな私に、宝珠に館に入ってよく知らない相手の子どもを金銭を絡めて産んで生活しろって言うの!?


「だからな、まだ若いおまえが宝珠の館に行くってのは、なにか事情があるんじゃねぇかって思ったんだよ」


 グラハムさんはそう言って私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。髪がボサボサになっていく感じがしたけど、それどこじゃない。


 宝珠の館が悪いとこじゃないってのは、なんとなく想像が付く。番さんを亡くして、番さんの一族に受け入れて貰えなかった異世界人が、安全に暮らしてお金を稼げる場所のひとつなんだと思う。


 子どもが出来なくて悩んでる王様や貴族の人たちにとっても、大事な場所になってるんだとも思う。


 だから、館で生活している人たちがどうとは思わない。本人が納得してるんだったら、いいと思う。


 でも、私は納得出来ない。子どもは好きだと、大事だと思えた男の人との間に欲しいし、産んだらちゃんと育ててあげたい。だから、私には出来ない。今すぐになんて無理だ。


 マーティン氏にはよく考えて決めろと言われた。


 きっと宝珠に館のことも、すぐに館の住人になれって言ったわけじゃなくて……そういう風に生きてる異世界人がいる、彼らの話しも聞いてみろって意味だった……と思いたい。

 そうでなかったら、さすがにちょっと辛い。

お読み下さりありがとうございます。

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