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15

 引っ張られるまま私は商店街の隅へと移動させられ、休憩用のベンチに座らされた。

 そのまま目を閉じると、ぐるぐると瞼の裏が回った。


「おい、坊主。これを飲め、ゆっくりな」


 温かく大きな手からコップらしきものを手に持たされた。ゆっくりその中身を飲むように促され、私はその手に従った。

 口に入ってきたのはとろみのあるフルーツミックスジュース。フルーツスムージーのようなもの。


「全部飲め」


 ほどよく冷たくて、甘くて美味しい。


 目を開ければぐるぐると回っていた回転は治まり、色を無くしていた世界に少しずつ色が戻って来る。


「……すみません、ありがとうございます」


 ジュースを全部飲み干すと、元気が戻って来た感じがした。めまいも感じないし、ちゃんと見えてるし聞こえてる。


 私が座っているのは、ジュース屋さんが用意してくれている休憩スペースらしい。


 目の前に居るのは獣人さん、おそらく犬……ドーベルマンみたいな感じだ。褐色の肌に黒い髪、黒い瞳、ピンと立った耳。この人が私をここに座らせ、ジュースを買って飲ませてくれたらしい。


「顔色も少しは良くなったな。……坊主、おまえ異世界人か。番はどうした、はぐれたのか?」


 服からはみ出たギルドの身分証を指さしながら、犬系獣人さんは首を傾げた。


「番の種族はなんだ? まだ近くにいるだろうから、俺の仲間に声掛けして探してやるぞ」


「いえ、あの……大丈夫です。飲み物、ありがとうございました。お幾らだったでしょうか?」


 手にした木製のコップの中身はとても美味しかった。このジュースの糖分で体調は持ち直したんだろう、自分で支払わねば。


「そんなものはいい。だが番の件は駄目だ。坊主、おまえはちゃんと番と共に居なくちゃいかん。危険だしな」


 そう言いながら、目の前の獣人さんはなにやら周囲に合図を送る。すぐさま二人の獣人さんがやって来た。


「さあ、坊主の番は何の種族だ?」


「そうですよ~、番さんのこと教えて下さいな。はぐれちゃったなら、向こうも心配で探し回っているでしょうしね」


「探して見つからないってことは、あんまり鼻の利かない種族なんですね」


 そんなこと言われても、番なんていないし。


 さっきから坊主坊主って、やっぱり短い髪でパンツスタイルだと私は男の子にしか見えないようだ。


「あの、だから……大丈夫です。番はいないので」


 三人の動きが止まり、固まった。どうしたんだろう?


「あ、この住所の場所に行きたいのですが、場所がよく分からなくて。ご存知でしたら教えて頂けますか」


 固まったままの犬系獣人さんは、差し出した名刺をぎこちない動作で受け取ると住所を見て目を大きく見開いた。


「……ぼ、坊主…………おまえ……」


「?」


 なんか絶望っていう感じの顔してるけども、大丈夫? それとも、あのマーティン氏の推薦する館はやはりとんでもない場所なんだろうか?


「おまえ、いま、幾つだ?」


「十九歳ですけれど」


「えええ!? じゃあ成人したばっかりで、番とも出会ったばかりじゃないですか! それなのに、宝珠の館に? 可哀想!」


 犬系獣人さんの呼んだ獣人さんのひとり、大きな三角の耳に太くて長い尻尾、黄色い毛並み……狐の獣人さんらしい人がそう叫んだ。


「ちょっと、マリウス声が大きいですよ。デリケートな問題をお持ちのようだから、騒がない」


 狐獣人さんの隣にいた……多分犬、白い毛並みの大型犬のような獣人さんが、人の目を集めようとしていた所を回避してくれる。


「ええと、館の場所は知っていますので案内することは出来ますよ。ですが、事情を伺っても宜しいですか? なにやら事情がおありのようで、困っていることや悩んでいることなどあるのではないですか? 勿論言いたくないことなどは言わなくても大丈夫ですので」


「そうだな、俺たちは隣国に拠点を置く商家の者だ。あやしい者じゃない。その年で番がいない、更に宝珠の館に行こうっていうんだ、なにか事情があるんだろう。他人だからこそ話せるってこともあるだろう、よければ相談に乗る」


 褐色の肌の犬獣人さんはグラハムさん、狐獣人さんはマリウスさん、白い犬獣人さんはバーニーさんと名乗ってくれた。私もレイと自己紹介する。


 彼らは隣国に本店のある商会の従業員で、この都市にある支店への応援と買い付けに来ている最中なんだとか。どうやら彼らの商会では孤児院経営や、母子家庭への救済施設など福祉関係にも力を入れているようで、困っている者へは積極的に声掛けをする方針らしい。

 そして、私は彼らの困っている者の認定を受けたわけだ。


「さっきもバーニーが言ったが、無理に話さなくてもいい」


 正直、悩みは多い。相談したいけれど、相談する相手がいないという現実があった。


 異世界課の人たちは職場の人としての交流しか持っていないし、個人的な興味もない(異世界課の人たちは、良くも悪くも異世界の文化や宗教などに興味津々な人たちばかりで、他のことに興味が無いのだ)職場から一歩外へ出れば妙な噂を信じる人たちばかり。


 トマス氏はお披露目会が終わった後、ほぼほぼ交流が無い。マリンさんは本来のメイドとして働いている場所に戻ってしまったし、マーティン氏とはあまり関わりたくない。


 となると、気軽に相談できる相手なんていないのだ。


「……良ければ、少し教えて貰いたいことがあります」

お読み下さりありがとうございます。

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