表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/122

13

 つまりだ、私、マーティン氏の言うことを踏まえて、情報を整理してよく考えて。


 私の番さんは確実に存在している。

 しかし、今現在私は番さんと出会えていない。

 迎えが遅くなるというなんらかの連絡も入っていない。


「私は、番さんに求められてはいない、のですね」


 そういうことに、なるのだろう、おそらく。


 番さんは勘で、私が召喚されることを予測する。多少の誤差はあっても、きっと女神様パワーでお知らせメッセージが届けられるんだろう。

 でも、なにもアクションがないということは、私を敢えて迎えに来ないということではないだろうか。


「……そう、かもしれん」


 さすがのマーティン氏も言いにくそうだ。


「だが、それも考え方によっては良かったのかもしれないぞ」


「どういう意味ですか?」


「番というのは、ある意味呪いや呪縛のようなものだ」


 呪い……呪縛……穏やかじゃない意味の言葉が出て来たよ。番って伴侶、愛する結婚相手のことじゃないの?


「この世界に生まれた者は種族に関係なく、番を認識することが出来る。ヒトもエルフもドワーフもだ。ただ、番に激しく執着するのは獣人たちだけだ。獣人たちは番を心から愛して執着する、例えその相手がどんな心根の持ち主であったとしても」


「えっと、それは……どんな性格の悪い人でも、番さんだから愛してるってことですか?」


 マーティン氏は首を縦に振った。


「おまえは異世界から来たヒトだ、番だ本能だっていう感覚はない。伴侶に選ぶ男は様々な要素から選ぶだろう? 見た目、職業、収入、家族構成、人となり」


「まあ、そうなりますね」


「獣人の番と認められたら、相手をおまえが選ぶことなど出来ない。どんな見た目だろうがどんな性格だろうが、好きだろうが嫌いだろうが番の獣人しか相手はいない。一生離れられん。だが、おまえは……今なら相手を選ぶことが出来る。そういう意味では、選択の幅が出来て良かったのかもしれん」


「…………確かに。でも、この世界の人たちは番さんと出会い、伴侶になるのが一般的なのでしょう? 七割くらいの人が番さんと伴侶になると聞いてますけど」


「この国は女神の大樹のある場所だから、番と出会える確率がずば抜けて高い。だが、大樹から離れた国になればなるほど確率は低くなって二割程度になる国もある」


「その場合は、見た目とか性格を重視して皆さん結婚なさる?」


「気の合う者、好ましい者と付き合いを重ね、伴侶となるな」


 つまりは私が考える普通の恋愛結婚? 好きかもって感じた相手とお付き合いをして、結婚してもいいなって双方が思ったら結婚するってこと、かな。


「先生、好ましい相手と結婚したその後で番さんと出会った場合、どうなるんですか?」


 ヒトとかエルフだったらまだ話し合いの余地はあるかもしれないけど、結婚相手が獣人さんだったら即離婚になるのかな? 番を求めるのは本能。獣人さんの本能って凄く強いらしいから……別れるって話しになりそう。


好き合って結婚したのに、番と出会えたってその場で捨てられたら悲しくて死ねる。更に子どもとかいたら尚更辛いし、生活にも困ることになりそう。


「伴侶としての手続きを取った後、番避けの魔道具を使う者が多いな」


「つがい、よけ?」


「番を判断する材料は匂い、フェロモンの匂いだな。だから、番ではない伴侶を得た者は、フェロモンの匂いを消す魔法を施したアクセサリーを身に着ける。指輪、腕輪、耳飾りなどにして常に身に着けることで、番と分からないようにする」


「え……でも、番さんとは出会いたいものなんですよね」


「……おまえ、好ましいと感じて何年も同じ時を過ごし、伴侶になって欲しいと願って結婚した相手に〝番に会いました、なので番と結婚します。離婚しますよ〟と言うことが、どれだけ非道なことか分からないのか?」


「分かりますよ、酷いって思います。でも、酷いことしてるって分かっていても求めちゃうのが番って相手なんでしょう?」


 実際、杏奈の番さんは私を一撃で瀕死の重傷にもっていった。あの衝動は並の精神力でどうこう出来ることじゃないだろう。


「だから、番避けの出番になるんだ。獣人は番を求める衝動が強いことを除けば、ヒトやエルフたちとなにも変わらん」


 ちなみに、番避けの魔法を使った装飾品って幾らくらいなのかを聞いたら「装飾品のランクにもよるが、三十万ガルから百万ガルほどだろう。出そうと思えば幾らでも出せる、上限はないからな」と言われた。


 一ガルが日本円の一円と同じくらいなので(ガルがお金の単位)、一般的なものでも三十万円から百万円ほどになるようだ。

高い。普通に高い。

 私が気軽に買って身に着けられるようなものじゃない。


「おまえにはいくつかの道があるだろう。どの道を選ぶのかはおまえの自由で責任だ。よく考えて決めるといい」


 そう言ってマーティン氏は一枚のカードを私にくれた。

 名刺のようなそれには、華やかな飾り文字で〝宝珠の館〟と書いてあって住所らしきものもある。


「一度訪ねてみろ、参考になるはずだ」


 …………あやしげなお店じゃないだろうな? と思った私を責める人はきっといないに違いない。

お読み下さりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ