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 広い王宮の中のどこをどう歩いたのか分からないけれど、王宮の上へ上へと向かって歩いた。自分がどこにいるのかさっぱり分からないけれど、窓や回廊から見える女神の大樹が近付いて来ているのだけははっきりと分かる。


 しかし、遠い。



 執務室を出てから随分歩いて階段を上がったり下がったりしたのに、まだ着かないんだろうか? 慣れないヒール付き靴のせいで、足が痛い。


「もうじき大樹入口ですぞ」


 大神官長様はイーデン執事長よりも年齢が上っぽいのに、呼吸ひとつ乱れてない。護衛騎士さんもキムも。獣人さんって本当、体が丈夫で体力お化けだ。


 階段を上がりきり、踊り場から外へ出る。そこは半円形の広場になっていて、円の頂点からまっすぐ女神の大樹に向かって橋のような道が伸びている。


 その道の手前で、制服姿のリアムさんが待っているのが見えた。私たちの姿を認めると、一礼する。


「あなたがレイナ嬢の運命の相手ですな?」


「お目にかかれて光栄です、ブレナン大神官長。ユージン・オルコックと申します」


「……ふむ。では共に参りましょうか」


 大神官長様を先頭に橋のような通路を進む。それにしても不思議だ、この橋は下から支えられてもいないし、上から吊られているわけでもなく自立している。


 魔法的なもので出来ているんだろうか? この世界は私の知らない物事ばかりで出来ている。


 しばらく進めば、円形の踊り場に到着した。その直径を示すように濃い緑色で模様が一本横に引かれている。


「さて、この先は関係者以外に立ち入りが許されない聖域になります。護衛の方はここでお待ち下され」


 大神官長と同じ白と青の制服を纏った護衛騎士の方は一礼し、キムは「承知しました」と言って私に手を振った。


 結構な不安を胸に私は大神官長様の後に続く。濃い緑色の模様の所まで進み、それを踏み越えた。


「?」


 目には見えない何かを越えた感じがした。

 柔らかな薄い布とか紙とかを突き抜けたような、そんな感じだ。


「今のは女神様の聖域に入った証ですな。その緑の文様は神のみが読める言葉、この世界の文字に苦労なさらんはずのレイナ嬢にも読めますまい」


「……はい」


 この世界にある言葉の読み書き会話に困らない、そんな贈り物を貰っている私だけれど、地面に書かれた神様の文字はただの模様にしか見えない。


「きっとここから先は自分の家だ、とかそんなことが書かれているのでしょうなぁ」


 大神官長は笑って歩き出し、リアムさんと私は顔を見合わせてから後ろをついて行った。


 最初は白い石で出来ていた橋は、徐々に石ではない何か不思議素材に変化していっている。靴越しに感じる足触りが柔らかくなっていて、毛足の長い絨毯の上を歩いているようだ。


「……レイナ、足が痛いのでは?」


「えっ、いえ、大丈夫で……きゃっ!」


 言い終わる前に私はリアムさんに抱き上げられていた。


 一般的に言うところのお姫様抱っこという形だ。こんな風に抱き上げられたことなんてなくて、顔に熱が集まってくる。


「おろして下さい、重たいのでっ」


「重たくない。それにそれ以上足を痛めてはいけない」


「おや、歩き方が変だと思っておりましたが、足を痛めておいででしたか。それは気付かずに申し訳なかったですな。魔法で治療も出来ますが…………魔法に頼った治療は肉体が自然に回復する能力を損ないますのでな、番殿が抱えるなら問題ありますまい」


「だ、大神官長様!」


「おっほほほほ」


 抱えて貰えるのは楽ちんなのだけれど、私の体重が重たいって知られてしまうし、リアムさんとの距離が近いしで恥ずかしい! どんなに訴えても藻掻いても、リアムさんは微動だにしないし、大神官長様も笑ってスルーするばかり。


 私は諦め、おとなしく運ばれることにした。視界の片隅でリアムさんの尻尾が楽し気に揺れているのが見えた、気がした。


「そういえば、女神様の神託について殿下からお聞きになっておりますかな?」


「何代か前の王女様が神託を受けた、とだけお聞きしました」


 真っすぐに続いている橋の先はまだ見えない。どのあたりまで進んだのかは分からないけれど、景色は大分変って来た。橋の周囲には白く濃い霧のような靄が漂って、徐々に暗くなり、空気も濃くなってきている感じがする。


「そうなのですぞ、今より七代前エイベル陛下の末姫エイダ姫様が神託をお受けになったのですな。エイダ姫様は、トラ獣人として生まれながら番が分からないお方だった、と伝わっておりますです」


「番が分からない獣人がいるのですか?」


 この世界に生まれた人は種族に関係なく、自分の番が分かると聞いていたのに。


「我々獣人が番を判別する主な手段は匂い、運命の相手からはとてつもなく良い香りがするですぞ。それはもう、これ以上ない良い香りですな」


 リアムさんがうんうん、と力強く頷いた。


「番の分からない者は番を嗅ぎ分けるための器官が未発達か、機能不全になっているのだと今は分かっておるですな。甘くて苦い薬湯を一日二回、三か月から半年飲めば治りまする、病のようなもの」


「今は治る病と分かっているけれど、当時は番が分からないままだったのですか?」


 大神官長は頷いた。


 今は治療方法があるけれど、理由も治療法も分からない時代は番が分からないまま。王女様は番の匂いが分からないまま。


「そんな王女に〝自分が王女の番だ〟と名乗り出た者がいたのですな。けれど、王女にはその男が番なのかどうか分からないし、他の誰にも分からない。その男の言葉を信じるしかなかったのですな」


「え、それって……」


「そう。異世界から来た者たちと同じ状況ですぞ。自分があなたの番だという、その言葉を信じるしかない。……そこで、エイダ姫は女神の神託を受けることにした、のですな」


「運命の相手を決めて縁付けるのは女神だから、直接〝この人が私の運命なのですか?〟って聞いてやろうってことですか」


 リアムさんの質問に大神官長様は「左様!」と言い切った。


「皆分かってはおるのですよ、目には見えぬ大切な物が世の中には沢山あるということを。ですが、はっきりと目に見えて分かりたいと思うのも、また理解出来るというもの。楽ですからな」


 大神官長様の言葉をまるで肯定するかのように、上空から淡い黄緑色の光球が幾つも降って来る。


 この黄緑色の光は、女神様の力の欠片。


 目の前に降って来た光を指で突いてみれば、周囲に温かい空気を広げるようにして輝いて消えた。

お読み下さりありがとうございます。

評価、イイネ、ブックマークなどの応援をして下さった皆様、本当にありがとうございます。

物語も後半です、最後までお付き合いいただけますと嬉しいです。

よろしくお願い致します。


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