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01 序章

 それは突然目の前に現れた、ように見えた。


 瞬間移動や魔法による転移とかそういうモノではないのは分かっている。彼女が店に入って、私の居るテーブル席に近付いて来るのも見えていたから。


 ただ、突然沸いて出たように感じたのは彼女が私の所を目的地にしているとは思っていなかったのと、その勢いが凄かったからだ。


「アナタがクルト様の番?」


 目の前のご令嬢は眉をつり上げてお怒りのご様子。美人は怒った顔も美しい。


「……はあ?」


「なによ、その返事は! 番なの、そうじゃないの?」


 身に纏うのは優しいローズピンクのおでかけ用ドレス、落ち着いた茶色の瞳に、淡い黄色に近い豊かな髪からは柔らかそうな垂れた耳が見える。


 外見から察するに大型犬の獣人だろうか、イメージするならゴールデンレトリバーという感じ。きっとドレスで見えないがふさふさの尻尾もあるに違いない。


「はっきりしなさいよ!」


 ご令嬢は私の反応が気に入らないらしく、周囲も気にせずに詰め寄って来る。

 店内にいるお客や店員全員がこちらを注目しているのが分かる。突然始まった修羅場らしきものに好奇心が剥き出しだ。すっごい嫌なんだけど。


 そもそも彼女はどこか良い所のご令嬢なんじゃないの? こんなレストランカフェで騒いでもよいの? 後ろに控えてるメイドさんも止めなくてよいの?


「……はあ、まあ、番だと聞き及んでおりますが、自分は認めていません」


 取りあえず、ため息と共にお返事をする。すると、お嬢様は顔を真っ青にしてから今度は一気に真っ赤に染めた。


「なんで、アナタみたいなパッとしない人間が! どうしてよ! ワタクシではなくて、アナタみたいなヒトが!」


 そんなことを言われても、困る。それに、ちゃんと人の話を聞いて欲しい。私は認めてないって言っているのに、そこは完全無視だ。

 どうしてこう、人の話をちゃんと聞いてくれない人ばかりなんだろう。腹が立つ。


 私の容姿がパッとしないことは事実だ、だからそこは否定しない。


 短い黒い髪に濃い茶色の瞳、典型的な日本人の色。顔の造りも平面的で、日本人の中にいても容姿は下の方に当てはまる。


 しかし、ツガイ云々に関しては断じて私の責任ではないのだ。自分で選べるものではなく生まれ持ったもの、生まれる性別を選べないようにツガイ相手を自分で選ぶことは出来ないのだ。

 そう習った、この世界に落とされた時に。


 ワアワアと騒ぎ続けるご令嬢を片目で見ながら、私は冷め始めたお茶を飲み干す。口を付けた時は香ばしくて美味しいと感じたのに、お茶はすっかり味を無くしている。


 安いお茶じゃなかったのに、とても残念で無駄なことになったと心の底からうんざりした。




 私こと、駒木玲奈(こまきれいな)がこの世界にやって来た……いや、強制的に連行されたのはかれこれ一年半ほど前になる。気が付けばもう一年と半年が過ぎているなんて、時間の流れはどちらの世界でも早い。


 当時の私は短大に通う女子大生で、前期の試験を終えてのんびりとした時間を手にしていた。

ありがとうございます。

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