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魔王は改心出来ない  作者: シンドロウ
第二章 姫巫女ラトラナンジェと女神レナトゥス
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第二話 女神は天から全て見ていた



それは、この地に古くから存在する神の一柱。シュバルが持つ聖剣≪不退のヴィットーリア≫と、ヒルシュヘルムが持つ魔剣≪不跪のローデリカ≫を造りたもうた、再生と創造を司る女神――レナトゥス。彼女を祀る神殿の巫女たるラトラナンジェに神託を授け、シュバル達を導いた存在だ。


魔王討伐の旅でも、ラトラナンジェが彼女の聲を聴き、立ちはだかる困難を乗り越える手助けをしてくれていた。


だが、神々の聲は敬虔にして正善なる聖職者にのみ聴こえるとされている。神殿に仕えた経験すらないシュバルには、レナトゥスの聲を聴くことは出来ない筈だ。そんな彼の疑念に答えるように、ラトラナンジェの口でレナトゥスは語る。



「私は今、巫女の体を憑代に、顕現しています。私の、力の一欠片を、宿すのが限界でしたが……こうして貴方と、話をすることが、出来ました」



いつだか、ラトラナンジェが話していた。神々の聲を聴くことが出来る人間は限られている。その為、神が直接人々に語りかけんとする時は、自身を祀る神殿の巫覡を憑代にするのだ、と。


本来、神が巫覡に宿るには神殿で儀式を執り行う必要があると聞いていたが、レナトゥスが此方に干渉してくるのに時間を要したことを思うと、腑に落ちた。儀式無しでも顕現することは可能だが、手間が掛かるのだろう。

その上、憑代であるラトラナンジェは死んでいる。魔王復活から三日もの間レナトゥスが交信してこなかったのも、上手く口が動かせずにいるのも、恐らくその為だ。



「勇者シュバル。貴方と魔王ヒルシュヘルムの戦いを、私は天界、から見ていました。貴方が彼に手を差し伸べる時も……あの時も」



あの時というのは、オロバスの惨劇のことだろう。


心を改めた筈のヒルシュヘルムが、オロバスの村人達を虐殺する様を、レナトゥスは天界から見ていた。だから、再び魔王を討ちに行けと言いに来たのだろうが――俺にどうしろというのだと、シュバルはラトラナンジェ越しにレナトゥスを睨んだ。



「……アンタ、分かっていたんじゃないか」


「シュバル、」


「アイツが≪不跪のローデリカ≫を持っていて……俺じゃアイツに勝てなくて……。あの場で殺されていてもおかしくなかったって……全部、分かってたんじゃないか? なあ!!」



天から全てを見ていたというのなら、レナトゥスは知っていた筈だ。自分が造った魔剣が、ヒルシュヘルムの手に渡っていることも。彼が神具を有している以上、シュバルに勝ち目が無いことも。

だのに、レナトゥスは何も言わなかった。


ヒルシュヘルムが≪不跪のローデリカ≫を所持していると知れば、勇者の努めを放棄すると思ったのか。或いは、人間の一人や二人死んだ所で代わりは居ると考えていたのか。


何でも良い。だが、レナトゥスが魔剣の存在を知らせてくれていたのなら、こんな事にならかったのではないかと、シュバルはそう思ってしまったのだ。



「見ていたなら、分かってただろ!! なのに、何で止めなかったんだよ!! お前じゃ魔王には勝てないって、アンタが止めていれば!!」


「……あの戦いで彼が≪不跪のローデリカ≫を出した時は、そうする手筈でした」



レナトゥスの聲は、悲愴と悔恨に沈んでいた。彼女も悔やんでいるのだ。ヒルシュヘルムがシュバルの説得に応じ、心を改めるという想定外の事態に対し、これで世界が救われたと安堵してしまったことを。


戦いが終えても、ヒルシュヘルムが魔剣を有していることを伝えるべきだった。そうすれば、オロバスの惨劇も魔王復活は阻止出来たかもしれない、と。そんな彼女の声色を受けて、シュバルの瞋恚が鳴りを潜めると、レナトゥスは何故魔剣の存在を黙秘したのか、その理由を語った。



「貴方は、慈悲と正義の心を持つ勇者……。例え、勝てないと分かっていても、魔王軍に苦しめられる人々の事を想い……貴方は、魔王に戦いを挑んでいたでしょう。だから貴方には……その身を以て、魔王に勝てない事と、理解してもらわなければならなかった。ヒルシュヘルムが魔剣を用い、聖剣だけでは彼に届かないと貴方が痛感した時は……私の力で、貴方達を安全な場所まで逃がす予定でした。ですが貴方は……ヒルシュヘルムを説き伏せ、魔剣が出る幕もなく戦いを終わらせた」



それは、神ですら予想だに出来なかったことだ。魔王と勇者が剣を交えることもなく戦いを終えるなど、当の二人ですら想像だにしていなかったことだろう。歯車が狂ったのは、其処からだ。


ではやはり、この惨劇の濫觴は自分にあるのではないかと顔を蒼くするシュバルに、レナトゥスは自らを責めてくれるなと言葉を掛けた。



「どうか、あの時の選択を悔やまないでください、シュバル。……ヒルシュヘルムを憂い、彼に手を差し伸べた貴方は、決して間違っていなかった。悪しきものがあるとすれば……それはヒルシュヘルム、ただ一人です」



戦うことなく争いを終えたシュバルは、正しい。過っているのは、心を改めたと宣いながら、たった一週間で悪の道へ戻ったヒルシュヘルムだとレナトゥスは言う。シュバルの心情に寄り添ったその言葉は、しかし、彼の胸に届いてはいなかった。



「…………聖剣だけでは、って言ったな」

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