第三話 勇者の故郷は滅ぼされた
オロバスを出て二日後。隣村での用事を終えたシュバルは、鞄に入りきらない程の手土産を抱え、オロバスへの帰路についていた。
隣村の村人達が、よくぞ魔王を打ち倒してくれたと派手に持て成してくれた為、予定より帰りが遅くなった。大荷物を抱えて山道を歩くことに慣れてはいるが、これでもかと飲まされた葡萄酒のせいで足が重く、昼過ぎにはオロバスに着く筈が、すっかり日が暮れてしまった。
――自分がいない間、ラトラナンジェとヒルシュヘルムは上手くやれていただろうか。
たった二日村を空けただけなのに、嫌に長い時間を隔てたような気がして、シュバルは思わず笑ってしまった。
そろそろ、ヒルシュヘルムの畑に植えた豆が芽を出している頃だろうか。ラトラナンジェは、村の女達に教わり始めた刺繍に慣れてきただろうか。そんなことを考えながら、オロバスへの道を踏み締めていたシュバルを迎えたのは――燃え盛る炎に包まれた故郷だった。
「なんだ……これ……」
空が赫く焼けているのが見えた時から、村で何かが起きていると察した。否、本当はもっと、ずっと前――あの日、村を出る時から感じていたのだ。此処で、何かが起こると。
あの時感じた微かな胸騒ぎ。それは村を平らげる業火となって、シュバルを嘲笑うかのように燃え盛る。
「一体、何が……」
呆然と立ち尽くしていたシュバルがその場に膝を突くと、村の門に何かが並べられているのが目に入った。炎に眼を奪われ、気付くのが遅れたが、村の門前には等間隔でカカシのような物が並べられていた。
それは、鋭利に尖らせた丸太に何かを突き刺した物だ。
その何かとは、何か。
シュバルはとうに理解しているのに、それを受け入れることが出来なかった。
「あ……あ……」
丸太に突き刺さっているのは、オロバスの村人達だった。
その顔は酷く爛れたり、ひしゃげたり、原型を留めていない者、頭すら残っていない者もいたが、間違いない。其処に居るのは、陽だまりのように温かなオロバスの村人達だ。
「う……おぇえええ!!」
何故、このような事が起きているのか。シュバルはその場に嘔吐し、蹲った。
隣村を出た時は、何も無かった筈だ。オロバスに向かって歩いている間も、村から煙が上がっている様子は見られなかった。たった数時間の内に、オロバスは陵虐されたのだ。
一体誰が、何の為に――。その答えもまた、シュバルはとうに辿り着いていた。
「あぁ、もう帰ってきたか」
「…………ヒルシュ、」




