第七話 運命の女神は戦士に微笑まなかった
悔いが無いかと言えば、嘘になる。
やり残した事も、叶わなかった夢も、両手の指では足りない数だけある。
それでも、過去に思い残した事は無い。
シュバル達と出会った事も、魔王討伐の旅に出た事も、フェニチアに恋をした事も、ヒルシュヘルムとは戦えないと言ったシュバルを肯定した事も、魔王を殺す武器となる為に自ら死を選ぶ事も――。未練はあっても後悔は無いのだと、デュランハルトは小さく笑った。
「フェニチアと……トラオベの人達には手を出さないって約束してくれ……シュバル」
「だ――駄目よデュラン!!」
短剣を喉元に突きつけられ、声も出せず震えていたフェニチアが、叫ぶ。
喉を切り裂かれるよりも恐ろしい事が、今、目の前で起きようとしている。このまま黙って、それを見過ごしているなど出来はしないと、フェニチアは声を張り上げた。
「お願い、私に構わないで戦って!! 私の為に貴方が死ぬなんて、そんなの……」
シュバルは今、≪不退のヴィットーリア≫を持っていない。如何に勇者が相手でも、傍に姫巫女が控えていても、聖剣を持っていない彼が相手ならデュランハルトに分がある。だから彼らは、自分を人質に取るのだ。真向から戦って勝てるなら、こんな回りくどい真似をする必要はない。
戦えば、デュランハルトは勝てる。彼自身それは理解しているだろう。故に彼は、抵抗の意思が無い事を証明すべく≪必殺の槍≫が入った槍袋を捨てたのだ。
「……ごめんな、フェニチア」
戦えば、デュランハルトは勝てる。けれど仮に、もしフェニチアが人質に取られていなくとも、彼はこうする事を選んだだろう。
「俺はどうやら……ファタリテ神のお気に召さなかったみたいだ」
「いや……やめて、お願い……やめてぇえええええ!!」
シュバルが自分の信じた勇者シュバルである限り、自分は彼の道を信じる。
(俺達に力を貸してくれ、デュランハルト)
あの日、あの言葉に手を伸ばした時からずっと、そうするのだと決めていたのだと微笑むデュランハルトの首を、シュバルは背後から刎ね飛ばした。
「あ、あぁ……ああああああああ!!」
その慟哭はフェニチアのものか、自分のものか。シュバルにはもう、分からなくなっていた。




