第四話 勇者は戦士と再会を果たした
翌朝。夜明けと共に教会を発ったシュバルとラトラナンジェは山道を歩き続け、二日後の昼過ぎにトラオベ村の近くまで辿り着いた。
嘘のように穏やかな森の中。もうトラオベ村は眼と鼻の先という所で、シュバルの足は止まった。
「……シュバル?」
どうしたって見紛う筈もないのに、人違いであってほしいと願わずにいられなかった。
木漏れ日を彷彿とさせる緑の髪と梔子色の双眸。そう長く離れていた訳でもないのに、無性に懐かしくて仕方ないその顔が、太陽のように微笑むと同時に、シュバルの心は酷く暗澹と沈んだ。
「シュバル! やっぱりシュバルじゃねーか!! ハハッ、久し振りだなぁ!!」
「……デュランハルト、」
「やっぱりなぁ! 今日は良い事あると思ってたんだ! けどまさか、お前が尋ねに来てくれるなんてなぁ!」
予期せぬ再会に声を弾ませ、デュランハルトは晴れやかな笑顔で駆け寄り、シュバルの肩を抱いた。
その快濶さも力強さも、何一つ変わらない。当たり前だ。別れの日から、そう長い時を経てはいないのだ。
変わったのは、変わってしまったのは自分だけだ。
自分だけが陽の光の届かない場所に佇んでいるような感覚にシュバルが立ち尽くしていると、デュランハルトが肩を叩いてきた。
「取り敢えず、家に来いよシュバル。ちょうど今、戻る所だったんだ」
トラオベ村に来てから、デュランハルトは畑仕事と狩りをして暮らしていた。今日は森の中を軽く周って、野鳥を三羽ばかし仕留めたのだという。デュランハルトは弓の名手でもあるので、旅をしていた時も良く食糧調達に貢献してくれたのを思い出す。
途中で鉢合わせた魔物も仕留め、剥ぎ取った皮が荷物になるので、昼食がてら村に戻るという所だったのだが、まさかシュバルに会えるとは。これぞまさに天啓だと語るデュランハルトがにっかりと笑うと、シュバルの心はより一層暗くなった。
――彼がこんなにも良い奴でなければ、苦しまずに済んだのに。
そんな身勝手極まりない想いを抱きながら、酷く重い足取りで進んでいた時だった。
「それで、何かあったのか?」
「……え」
「お前の顔見りゃ、何かあった事くらいは判るぜ。一人で来たのも、事情があるからなんだろ?」
豪放磊落でありながら、仲間達の中で最も人の機微に気が付くのがデュランハルトだった。
些細な悩みも、上手く取り繕うとしていた感情も、自分自身気が付けずにいた想いも、彼は丁寧に汲み取ってくれた。時に冗談まじりに励まし、時に真摯に言葉を掛け、時にまるで関係のないような話で諭し――今もシュバルの抱える痛みを察し、それに寄り添おうとしてくれている。
「俺に出来る事があるなら、新婚だからって遠慮しないで言ってくれよ。フェニチアと出会えたのも、家族や帰る場所を持とうって思えるようになったのも、全部お前のお陰なんだからよ」
嗚呼、本当に。こんなに良い奴でなかったならと呪う日が来るなんて、思いもしなかった。走馬灯のように脳裏に過る日々を回顧するシュバルを、デュランハルトは何時になく真剣な面持ちで見据えた。
「魔王軍の残党狩りか? それとも国家間のいざこざか……まさかラトラナンジェに何かあったとか」
此方に一歩歩み寄るデュランハルトから、シュバルは反射的に身を引いた。それが、言葉にならない拒絶であることを、デュランハルトは肌で感じた。
「…………シュバル?」
「…………ヒルシュヘルムが、裏切った」




