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魔王は改心出来ない  作者: シンドロウ
第一章 魔王ヒルシュヘルムと勇者シュバル
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第二話 魔王は勇者の故郷で暮らし始めた



魔王ヒルシュヘルムは勇者一行によって討たれ、便宜上死んだことになったヒルシュヘルムは、シュバルの生まれ故郷オロバスで暮らすこととなった。



オロバスは田舎の小さな農村だ。身を隠すのには最適だし、村人達も穏やかで心優しい。魔族と人が手と手を取り合って暮らせる世界。その夢の第一歩として、これ以上適した場所もないだろう。

シュバルにそう言われてオロバスに赴いたヒルシュヘルムを見た村人達は、皆これでもかと眼を見開いたが――。



「なんてこった! まさか魔王を連れ帰ってくるたぁな!!」


「まったく、お前には驚かされてばかりだ!」


「……流石、お前の生まれ故郷だな」


「皆、俺の自慢の家族だ! まずは此処から、始めていこうぜ!」



魔族……それも魔王が来たというのに、オロバスの村人達は皆、ヒルシュヘルムを受け入れた。

男も女も、子どもも老人も。村人達は満面の笑みでヒルシュヘルムを歓待し、彼をオロバスの新たな住人として迎えた。



「此処には家畜と水車小屋……それと麦畑くらいしかねぇが、気の良い奴等ばかりじゃて。飽いるまでゆっくりしておいき」


「そうだ、トム爺さんの畑が余ってるんだ。爺さんは腰を痛めちまって、隠居してるから、アンタ良かったら使ってみな! 野菜の種分けてやっからよ!」


「あら良い男~! 住む所に困ってるなら、うちにおいでよ!」


「おいおい、勘弁してくれよ! この兄ちゃんに寝床取られたら、オイラ納屋で寝るしかねぇだろい!」



村人達はヒルシュヘルムに住処と仕事を与え、代わる代わる彼の世話を焼いた。


何か足りない物は無いか。困ったことはないか。夕飯を作り過ぎたので食べていかないか。鶏を一羽飼ってみないか……。シュバルが呆れる程に、村人達はヒルシュヘルムを構い、ヒルシュヘルムは久方ぶりに触れる人の温もりに戸惑いながら、凍て付いた心が溶かされていく感覚に絆された。


そして、五日後。



「それじゃ……ラトラ、ヒルシュ。俺が留守の間、村をよろしくな」


「はい、シュバル様。どうか、道中お気を付けて」


「村のことは任せてくれ、シュバル。私も最近、鍬の扱いに慣れてきた」


「ははは。それは心強いな」



所用で隣村に赴くことになったシュバルは、村の留守とヒルシュヘルムと、魔王討伐の旅を共にしていたラトラナンジェに任せた。


ラトラナンジェは、魔王軍によって滅ぼされた亡国の姫君であり、≪不退のヴィットーリア≫を祀るレナトゥス神殿の巫女だ。

彼女との出会いにより、シュバルは勇者としての道を歩むことになり、旅を通して二人は強く惹かれ合うようになったのだが、二人はあと一歩を踏み出せぬまま、今日に至っていた。



「シュバル! 嫁さんを待たせるんじゃないよ!」


「ち、違いますわ! わたくしとシュバル様は、そのような間柄では……」


「そ、そうだよマルガレットさん! 俺達はまだ夫婦じゃないし、恋人でもないし……」


「まだってことは、いずれそうなるってことか!」


「わははははは!!」


「ちょっとヨゼフ爺さん! ダンさんも、そんなに笑わないでくれよー!!」



帰る場所も行く宛もなかったラトラナンジェは、シュバルに誘われ、ヒルシュヘルムと共にオロバスに赴くことになった。



母国を滅ぼしたヒルシュヘルムに対し、思わないことが無いと言えば嘘になる。だが、ラトラナンジェは信じていた。ヒルシュヘルムを信じると言ったシュバルは、きっと正しい、と。


長きに渡る魔族と人間の確執を取り払い、皆が手と手を取って暮らせる世界を作る為に、ヒルシュヘルムは無くてはならない存在だ。これからの未来に和睦と平穏を齎す為にも、憎しみの連鎖は此処で断ち切るのだと、ラトラナンジェは覚悟を決めた。


彼の犯した罪を許すことは出来ないが、彼が償いの為に生きることは、許したい。そんな想いを抱えながら、ラトラナンジェは村の教会で暮らし、得意の回復魔法で村人や家畜を癒す日々を送っていた。



「いやしかし、シュバルがこんな別嬪さんを落してくるとはなぁ」


「ほーんと! ”馬小屋の勇者”にゃ勿体ないよ!」


「み、皆さん! あんまりからかわないでくださいー!」


「もう! 俺行くからな!」


「さっさと行っといで! 早く帰らないと、ラトラちゃん取られちまうからね!」


「チクショー!!」


「あははははは!!」


「……まぁ、帰りは急ぐよ。まだこの辺りも物騒だからな」



ヒルシュヘルムの薨去を受け、魔王軍は自然消滅する形となったが、一部の残党兵は人里を襲い、野盗まがいのことをしているとのことだ。オロバスのような田舎村にまで彼等の手が及ぶとは思えないが、用心するに越したことはない。

野性の獣達も活発化する時季でもあるし――冗談だろうが、ラトラナンジェの事も気になる。とにもかくにも、帰りは急ぐと告げて、シュバルは村を出た。



「ヒルシュとラトラが居るから心配要らないだろうけど、気を付けてな!」


「心配性だねぇ。そんなに不安なら、ラトラちゃんも連れてったらどうだい?」


「それはもういいから!!」

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