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魔王は改心出来ない  作者: シンドロウ
第二章 姫巫女ラトラナンジェと女神レナトゥス
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第五話 勇者は仲間達との別れを回顧した



「お前達は、これからどうするんだ?」



魔王軍との戦いを終えた後。シュバルと仲間達は旅の終着点――オロバスの近くにある村の宿屋で、各々の今後について話していた。


この夜が明ければ、一同は別々の道を歩むことになる。


シュバルとラトラナンジェ、馬車の中で身を隠しているヒルシュヘルムは、オロバスで暮らすことが決まっていた。それを見届ける為にと、三人はオロバスの近くまで同行してくれたが、彼等は今後どうする心算なのか。その問いかけに、最初に答えたのはメルクリウスだった。



「俺は、賢者の塔に戻る。己の魔法を更に高める為、この旅で触れた魔法の解析と習得に励む傍ら……人々に魔法を教えようと思う」


「オイオイ、マジで言ってるのか!? あの魔法以外関心皆無のメルクリウスが?!」


「どういう意味だ、デュランハルト……」


「いやぁ、お前が自分から人と触れ合おうなんて成長したなと思って……」


「喧嘩を売っているのか? お前」


「まぁまぁ、メル! 落ち着いて、落ち着いて」



メルクリウスは、ありとあらゆる魔法の知識と技術が集まる魔法使いのメッカ、賢者の塔で暮らしていた。彼の関心は己を高めることにあり、デュランハルトの言う通り、出会ったばかりのメルクリウスは魔法以外に眼を向けることの無い男だった。シュバルの旅に同行したのも、自分の知らない魔法に触れる為であったが、魔王討伐の旅を通して、彼は変わった。


多くの人と出会い、その心に触れ、メルクリウスは己の為ではなく、他者の為に魔法を極めることを志すようになった。人々に魔法を教えたいというのは、その心の現れだろう。出会った頃より随分感情的になったのも、彼の変化の一つだ。眉を顰め、今にも魔法を撃ち放ちそうなメルクリウスを適当に宥めつつ、シュバルは話題をデュランハルトへ投げた。



「ところでデュランは、これからどうするんだ?」


「俺はトラオベ村に行くよ。……あの子との約束があるからな」


「まぁ、では……!」


「あぁ。俺はトラオベで、フェニチアと結婚する」



デュランハルトは、自由気儘に旅をする放浪の戦士だった。彼は場所や人に縛られることを厭い、世界を救うという使命もまた、自分を縛るとして魔王討伐に乗り気では無かった。だが、命の危機をシュバルに救われたことで、彼に出来た借りを返すという名目で、デュランハルトは魔王討伐の旅に同行することとなった。

そんな彼が、自由を捨てるに値すると思う程に心惹かれた女性がいた。それが、トラオベ村に住むフェニチアという若い娘だ。


フェニチアは蔓髪族ボルトスという魔族の娘だ。魔王軍幹部との戦いで崖から落され、怪我で動けなくなっていたデュランハルトを彼女が助けたことが切っ掛けで二人は惹かれ合い、魔王討伐が終えた後、トラオベ村で一緒になる約束をしていた。



「王国騎士団からの勧誘は蹴るのか」


「有り難ぇ話だけどな。俺は騎士って柄じゃねぇし……俺が一番護りたいと思うのは国でも王でもなく、フェニチアだからな」



旅の途中、デュランハルトはその腕を買われ、魔王討伐後は王国騎士団に入らないかと王直々にスカウトされていた。次期騎士団長の座と爵位は惜しいが、デュランハルトはフェニチアと共に生きることを選んだ。


トラオベで狩りや農作業をしながら、愛する人と穏やかに暮らす。確かにその方がデュランハルトらしいと、仲間達は彼を祝福した。



「アステリオは?」


「僕は……星の導きにしたがって旅を続けようと思います」



アステリオは、星の子と呼ばれる星獣召喚士の落ちこぼれだった。彼は魔力も腕力も低く、星を視る力も劣っていた為に自信がなく、臆病で卑屈な少年だった。しかし、戦うシュバル達の姿を見て一歩前に踏み出す勇気を得てから、彼は凄まじい勢いで成長を遂げ、今では一人前の星獣召喚士だ。


アステリオ自身は、未だ自分は半人前だと感じているが、それは自虐や謙遜ではなく、向上心の現れだった。



「ちっぽけな星の子に過ぎなかった僕は……皆さんと出会えたことで、強くなれました。人として、召喚士として……。その強さで、これから何が出来るか、何をするべきか……新しい旅を通して見付けていきたいと思います」


「お前も成長したなぁ~~、アステリオ~~!!」


「うぐっ……デュ、デュランさん……く、苦しいです……」



感極まったデュランハルトに抱き締められ、顔を鎧に押し当てられたアステリオが必死にもがく。


こんな風に笑い合ってきた時間も、いよいよ終わりを迎える。長いようで短かった魔王討伐の旅で、寝食も苦楽も共にしてきた仲間達と別れるのは、とても寂しい。もう二度と会えなくなる訳でもないのに、会おうと思えばまた会えるのにそう思ってしまうのは、それだけ共に過ごした時間が掛け替えのないものだったからなのだろう。

胸の奥ががらんどうになったような寂寥感を覚えながら、シュバルは五人で過ごす最後の夜を、大いに笑って明かした。


そして、翌朝。



「じゃあ……此処でお別れだな」



枝分かれした道の真ん中で一同は別れる事となった。


女神の導きによって出会い、共に魔王討伐を成し遂げた仲間達に伝えたい言葉は山ほどある。その中から選びに選び抜いた言葉を、シュバルは仲間達に述べた。



「皆、本当にありがとう。……皆が居てくれたから、俺は此処まで来られた。感謝してもしきれないくらい、感謝してる」


「……俺達も同じだ、シュバル」



思わず涙ぐむシュバルの肩を、メルクリウスが掴んだ。その言葉を、想いを抱いていたのは自分達も同じだ。シュバルが仲間達を想うのと同じだけ、自分達もシュバルのことを想っているのだと、メルクリウスは力強い声でシュバルへの感謝を伝える。



「お前が居たから、俺達は此処まで辿り着いた。……あの日、お前が手を差し伸べてくれたことに感謝しているよ、シュバル」


「メルクリウスの言う通りだ!」


「デュラン、」


「お前のお陰で、俺は本当の強さが何か知ることが出来た。お前のお陰で……俺達は出会うことが出来た」


「ぼ、僕も……っ! 僕も……シュバルさんのお陰で、上を向いて歩けるようになりました!」


「アステリオ……」



感極まったデュランハルトが二人の肩を抱き、其処にラトラナンジェの手を引いてアステリオも加わる。口を開けば泣き出してしまいそうで、ラトラナンジェは一歩引いた所で佇んでいた。だが、これが最後だからこそ別れを噛み締めなければならないと、ラトラナンジェは唇を動かした。



「……私達の旅は、此処で終わってしまいます」



ただの一言を口にするだけで、涙が溢れた。心が溢れた。


この五人で過ごしてきた時間が、とても愛おしく、尊いものだったからこそ、別れが辛い。それでも、これは永遠の離別ではないのだからとラトラナンジェは懸命に涙を拭う。



「けれど……私達の道はいつか再び交わると……私は、そう信じております……っ! だから、これは本当のお別れじゃないからぁ……っ」


「ラトラ……」



しゃくり上げるラトラナンジェの手をアステリオが強く握り、シュバルが肩を抱き寄せる。


想いは、皆同じだ。だが、それぞれに歩むべき道がある限り別れは避けられない。

それを噛み締めて、前へ進むのだ。ラトラナンジェの言う通り、道が再び交わると信じて。



「いつかまた、会おう」



シュバルの言葉に、一同が頷く。そして、彼等は新たな一歩を踏み出した。いつかという不確かな誓いを標にして。



「次に会う時は、嫌というほど惚気話聞かせてやるからよ! 耳掃除欠かすなよ!」


「では俺も……お前達が辟易するほど魔法の話をしてやるとしよう」


「えっと、じゃあ僕は……僕の旅のお話を!」


「それじゃあ俺は――」


「お前もラトラの惚気話だろ?」


「デュ、デュラン様ぁ!」


「わははははは!!」

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