拙者、忍者じゃないもん!
これは「なろうラジオ大賞2」応募用作品です。
「ござる」
「わ、びっくりした」
と、ある休日。忍法隠れ身の術を使い、デートの待ち合わせ場所で腕時計を確認しながら、人待ち顔をする彼『相志輝』を、後ろから驚かす彼女『闇余忍』。
「ごめん……先に来てたんだ。待った?」
「全然待ってないでござる……」
突然、背後に現れた忍にさほど驚く事もなく、待たせてしまった事を謝罪する輝。
「じゃ、行こうか」
「忍……」
忍は頬を赤らめながら、輝の差し出された右手を握ると、ふたりは横並びで仲良く歩き始める。
忍者の里出身の『闇余忍』(20歳)は、物心ついた頃から忍者の修行を始め、15歳になる頃には里一番の女忍者になっていた。
だが、今は忍者の技能を必要としない時代。里には、昔のような抜け忍を罰する規則は無く、忍も18歳になると都会の生活に憧れて里を出て行った。
そこで出会ったのが、同い年の『相志輝』。
輝は、走っている電車の屋根に飛び乗るような忍に、少しずつ都会の暮らし方を教えて行き、生活できるようにしてくれた。
「今日は、どこ行こうか?」
「……映画がみたいでござる」
輝の質問に、素直に答える忍。すると、輝はポケットからスマホを出し、今時分、なにが上映されているか検索する。
「あ、じゃあこれ見ない?」
「ござる?」
自分のスマホの画面を、忍の目の前へ移動させる輝。
「『懐柔惑星』。忍、これ見たがってたじゃん」
「……見たいでござる……」
「じゃあ、決定ね」
輝はそう言うと、スマホをポケットにしまい、ふたりは映画館に進路を変える。
「忍、その訛り、治さないの?」
「やっぱり……変でござるか?」
「すごく可愛いよ♪」
「か、からかわないでほしいでござる!!」
顔を真っ赤にし、忍法肘鉄を入れる忍。瞬間、脇腹を抑えながらうめき声を上げる輝。
……と、その時だった。反対側から小柄ながら大層胸に自信がある女性が歩いてくるのが見えた。
小柄な女性が輝と忍にすれ違った時、忍は、輝が小柄な女性に目を奪われている事に気づく。
「……見てたでござるか?」
「……いや……見てないよ」
「ござるな??」
「ござってないよ??」
忍は頬を、ぷう、と膨らませると、忍術を使い、輝の空いている左手を奪うように握り込む。
「……あれ、分身……」
「忍法……両手に花でござる……」
忍はそう呟くと、赤面した顔を隠す様に俯かせる。
「こんな幸せな忍術、味わった事ないよ。やっぱり忍は最高の忍者だね」
「に……忍者じゃないもん!」
「あ、ちょっと治った」
……おしまいでござる。