第6話 身売りしたのか!?
目を覚ますと広いベッドで俺一人寝ていた。時計を見ると七時を少し過ぎていた。
ボーッとする頭がだんだんと覚醒していき、昨日の出来事を鮮明に思い出す。
みっともなく泣き、まるで子供のように泣き疲れて寝てしまった。しかも、久しぶりに再会した初恋相手の胸の中でだ。
あまりの恥ずかしさで頭を抱える。
いくらなんでもあれはないだろ。
自分でもなんで泣いたのかわからない。次から次へと涙が止まらなかったのだ。
結依の言葉がずっと胸に染み渡るようなそんな感じ。安心したというのが一番当てはまるだろう。
新たに生まれた黒歴史に悶えていると扉が開く。
「あ、おはようございます」
「お、おはよう」
結依の顔を見ると昨日の出来事を思い出してしまい、気恥ずかしさから視線を逸らす。
こっちは死にそうなほど恥ずかしいのに、結依は何もなかったかのようだ。綺麗な笑顔を浮かべている。
「朝ごはんが出来たので起こしに来ました」
「そうか、ありがとう。ちょうど起きたところだ」
「それは良かったです。顔を洗って来てくださいね。あと、その可愛い寝癖も直してきてくださいね」
そう言って結依は部屋を出ていく。待たせてはいけないと思い、急いで身支度を整え結依の元へと向かう。
テーブルの上には豪勢な料理が並んでいる。
パンに目玉焼きだと!? 味噌汁まであるじゃないか!?
「朝から豪勢だな」
「ふふ、そうですね」
優しげに笑うと椅子に座る。
「今週は転校までの準備をしてもらいます。と言っても、ほとんどいつも通り学校生活を送ってもらいますけど」
まぁ、転校といっても俺は特に何もすることがない。ほとんど結依が手配してくれているようだ。俺にできることと言ったら編入試験に合格することと、友人や教師に一言挨拶をすることくらいだ。
「あと、これを」
机の上に一つの板を置く。
これは知っているぞ! スマートフォンというやつだ。俺以外のやつはほとんど持っている。
「これは雪君のものです。持っていませんでしたよね?」
「あ、あぁ……」
当然だ。スマートフォンは食べられないからな。優先度はかなり低い。
渡されたスマートフォンを恐る恐る受け取る。
「使い方とかよくわからないんだけど……」
「簡単な操作は後で教えます。そのほかの機能は学校から帰ってきてからにしましょう」
「助かるよ」
初めて扱うスマートフォンにテンションが上がってしまう。一度使ってみたかったのだ!
朝食を食べ終え俺たちは学校へと向かう。
途中まで車で送ってもらった。
「それじゃまた後で」
「はい、また後で」
いきなりリムジンで登校する勇気はなく、学校の少し前で下ろしてもらった。
所々に俺の通う学校の生徒の姿がある。
あと数回しかないと考えると少し寂しい。どうせなら楽しんでおこう。
◆◆◆◆
学校に着くと、何も変わらないいつも通りの学校生活を送る。
俺のクラスは特進クラスと言われる少し特別なクラスだ。入試の段階で上位の人がこのクラスに割り振られる。三年間クラス替えがない。
カリキュラムが普通のクラスの人たちと違うのだ。
全部で四十人で構成されている。勉強もできるしいい奴らばかりだ。
一年間一緒にいたおかげで、かなり仲良くなったと思う。俺の家が貧乏であることを変にからかったりしないし、お弁当を分けてくれる人もいる。
高校三年間ずっと同じクラスだと思っていたのだが、まさか転校することになるなんて考えてもみなかったな。
そんなことを考えながら一日が終わり放課後になる。
ホームルームの終わりに担任の鈴木先生がこちらに視線を向ける
「みんなに報告がある。一ノ瀬のことだ」
クラスのみんながチラチラと俺のことを見ている。
「今週で一ノ瀬は転校することになった」
クラスのみんながざわめき出す。
「本当なんですか先生!?」
「急に決まったことで私も驚いている。詳しいことはこの後、本人に聞いてくれ」
そう言って教室を出て行く。それと同時に俺の席の周りにクラスメイトたちが集まってくる。
「一ノ瀬っ! いきなり転校なんてどうしたんだよ!」
「これにはいろいろ訳があって……」
「学費が払えなくなったとかか?」
「いや……そもそも俺は特待生だから学費は免除されているから」
「そ、そうか。もしかして危ない金に手を出してそのために働かなきゃいけないのか!?」
それ、転校じゃなくて学校辞めないとダメじゃない?
その後も臓器を売らなくちゃいけないのか、なんて言っていた。割と冗談で終わらない状況になっていたから笑えない。
転校から学校を辞める勢いになっている。
近くにいた別の男子生徒がポツリと呟く。
「もしかして、身売り……?」
「そんなわけ……」
反射的に否定しそうになったが、改めてよく考える。結依に買われたのだからあながち間違いではないのかもしれない。
「お、おい!? いきなり黙るなよ! まさか本当に身売りなのかよ!」
クラスのみんなの表情が変わる。なぜか辛そうな表情をしている。
「まぁ、買われた身だから否定はできないなって思って……」
青ざめた顔で俺の肩を掴むとガクガク揺らしてくる。
「おい、大丈夫なのか!?」
「あぁ、平気だ」
安心させるように微笑む。たしかに買われた身だが、結依にはよくしてもらっている。何も心配はいらないのだ。
俺の言葉を聞いてうつむき、さっきまで騒いでいた連中が一気に静かになる。安心してくれたようだ。
静かになったところで一人の女子が口を開く。
「転校先はどこなの?」
「桜聖学園だ」
「えぇ!? そこって、すごいお金持ちの家しか通えない学校じゃないの?」
「なんか通うことになったんだ。まだ編入試験を受けていないから確定事項じゃないんだけどな」
「一ノ瀬君なら合格間違い無いと思うよ」
「だといいんだけどな」
遠くでは何人かがこそこそ何か話している。
「やっぱり自分が買った子のことをいい学校で卒業させたいものなのかな?」
「ブランド的な意味合いがあるのかもしれないよ」
「そうなんだ……一ノ瀬君、可哀想だね。私たちにできることないのかな……」
周りが騒がしいせいで何を言っているのかわからない。
なぜか同情の視線が送られてくる。
そのあとも質問攻めに合う。今どこに住んでいるのか、辛いことは無いか、など色々だ。
結依に迷惑にならない程度で応えられることは応える。
最後にみんなから連絡先を交換する。俺がスマートフォンを持っていることにかなり驚いていた。少しだけ自慢げにスマートフォンを見せる。まぁ、みんな持っているんですけどね。
これだけみんなに色々と気にかけてもらえて胸が温かくなった。
残りの学校生活を大切にしようと思った。
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