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第55話 騎馬戦(決勝)

「位置について、よーい」


 パンッ


「行くぞ!」


 まずは予選同様俺たちはまっすぐ相手に向かっていく。今回は相手クラスは一クラスだけなので他のクラスの様子を窺う必要はない。まっすぐ相手に意識を向ける。


「おい! 相手が!」


 中村が同様の声を上げる。

 相手の騎馬が俺たちの騎馬を避けるように左右に移動する。俺たちの騎馬は勢いよく進んでいたため止まることが出来ずそのまま通りすぎてしまった。その途中で光の声が聞こえた。


「僕たちも勝ちたいから!」


 俺たちの予選を見て作戦を考えて来たのか俺たちには目もくれず後ろの剛田たちの騎馬に向かっていく。


「後ろだ」


「うん!」


 中村の声に笹野が応える。


「二人とも右回りで!」


「おう」


「わかった」


 俺と成瀬はタイミングを合わせて右回りで後ろに方向転換する。

 後ろではすでに騎馬同士が戦っている。


「急げ!」


 加勢するべく急いでみんなのところに向かいう。


「まずは一本!」


 俺たちの1組の騎馬が鉢巻を取られてしまった。無事なのは剛田の騎馬だ。うまく相手との距離和稼ぎながらなんとか持ちこたえている。


「剛田君が引き付けてくれているから先に一人の方を!」


「「了解」」


 鉢巻を奪って油断している方に向かって走り出す。さっきまで光の騎馬も一緒にいたが、鉢巻を取ってそうそう剛田の騎馬の方に味方の加勢に行ってしまった。


「もらった!」


「しまった!?」


 こっちを見て居ない隙に一気に近づいてその鉢巻を奪い取ることに成功した。


「急いで剛田の方に向かうぞ」


 俺たちは2対一になっている剛田の方へと向かうが、間に合わず剛田の騎馬も鉢巻を取られてしまった。しかし、その手には鉢巻が握られていた。


「何とか相打ちだ!」


「くそっ! 天海すまない、取られちまった」


「ううん、気にしないであとは僕たちに任せて!」


 剛田たちの最期の頑張りによって残る騎馬は2つ。俺たちの騎馬と光の騎馬の一騎打ちとなった。


「みんな行くよ!」


「「「おう」」」


 光の掛け声と同時に相手の騎馬がこちらに向かってくる。


「僕たちも行こう」


 笹野の指示に従い俺たちは光の騎馬に向かっていく。お互いの騎馬がぶつかりそうになるほど近づくと鉢巻の奪い合いが始まった。鉢巻を取られまいと相手の腕を躱したり、相手の鉢巻を奪うべく乗り出したりと激しく動く二人。

 その動きによって下にいる俺たちに大きな衝撃が伝わってくる。布がすれて腕が痛くなる。いくら小柄な中村や、華奢な光だったとしても激しく動けば下の負担も大きくなる。俺たちにできることは少しでもバランスが崩れてしまわないように必死に耐えることだ。いくら鉢巻がとられなくても騎馬が壊れてしまっては失格になってしまう。

 実際はほんの数十秒のはずだが体感はそれよりもはるかに長く感じる。どれくらいの時間が経ったのかは分からない。しかしその時は突然訪れた。

 中村が光の鉢巻を奪い取るべく勢いよく腕を伸ばした。そんな中村の攻撃を避けるべく光は後方に体をそらした。その時事件は起きたのだ。中村の手の平が光の胸に触れたのだ。


「っ!? すまない!」


 中村が謝罪とともに慌てて手を放す。そして一瞬の隙が生まれてしまった。そのすきを光は逃すことなく中村の鉢巻に向かって手を伸ばした。そして――


「取った!!」


「そこまで! 騎馬戦優勝は3組!」


 優勝宣言とともに大きな歓声が上がる。俺たちはそこで負けを理解したのだった。


 切れる息を整えながら中村を下す。それと同時にみんなが集まってくる。


「惜しかったな」


「お疲れ」


 そんな言葉をかけてくれる。そんなみんなに対して答えていると中村がみんなに向かって言った。


「すまなかった。俺のせいで……」


 それ以上の言葉は続かない。

 剛田が中村に言う。


「なんで謝るんだよ」


「だって最後俺が変に動揺したせいで……」


「別に中村のせいで負けたわけじゃないって」


 他の人たちからも中村を攻める声はない。


「最初の作戦で相手に裏をかかれたし、こいつらなんて一つも鉢巻取ってないんだぜ」


 冗談めかしく言う剛田。最初に鉢巻を取られた人たちもばつが悪そうに笑っている。


「それにな……」


 頬をポリポリと掻きながら言いにくそうに続ける剛田。


「あいての天海に翻弄されたのは中村だけじゃないんだ」


「は?」


 予想外の言葉に気の抜けた声をだす中村。


「まぁなんだ……俺たちもな」


「そうだぞ。こいつなんて天海から鉢巻取れそうなあタイミングがあったのにも関わらず違う方ばっかり狙って鉢巻とられたんだぞ」


「あれは! だって仕方ないだろ」


「こっちも天海の騎馬が来た瞬間、動きが悪くなったしな」


「俺は相打ちまでもっていっただろ」


「いつもならもっとうまく出来ただろ」


「いやいや、1対2はきついって」


「はいはい、そういうことにしておいてやるよ」


「おい!」


「その……なんだ……俺たちはみんなはもれなく『作戦天海』にしてやられたって訳だよ」


 そう言って笑い合うみんな。


「最後のあれは動揺するって」


「それな」


「男だって知ってはいるんだけどな……あの見た目だもんな」


「まぁな……男のファンクラブがあるって噂だしな」


 え……


 とんでもない情報さらっと出て驚く。まさか光のファンクラブがあるなんて……

 驚くが光だしとどこか納得してしまう。


「それに、楽しかっただろ?」


「……あぁ」


 剛田の質問に少し時間を空けて応える中村。


「なら今回の体育祭は成功だ。勝つことも大事だが楽しむことが一番だからな」


 そう言って中村の背中をたたく。


「いっつ……」


「胸張って戻ろうぜ」


 剛田の言葉を聞いて俺たちはこの会場を後にしたのだった。

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