第5話 よく頑張りましたね
夕食は結依の手作りだった。非常に美味しく、こんなに美味しいものを食べたのは生まれて初めてだ。無我夢中で食べた。
将来のために料理の練習中らしい。俺はその味見役だ。今でも十分すぎるほどの腕前なのではないかと思うが、今以上に上手くなりたいらしい。
こんなに美味しい料理が食べられるなら、いくらでも味見出来る。
俺がこれまで食べた中で一番のご馳走はバイト先で貰った弁当だ。
それと比べるのはなんとも悪い気がするが、バイト先の弁当の何十倍も美味しかった。それにお腹いっぱいになるまで食べれたのは生まれて初めての経験だった。
あれ? 目から水が……
お腹一杯になるのがこんなにも幸せなことだとは思わなかった。
結依に買われる選択は間違いではなかった。
さすが俺、マジで名采配だ。
しかも今日はお風呂にも入れたのだ。バスタブにお湯が張ってあることに感動した。
バスタブってただのオブジェではなかったんだな……お風呂最高!
怒涛の一日だったが、間違いなくこれまでの人生の中で一番贅沢な日だった。
「俺ってどこで寝ればいいんだ?」
午前中家の中を見て回ったが、寝室は一つしかなかった。結依があそこで寝るだろうから、俺はソファーで寝ればいいか。
俺はどこでも寝られる体だ。正直ソファーでも贅沢すぎると思う。
これまでは布団を買うお金なんてなかったので床で寝ていた。
「雪君、何しているんですか?」
「えっと、寝る準備を……」
「ソファーですよ?」
「うん、贅沢だよな」
「……」
なぜか不満げな顔をされてしまった。床で寝た方がいいのだろうか?
「こっちに来てください!」
腕を掴まれるとぐいぐいと引っ張られる。
たどり着いた先はこの家で唯一ベッドのある部屋だ。つまり、結依の寝室だ。
「ここって結依の寝室だろ?」
「違います。私たちの寝室です」
「は? いやいや、流石にそれは駄目だろ」
「なんでですか?」
「なんでって……」
一応思春期の男女なのだから色々とまずいだろ。
「雪君がここで寝るのは確定事項です。雪君のことは私が買ったので拒否権はありません」
もしかして犬猫と一緒に寝る感覚なのか?
俺ってペット?
ぐいぐいと寝室の中へと連れて行かれた。
俺の顔をじっと見つめる。
「少し待っていてください」
そう言って部屋を出て行ってしまった。何がなんだかよくわからないけど言われた通りに待つ。
しばらくして結依が戻ってくると、手にはマグカップがある。
「ハーブティーです。気持ちも落ち着きますし、よく眠れますよ」
たしかに若干興奮気味で眠れそうにないが……その原因は貴女ですよ?
結依は結依なりに俺の様子を見て心配してくれたのだろう。
「ありがとう」
マグカップを受け取り一口飲む。ハーブティーなんて高そうなもの初めて飲んだ。なんというか……高級なお茶って感じだ。
全てを飲み終わる頃には落ち着いた気持ちになり、リラックスすることができた。少し眠くなってきたような気がする。
ただお茶を飲んだだけなのに、ハーブティーってすごいな。
「それでは寝ましょうか」
結依に続いて大きなベッドへと横になる。二人が寝ても問題ないほどの大きさだ。
大丈夫、寝てしまえば問題ない。硬くない場所で寝れることがこんなに楽だとは知らなかった。もう少しベッドの感触を楽しみたいが、あまり起きていると理性が危うくなってしまう。
なるべく何も考えず、そして見ないように目を閉じる。
もぞもぞと結依が動くのが伝わってくる。すると頭に手が添えられそのまま結依の方へ引き寄せられる。
「おっ、おい!?」
俺の頭は結依の柔らかく大きな胸に抱き抱えられる。
柔らかいものに包まれ、鼻腔をくすぐる甘い香りで脳がとろけそうだ。
結依の手がそっと頭を撫でる。
「雪君……これまでよく頑張りましたね」
その言葉を聞いた瞬間体の力が一気に抜ける。
その優しげな声に耳を傾ける。
「もう無理しなくても大丈夫です。私がついていますから」
結依の言葉が自然と心に染み渡る。
「あ、あれ?」
目から涙が流れる。悲しくなんてないはずなのに止まらない。これまでの生活が辛いと感じたり、今の境遇を恨んだことなんてなかった。それなのにどんどんと涙が流れ落ちる。
「ゔっ……っ…」
俺は結依の胸に顔を押し付け強く抱きしめる。一度流れ出した涙は止まらない。何か張り詰めたものが切れたような感じだ。
ずっと頑張らないといけないと思って生きてきた。バイトも勉強も……
自分のために……家族のために……
「大丈夫……大丈夫です……今は私がいます」
そっと抱きしめてくれる。俺はそのまま泣き疲れて寝てしまった。
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