第41話 今夜はハッシュドビーフ
三連休は更新できそうです
結依と入れ替わるようにトイレに行き、リビングに戻ってきた。先ほどのトイレを必死に我慢していた結依の顔が脳裏にちらつきなんとなく気まずいが、気にしないようにしながら結依の隣に腰を下ろす。ちらりと結依の方を盗み見る。恥ずかしそうに俯いている姿でこのまま微妙な空気のまま過ごすことになりそうなので、一つ咳ばらいをしてから話しかける。
「また足を結ぶのか?」
「……はい、と言いたいところですけど……」
時間を確認している。
「そろそろ買い物に行かないといけない時間ですので今日はおしまいにします」
確かにいい時間だ。気が付いたらかなり時間がたっていたようだ。アニメを十二話一気見したのだから当然といえば当然のことなのかもしれない。
「もう少ししたら橘さんが来てくれると思うので準備をしてしまいましょう」
「そうだな」
そういって立ち上がり、それぞれ準備するために動き出す。足早に部屋を出て行く結依。平静を装っていたが結依の耳が若干赤くなっていたことことは心にしまっておこう。
◆◆◆
買い物を終えて戻ってきた俺たちは、夕食の準備を始めていた。
「今日はハッシュドビーフを作りましょう」
「了解」
今日はカレーの予定だったが、近くに置いてあったハッシュドビーフのルーを見て急遽メニューを変更した。結依があまり食べてことがないと言っていたことが今回の始まりだ。
ルーを使うのは簡単という理由もあるが、一番の理由は未成年の俺たちでは赤ワインを買うことが出来ないということだ。橘さんは車で待っていたのでわざわざ呼び出すのも申し訳なかった。というわけで今回は市販のルーを使うことにしたのだ。
「さっそく始めるか」
「はい!」
まずは玉ねぎを薄切りにしていく。
「わぁ、包丁の使い方いつみても上手ですね」
「ありがとう」
目を輝かせながら言う結依。
「これもバイトをしていたおかげだよ」
「一瞬で終わっちゃいました」
あまりじっと見られると緊張してしまう。失敗してしまいそうになりながらも無事に玉ねぎを切り終える。
「私にはこんなに早く切るなんてできません」
「何度もやればいずれこれくらいできるようになるよ。それに早ければいいってわけでもないしね」
丁寧にやればやるほど美味しくなるが、早くやればやるほど美味しくなるなんてことはないと思うし……
「でもトントントンってかっこよくて憧れます!」
「確かにその気持ちはよくわかる」
俺も料理を始めたての頃は結依と同じようにあこがれを持っていた。
「お肉ですか?」
「いや、先に玉ねぎを炒めよう」
底の厚いフライパンで料理を始める。油を軽く引き玉ねぎに火を通していく。玉ねぎの色が良い感じになってきたらそこに牛肉を入れて一緒に炒めていく。お肉の様子を見ながら赤い部分がなくなるまで火を通す。
「お水を持ってきました」
「ありがとう」
結依から水をもらいフライパンの中へと入れていく。玉ねぎと牛肉がすべて水につかるようにしてしばらく煮込んでいく。
「そろそろかな」
ハッシュドビーフのルーを適量入れていく。毎回思うのだが、このルーのパッケージに書かれている量でやるとどうも好みの味にならないのだ。なんか薄いような気がする。なので記載されている量はあくまでで目安として良い感じに調整している。
かき回していきルーが完全に溶けきったらあとはもう終わりみたいなものだ。
「もう少し煮込んだら完成だな」
「あっという間に終わっちゃいました……ほとんど何もやっていません……」
「いつも作ってもらっているしこれくらいはやらせてくれ」
「……むぅ……雪君がそういうなら……」
納得いっていなさそうな表情だ。
「今日は橘さんも一緒に夕食を食べるんだよな?」
「そうです!」
橘さんと一緒に夕食を食べる機会が何度かある。そのおかげで橘さんとの距離も最初のころと比べてだいぶ近くなったような気がする。
タイミングよくインターホンが鳴る。
「きっと橘さんですね。私が出てきます」
そういって玄関の方にかけていく。少しすると橘さんを連れて結依が戻ってくる。
「もうすぐお料理が完成するので少し待っていてください」
「お手伝いもしていないのに……ありがとうございます。雪哉さんも」
「いえ、気にしないでください」
「そういうわけにはいきません。せめて配膳のお手伝いだけでもさせていただきます」
「ありがとうございます」
そろそろ最後の仕上げに取り掛かる。
「? 何をしているのですか?」
「バターライスを作ろうと思って」
フライパンにバターをいれ溶かしそこに白米を投入する。白米にバターをコーティングするように混ぜ合わせていく。全体がなじんだらそこに軽くコンソメを加えさらに混ぜ合わせてーー
「よっし、完成だ」
「バターのとってもいい香りがします!」
三人分の準備を終えテーブルの上に並べる。
「さっそく食べましょう。いただきます!」
「「いただきます」」
結依が期待に満ちた表情で一口。
「んーーっ! とってもおいしいです」
「ありがとう。でも、ほとんどルーのおかげだけどな」
「いえ、そんなことないと思いますよ。以前自分で作ったよりもおいしいです。雪哉さんは本当にお料理が上手なのですね」
結依だけではなく橘さんまでもが褒めてくれる。二人の称賛に顔が熱くなるのを感じる。恥ずかしさを誤魔化すように言う。
「貧乏で家に料理する食材がなかったですけど、バイトで料理していてよかったですよ!」
「雪君……」
「雪哉さん……」
二人がかわいそうなものを見るような優しい目でこちらを見てくる。なぜだ……
「大丈夫です。食材はいくらでも用意できますから心配いりません」
結依がまるで聖母のような表情で俺の手を握るとそんなことを言う。
「お、おう」
結依だけではなく橘さんまでもがなんでそんな表情をしているのかが分からないが反射的にうなずく。
「さっ、いっぱい食べましょう」
「そうですね」
なんだか納得いかないが、夕食を食べ進めた。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
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