第33話 初のお手伝い
生徒会室から移動した俺たちは、別の教室に向かって歩いていた。
「これからやるお仕事は、全校生徒に取ったアンケートの集計です」
「アンケート?」
「はい。雪君もさっき答えましたよね」
結依の言葉を聞いて首をかしげる。アンケートなんて答えたっけ?
「体育祭の新種目のやつだよ」
「あー、二人三脚のあれか」
光の言葉を聞いて思い出す。
「そうです」
全校生徒分の集計をしないといけないのか……それは大変に決まっている。それだけでも人手が必要に違いない。
「雪君がいなかったら私と光くんでやらないといけなかったので本当に助かります」
「だよね、ほかの生徒会メンバーの人も手が空けば手伝ってくれると思うけど基本的に僕と結依ちゃんでやらないといけなかったから、本当にありがとう!」
「部活にも入ってないから暇だったし、生徒会には少しだけ興味があったんだよ」
「へー、そうだったんだ」
部活は当然のこととして生徒会役員など放課後に作業などがあり放課後の時間を使わないといけない活動には参加することが出来なかった。そんなことをするくらいなら、バイトをしてお金を稼がなくてはいけなかったのだ。文字通り死活問題だった。
そういった理由もあって部活動や生徒会活動に憧れと興味を持っていた。だから今回の姫華生徒会長の提案は非常にいい機会だと思った。部活動などは入ろうと思えば入れるが生徒会に関してはそんな簡単に入れる訳ではない。そういう意味では生徒会の手伝いをできるのはとてもラッキーだ。
そんなことを考えていると目的の教室へと到着した。
結依が扉を開け教室の中へと入っていく。それに俺と光も続く。
教室の中には全校生徒から集計したであろうアンケート用紙が入った箱がいくつも並べられている。
「これを全部か……」
「わかっていたけど、改めてみるとすごいね」
光も数の多さに苦笑いをしている。
「それぞれひと箱ずつ分担して数えていきましょう。性別ごとに分けてそれぞれ賛成数、反対数、どちらでもいい数を集計しましょう。あとで私たち三人分を合計して結果を出すという方向で行きましょう」
「了解」
「わかった」
「数をメモする紙はここにいくらでもありますので使ってくだないね」
そういって何枚か白紙を手渡してくれる。
「ありがとう」
「それでは作業を始めましょう」
俺たちはそれぞれアンケート用紙が入っている箱をひとつずつ自分の手元に置く。箱の中にもかなりの量の紙が入っているし、箱もまだまだある。
考えていてもいつまでたっても進まないのでとりあえず作業に取り掛かる。
まずは集計しやすいようにそれぞれの区分を紙に書いておく。男子の賛成、反対、中立。同じように女子の区分も作る。
アンケート用紙を手に取り確認し、それぞれの区分に振り分けて数を書いていく。今のメモのやり方は一般的なもので『正』の字を書いていくものだ。
余談だが、江戸時代までは『玉』という字を使っていたらしい。
また、この『正』を使うのは日本だけではなく、韓国や中国でも使われているという話だ。このような記号を使った数え方は非漢字圏ではTallyという数え方が一般的だ。縦に四本、斜めに一本でごになる数え方だ。ほかにも四角を一辺ずつ書いていき最後に対角線を一本書いて5を数えるやり方もあるらしい。
以前どこかで得た知識をぼんやりと思い出しながら作業を進めていく。紙をめくる音とメモをするときのペンの音だけが教室の中に響いている。三人とも黙々と作業をしていく。どれくらい時間がたったのだろうか?紙とペンの音だけしかしていなかったが光の声が聞こえてきた。
「んっ、うんーーん……ふぅ……」
光が体を伸ばしている。その様子を見て俺と結依の作業の手が緩む。
「だいぶ進みましたし少し休憩しましょうか」
「そうだな」
結依が立ち上がり残りを確認する。
「一日では終わらないと思っていましたけど、この調子なら終わりそうですね」
「雪哉君がいてくれたおかげで今日中に終わりそうだね」
「いや、俺のおかげというよりみんなが頑張ったからだよ」
「それもあるとは思うけど、雪哉君すごい手際の良さだったよ? 僕の二倍くらいのスピードだったし」
「二倍は大げさだって……まぁ、以前こういったアンケートを集計する感じのバイトをしたことがあったから、少し慣れているだけ」
「バイト?」
光が不思議そうな顔をしている。たしかにこの学校に通っている人たちはバイトとは無縁かもしれない。というかこんなに死活問題でバイトをしている高校生の方が珍しいだろう。
ちらりと結依方を見ると、こちらを見て頷く。
一応結依の許可も取れたことだし俺の状況をざっくりと話すことにした。
「実はーー」
家がとんでもなく貧乏でバイトに明け暮れる日々を過ごしていたこと、最近になって結依のお父さんにその借金を肩代わり強いてもらったことなどだ。結依と一緒に暮らしているだの、買われただのそういったことは話していないが……
「そうだったんだね……雪哉君はずっと頑張ってきたんだね」
あらためてそんなことを言われると気恥ずかしさを感じてしまうので誤魔化すように言う。
「まぁ、何とかやってこれたし、バイトもいい経験になったよ。それに今はとても良い生活をさせてもらっているし」
「すごい! 僕雪哉君のこともっと尊敬しちゃうよ!」
光が俺の手を掴むと勢いよく振る。
「勉強できるってだけでもすごいのにそんな状況で努力を続けてきたなんて……僕にはできないよ!」
「お、おう」
目を輝かせながら言う光。その勢いに気おされてしまう。
「僕にできることがあるかわからないけどもし困ったことがあったら言ってね! 雪哉君の力になりたいから!」
光の言葉に胸が熱くなる。
「ありがとう」
「男同士の友情だよ!」
「うん?」
「え?」
「あ、あぁ! そうだな! 男同士の友情!」
光がジトっとした視線を向けてくる。
「今……」
「ち、違うぞ! 何というか混乱したというか……」
頭ではわかっているつもりだが、見た目美少女から男同士の友情なんて言葉が出てくるから……
「僕は男だって」
そう言って頬を膨らませる姿までかわいいのはいったいどうしてなんだろうか……
「悪かったって」
「まったくもう!」
「そろそろ作業を再開しましょう」
そんな結依の言葉を聞き俺たちは作業に戻るのだった。
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