第29話 天海 光
更新が遅れてしまい申し訳ありません。
中村との一件があってから既に数日が経過していた。
あの出来事からクラスメイトに勉強で分からないことがあると質問をされるようになった。
以前の学校でも同じことをしていたのでなんだか少しだけ嬉しかった。
クラスのみんなとも距離が一気に近づいたような気がする。気さくに話しかけてくれる人も増えたので本当にありがたい。
あと、中村との言い合いで結依が俺と幼馴染である、と言ったことで結依とは学校でも幼馴染みとして接するようになった。
まぁ、元々結依との関係を隠す必要なんてなかったんだけど……
結依の人気が高すぎたり、わざわざ幼馴染みだというタイミングがなかったのだ。
一応結依の幼馴染みとして認識された。それによって変わった事といえば、お昼ご飯も教室で一緒に食べるようになったし、結依が教室の中でも頻繁に話しかけてくるようになった。
クラスのみんなはそんな俺たちを優しいし目で見て――くれてはいない。
女子と、数人の男子は視線は優しいが、ほとんどの男子からの視線はまるでこちらを呪い殺そうとしているのではないかと思うほど怖い。
特に一緒にお昼ご飯を食べている時なんてひどいものだ。
いろいろ変わったが総じていえばいい感じだろう。クラスのみんなのとの距離も近くなったことなどを考慮すると、中村の一件も悪いことばかりではないと思う。
クラスの男子たちも夜道を気をつけてれば大丈夫だろう。……大丈夫だよね?
「もうすぐ体育祭があります。去年と種目はほとんど変わっていませんので、参加種目を考えておいてください」
教室をボーッと眺めながら、ここ数日のことを振り返っていると、教壇に立つ結依の声を聞いてはっとする。
黒板にはリレー、綱引き、二人三脚、大縄、騎馬戦などといった種目が書かれ、種目名の下には参加人数が書かれている。
騎馬戦は男子専用の種目で、大縄は女子専用の種目らしい。
それにしても、結構種目が多い。一人の生徒が複数の種目に出ないといけないかもしれない。
教室を見回すとふと気になる事がある。
なんだかクラスの雰囲気が違う。なんといか……真剣みを感じる。男子が武者振るいなか、心なしかそわそわしている。
「参加希望の種目を来週までに決めておいてください」
すると隣の席の成瀬から声をかけられる。
「なんでこんなにやる気に満ち溢れているのか不思議だろ」
「えっ?」
いきなりだったので間抜けな声が出てしまった。
「顔に書いてあるぞ」
「まぁ……ちょっとな」
「それはな――」
成瀬の言葉がとある女子生徒の声に遮られる。
「結依ちゃんは今年もリレーに出るの?」
「はい、そのつもりですよ」
「去年のすごく早かったもんね!」
「走るのはちょっとだけ得意なんです」
自慢げに胸を張りながら言う。
「今年こそ優勝したいね」
「そうですね、優勝しましょう! みんなで頑張りましょうねっ」
「「「おぉぉぉぉぉぉお!」」」
「今年こそ優勝するぞ!」
「姫野さんに勝利を!」
「リレー、全力で応援します!」
結依がクラスのみんなに笑顔で呼びかけると、それに反応するように男子たちが騒ぎ出す。まるでお祭り騒ぎのようだ。
みんなかなりノリがいいんだな。いや、その方が楽しいからいいんだけど……
つまりはあれだ……これだけやる気を出しているのはおそらく結依がリレーに出るからなのだろう。大きいもんね。
隣では成瀬が苦笑いをしている。
「つまり、そう言うことだよ」
「男子だな」
「男子だね」
クラスの――男子の心が一つになったようだ。
ひとしきり騒いだあと、結依が簡単な注意事項や連絡事を話始める。
「――連絡は以上です。最後に、アンケートをしてもらいます」
「アンケート?」
「はい、今年の二人三脚に男女混合にしたらどうか、と言う意見が多数寄せられました」
女子は微妙な表情になり、男子は目を輝かせている。ガッツポーズをしているものもいる。しかも、一人二人ではない。
出したのか……
「なので生徒会でもう一度皆さんの意見を聞くことになりました。今から用紙を配布します」
そう言って紙を配り始める。最前列の人に一列の人数分の紙を渡し、後ろへと紙を回す。
全員に渡ったことを確認して話し始める。
「性別に丸をつけて、賛成か反対のどちらかを選んでください。どちらでもいいって人は両方に丸をつけてください」
俺は回ってきた用紙に視線を落とす。『男』の文字に丸をつける。
男女混合か……嫌と言うわけではなないけど、賛成というのもちょっと違うような気がしたので、両方に丸をつけておく。中立が一番だ。
「記入し終えたら前の人に渡してください」
全ての回収を終えたところで、ホームルームが終わった。
回収を終え、アンケート用紙を持った結依が席に戻って来た。
「この後生徒会室に行かないといけないので、帰りが遅くなってしまうと思います」
「待つよ」
「いいんですか? 橘さんに連絡すれば迎えに来てもらえますよ?」
「それは橘さんに悪いし。それに、まだ部活を決めてないから見学しに行きたいから」
「わかりました。終わったら連絡しますね」
そう言って結依は教室を出て行った。
その後ろ姿を見送ってから、帰り支度を済ませて教室を出た。
どこに行こうか考えながら廊下を歩き出した。
◆◆◆◆
俺は人通りのない廊下を少し早歩きで、逃げるようにとある部室を後にしていた。
ちょっとした興味本位でオカルト研究部を見学しようと部室を訪れた。
部室は学校の中でもあまり人が来ないような場所に置かれており、人が全然いなかった。
桜聖学園はかなり大きな校舎ということもあり、こっちの方には来た事がなかった。
結構な距離を歩いて部室に到着したはいいが、扉を開けようと近づくと中から不気味な音楽と引き攣るような笑い声が聞こえて来て思わず動きを止めた。
曇りガラスのため中の様子はよく分からなかったが人の影が見え、火の玉のようなものが浮かんでいたのを見て迷わず帰ることにした。
そして今、ようやく教室が見えなくなったところでスピードを落とす。
「なんだったんだ?」
不気味な音楽に笑い声、見間違いかもしれないが火の玉が飛んでいた。正直意味がわからなかった。というか、怖すぎる。
さっきのは無かったことにして頭を切り替える。
相変わらず誰もいない廊下を歩く。自分の足音だけが聞こえるくらい静かだ。
「校舎がでかいと、誰もいない場所が生まれるんだな」
前の学校でも人気のない場所はあったが、少し歩けば生徒と出会うし、声だって聞こえていた。
改めて桜聖学園の規模の大きさを実感しながら廊下を歩き続ける。
「ん?」
しばらく歩いていると一人の生徒がいた。
椅子の上に立ち、掲示板に何かを貼り付けている。
横顔からも整った顔立ちをしているのがわかる。綺麗系というより可愛い系だ。背が小さく小動物のような印象を受ける。
椅子の上に立っても身長が足りていなく、爪先立ちになりプルプルしながら貼り付けている。
人が全然いないことと、なんとなく危なっかしく感じたので自然と視線が向いてしまう。
一生懸命に体を伸ばして一番上の角を貼り付けようとしている。
「あっ、あと少し……やったあ!」
なんとか手が届き喜んだ次の瞬間、体がぐらりと揺れバランスを崩す。
「わぁ!?」
俺は慌てて駆け寄る。バランスを崩したせいで、受け身を取ることすらできず背中から落ちようとしている生徒を咄嗟に抱き止める。
なんとなく見ていたので素早く反応する事ができた。
間一髪のところで落ちずに済み、ほっと胸を撫で下ろす。
受け止めた小柄な生徒はとても華奢でびっくりするくらい軽い。
衝撃に備えてか、目をぎゅっと閉じ体を硬直させている
「あ、あれ? 痛くない……」
来るはずの衝撃が来なかったこで気の抜けた声を出す。
「大丈夫か?」
俺の声に反応してゆっくりと目を開ける。
「う、うん。大丈夫」
まだ状況を飲み込めていないようだ。いつまでも抱きかかえたままではいられないので下ろす。
「えっと……助けてくれてありがとう」
「怪我してないか?」
「うん、落ちる前に君が助けてくれたから」
「それはよかった」
改めて見るとやっぱり可愛い。ショートカットで前髪には髪留めをつけている。
身長は結依と同じか少し大きいくらいだ。ニコニコ笑っている顔はこっちまで気持ちが明るくなる。
オカルト研究部から逃げて来たけど、この子が怪我をする前に助けられたのだから、逃げて来た甲斐があった。
「改めて、助けてくれてありがとう。僕の名前は天海 光。よろしく!」
最近忙しくてなかなか執筆に時間を使えていません。
なんとか年内に更新できました。
作品を楽しみに待っていてくださる読者のためにも頑張ります!
それでは良いお年を!




