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第26話 勝負開始

 この後、中村と勝負をすることになった。正直こちらが勝負にのってやる必要なんて無いのだが、言われっぱなしというのは癪だ。中村の土俵で勝利して、中村を打ち負かせば少しは溜飲が下がるかもしれない。結依に恥を欠かせたくないという気持ちもあるが、ほとんど俺のわがままのようなものだ。我ながら子供っぽいかもしれない。


 今目の前には中村の後ろについて回っていた男子生徒がいる。名前はたしか、笹野 俊樹(ささのとしき)だった気がする。

 どうやら中村に勝負開始までの間、不正をしないか俺を見張るように言われたらしい。

 まぁ、不正なんてしないから関係ない。それに、笹野には聞いてみたかったことがある。


 笹野は申し訳なさそうな表情を浮かべながら、近くにいる。おとなしそうな見た目通りあまり喋らないようだ。


「えーと……笹野、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいか?」


「はい、なんですか?」


「なんで中村の言う事を黙って聞いているんだ?」


「そうです。嫌じゃないんですか?」


「僕は……別に……」


 まだこの学校に来てからあまり時間が経っていないが、中村があちらこちらに笹野を連れ回しているのをよく見かけるし、自分の鞄を持たせているところも見たことがある。


「もし笹野君が言いづらいなら私から言いましょうか?」


「もしよかったら、俺が勝った時に笹野に関わらないように言ってもいい」


「だ、大丈夫です! 中村君は本当はっ――い、いや、なんでもないです……」


 思わず結依と顔を見合わせる。いきなり大きな声を出したことに驚いたが、それ以上に本当にやめてほしいと言う気持ちが強いことがわかったからだ。

 もしかしたら二人の間には周りからはわからない何かがあるのかもしれない。笹野が嫌がっているのだから無理強いするのは良くない。


「そうか……余計な事を言って悪い」


「い、いえ……僕を思ってのことですから、気持ちは嬉しいです」


 結依はなんだか複雑そうな顔をしている。

 本人同士にしかわからないこともあるだろう。とにかく今は、目の前の勝負だ。


 ◆◆◆◆


 中村との勝負の開始時間までもうすぐだ。クラスの雰囲気もなんだか、そわそわしていて落ち着きがないように感じる。

 野次馬根性というか、どうやらクラスのみんなも俺と中村の勝負が気になっているようだ。


 俺も当事者じゃなければ面白そうな催しだと思っていたかもしれない。いきなりクラスの人が勝負をするとなったら気になってしまう。スポーツ観戦のような感じだと思う。

 まぁ、今回は当事者だし、不正なんてしていないのに言いがかりをつけられているのだから面白くなんてないけど……


 少し前にバイト先でだけ会う仲のいい人からおすすめの本を貸してもらっていた時期があった。その時に貸してもらった本の中に学力で競い合う物語があって、面白くて夢中で読んだのをふと思い出した。

 似たような状況だけどあまり嬉しくない。



 休み時間になると笹野がすぐ俺たちのところに来ていたが今はいない。

 教室の中を見回すと、前の方で何か作業をしている。


「何やっているんだ?」


「えっと、これは……」


「これは僕が用意させているものだ」


 俺と笹野の間に中村が割って入ってくる。


「これでお互いの手元と答案用紙をプロジェクターを使って映し出すんだ。そうすれば絶対に不正ができないだろ」


 プロジェクター!? かっこいいな!


 貧乏で機械とは全く無縁だった。なにせスマホすら持っていなかったのだから、パソコンを使ったことなんて学校の授業くらいだ。

 中村の言う通りカメラがセットされており、カタカタとパソコンを操作する笹野の姿が格好良く見える。

 俺もカタカタとパソコンを使ってみたい。


「なぁ笹野、もしよかったら俺にパソコンの使い方を教えてくれないか? 俺も笹野みたいに格好良く使ってみたいんだ」


「えっと……僕なんかでよかったら……」


「ありがとう!」


 パソコンは使えて損はない。むしろ使えた方がいいだろう。

 どうやら俺は、スマホやパソコンといった機械類に憧れが強いらしい。なんか格好いいし。

 これまで手の届かないものだったが、今は可能性がある。スマホも手に入れた。もしかしたらマイパソコンを手に入れる日もそう遠くないのかもしれない、なんて妄想が広がる。


 笹野から教えてもらえる約束をして満足していると、中村は不機嫌そうに鼻を鳴らし去っていった。

 少しした後、先生が教室に入ってきた。


「あまり時間がないですからすぐに始めましょう。準備はいいですか?」


「はい」


 ちょうど笹野の準備も終わったようだ。

 手元の部分がカメラで撮影されていて、その映像は黒板のスクリーンに映し出されている。用意された席に座る。前が見えないように仕切りが置かれている。俺と中村からは映し出された映像は見えないようになっている。


 すげぇ……プロジェクターも小型だ。あんな小型サイズでどうしてスクリーンに映像が映るんだ?

 ついつい機械に意識がいってしまった。


 机の上に3枚の紙が裏返しで置かれる。

 クラスのみんなも興味深そうにスクリーンの映像を見ている。

 深呼吸をする。


「制限時間は一時間です」


 軽く姿勢を正し気合を入れる。横目で見た中村の表情は余裕が見て取れた。

 結依も真剣な表情でこちらを見ている。


「それでは始めてください」


物語は次回更新で一区切りの予定です。応援よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] つまらなくないですよ!いつも楽しみにしてます! 頑張ってください
[良い点] 今回も面白かったです♪作品を否定する人よりは気にしないで!ブックマークの人数がこの作品の面白さを反映してると思って下さい(^ω^) 次回も楽しみに待ってます♪
[気になる点] 誰だ、わざわざ読みに来てそんな捨て台詞を吐いていく暇人は。 そんな暇あるなら自分で書けば良いだろうに⋯⋯ [一言] 楽しく読ませてもらってます。羽音に負けないでください!
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