第24話 テスト結果
テスト当日まで一週間を切っている。なんとなくクラスの雰囲気もピリピリしているような気がする。
結依も家に帰るとすぐに自室に籠り勉強に勤しんでいる。
『本当は雪君と一緒に勉強したいんですけど、今回のテストは私一人で頑張りたいんです!』と言っていた時の目は本気だった。
背筋がゾクゾクするような感覚に襲われた。そんな目を見てしまったら何も言えなかった。
以前の学校では、テストが近づいてくるとクラスのみんなから色々と質問されることが多かった。数学や英語など様々な科目を聞かれては教えていた。
人に何かを教えるのは意外と楽しく、性に合っていたと思う。少しだけ寂しさを感じてしまう。だがそれ以上に、絶対に負けられないという気持ちが込み上げてきた。
これまで経験がないほどテストに対してやる気が溢れている。
テストが死活問題に繋がらなくなった今だからこそ、のびのび臨むことが出来るのかもしれない。学校の定期テストは範囲が決まっているのでかなり勉強がしやすい。
一週間といえば長いように思えるが、実際はかなり短く感じる。気づけば一日が過ぎ二日、三日とどんどんテスト当日に近づいて行く。そしてついに試験当日を迎えた。
◆◆◆◆
試験当日。
やれることは全てやった。あとはその成果を存分に出すだけだ。
試験開始時間まで教室で待機だ。
隣に座っている結依の表情は硬いが、それと同時に自信が見え隠れしている。
中村は澄ました顔している。かなり自信があるようだ。
クラスは静まり返り、時計の針の音だけがやけに大きく聞こえる。
間もなくして先生が教室に入ってくる。
「皆さん、おはようございます」
手にはテストを持っている。いよいよ始まるのだと実感して肩に力が入る。
「テストを始めます。最後に身の回りに何もないか確認してください。不正行為は絶対にしないように」
何人かが携帯をポケットに入れたままだったのか、慌てて携帯を置きに行く。
クラス中の準備が出来たところで先生が問題の配布を始める。
「最初は数学からです。試験はチャイムが鳴ったら開始してください」
カチッ、カチッっと時計の音が聞こえてくる。
針の進みが遅いように感じる。
深呼吸をして気持ちを落ち着ける。これまでとは違った緊張が襲う。
これまでは絶対に失敗できないと思うことから生まれる緊張だった。
だが、今感じている緊張は違う。成功を願うからこそ生まれる緊張だ。
その緊張を感じながら開始時間まで待つ。
静かな教室にチャイムの音が鳴り響く。
「それでは始めてください」
一斉に紙を捲る音が鳴る。
全問題を軽く読んでから解き始める。学校の定期試験でもかなり難しい問題が含まれている。
どんどん解き進めて行く。最初は周りの人達のカツカツというペン音が聞こえていたが、次第に聞こえなくなった。
問題を解くことだけに全力を尽くす。
周りの音が聞こえなくなるほど一心不乱に問題を解き続けた。
◆◆◆◆
「そこまで。筆記用具を置いてください」
クラスから安堵のため息のようなものが聞こえてくる。
「これで試験は全て終了になります。今日はこれで終わりとなります。速やかに下校してください」
先生が出て行くのを見てから皆んなが一斉に動き出す。
テストはどうだったか、など友達と話している者もいれば、これからどこかに遊びに行くか話している者もいる。中には、一目散に教室を出ていく者もいる。
テストの時とは打って変わって賑やかな教室だ。
先生たちはこの後試験の採点を行い明日には全ての結果が出るらしい。
ほとんどの先生たちは採点に追われるので、その他のことをやる余裕はない。だから生徒たちをすぐに下校させる。
体を伸ばすとポキポキと骨が鳴る。
やり切った。今持てる力を出し切れたと思う。テストが終わった余韻に浸っていると結依から声をかけられる。
「手応えはどうですか?」
「実力は出し切れたと思う。結依は?」
「結構自信があります!」
その大きな胸を張りながら言う。聞くまでもなく顔を見ればわかる。その表情は晴れやかだった。
「あとは結果を待つだけですね」
「そうだな」
気づけばクラスの皆んなはほとんど下校している。
「私たちも帰りましょうか」
「あぁ」
結果を待つだけ……自信はある。だけど、やはりほんの少しだけ不安は残ってしまう。
これでダメなら仕方がない、と思えるほどにはやり切れたと思う。背筋が伸び気持ちが軽い。いつもより少しだけ足取りが軽く感じた。
◆◆◆◆
翌日。
試験結果は朝発表される。先生が黒板に試験結果を張り出し始める。
数学――
一位 一ノ瀬 雪哉 得点100
二位 中村 司 得点86
三位 姫野 結依 得点84
三位 早乙女 澪 得点84
五位 成瀬 涼真 得点80
よしっ! 内心ガッツポーズをする。
順位が発表されるとクラスがざわめき始める。
「100!? 何その点数!?」
「マジかよ……」
「俺なんて全然出来なかったんだぞ」
「すご過ぎ……」
視線を感じる。チラチラとこちらを見ているようだ。
さらに点数が張り出される。
英語――
一位 一ノ瀬 雪哉 得点97
二位 早乙女 澪 得点90
三位 姫野 結依 得点86
四位 中村 司 得点83
五位 渡邊 宗馬 得点81
「すごっ!」
「英語も一位かよ……」
「一ノ瀬君って帰国子女だったり?」
化学――
一位 一ノ瀬 雪哉 得点98
二位 姫野 結依 得点91
三位 中村 司 得点84
四位 近藤 智 得点81
五位 早乙女 澪 得点80
物理――
一位 一ノ瀬 雪哉 得点100
二位 中村 司 得点85
三位 早乙女 澪 得点84
四位 姫野 結依 得点81
五位 成瀬 涼真 得点78
国語――
一位 一ノ瀬 雪哉 得点95
二位 姫野 結依 得点90
二位 早乙女 澪 得点90
四位 中村 司 得点86
五位 渡邊 宗馬 得点80
総合――
一位 一ノ瀬 雪哉 得点490
二位 姫野 結依 得点432
三位 早乙女 澪 得点428
四位 中村 司 得点424
五位 渡邊 宗馬 得点396
全ての結果が出揃う。息を大きく吐き拳を握る。
よっしゃああ!!!
結果に満足する。身体中が熱い。
全ての科目、総合点数において自分の名前が一番上に載っている。
勉強はやればやっただけ結果がついてくる。改めて達成感を噛み締める。
いくらバイトをしても金が貯まらず借金ばかり増えて行くのとは違う。あれはいくら頑張っても結果がついて来ていなかった。
クラスがざわつきが大きくなって行く。
「一ノ瀬君凄すぎっ!」
「どうしたらあんな点数取れるの?」
「私、今度勉強教えてもらおうかな……」
「それいいじゃん!」
「おいおい……なんだよ、490点って……」
「やばいだろ……化け物すぎる」
「逆にどこで点数落としたのか教えて欲しいぜ」
「絶対一生あんな点数取れねぇよ」
クラスの大半がこちらを見ている。
唖然としている者、興味や驚きの色を浮かべている。中にはまるで信じられないものを見るかよのうな視線を向けてくるものまでいる。
注目されると居心地悪く感じることが多いが今は誇らしく感じられる。まるで自分が認められたような気持ちになる。
結依も悔しそうな表情を浮かべたが、すぐに賞賛の声を上げる。
「流石です。やっぱり雪君はすごいですね!」
結依の言葉でより実感する。喜びを噛み締めている
バンッ!! と音が突如教室に響き渡り、騒がしかった教室が静かになる。
勢いよく中村が立ち上がるとこちらを指差し、睨みつけながら叫ぶ。
「こんな点数おかしいだろっ! 不正だ! 不正したに決まっている!!」
あと少しで一区切りといったところです。




