第22話 変わった枕
俺の右腕を抱き枕にして寝た次の日、学校が終わり我が家に帰って来た。
学校では相変わらず中村が俺を意識しているようだ。その度に結依の機嫌が悪くならないのか気になってしまう。
今日はなかなか多かったが結依の機嫌は悪くなることはなかった。気にする必要はないって言った事が効果があったのかもしれない。
家に帰って来た今も結依の足取りが軽いような気がする。そして何かを待っているかのようにそわそわしている。
不思議に思っていると、家のインターホンが鳴る。
何気にこの家に来て初めて聞いた。この家どころかこれまでの生活でも聞いた事がなかった。そもそもインターホンがついている家に住んでいなかったのだ。その音に思わずビクッとしてしまった。
これまでインターホンが鳴るという生活を送っていなかったせいで突然鳴ると驚いてしまう。日頃からインターホンが鳴る生活をしている人はこんな事が無いのかもしれないが……まさか貧乏生活にこんな問題があるなんて思わなかった。
もしかしたら、訪ねてくる人が大体借金関連の人だったということも原因かもしれない。
なるべく早く慣れないといけないな。いつまでもインターホンが鳴るたびにビクッとしていたら恥ずかしい。
「あ! 来ましたね。時間ちょうどです」
すぐさま玄関の方に駆け寄っていく。驚くほど軽い身のこなしだ。
ドアを開け荷物を受け取って戻ってくる。その顔にはワクワクした表情が浮かんでいる。
それを大事そうに抱えている。
「結構重いですね」
不思議そうな顔をしている。結構大きめの段ボールなので上に胸が乗っている。
中身がなんだかわからないが、もし予想より重たいのなら原因はそれだと思う。
「何かが届いたんだ?」
「それは今日の夜までの秘密です! 見つけて迷わず購入したんです」
一体何を買ったんだ?
「速達は便利ですね」
速達……そんなに欲しかったものなのか。
「えへへ、今から夜が楽しみです」
緩んだ表情を浮かべふにゃりと笑っている。
とても嬉しそうでいいのだが、箱の中身がなんなのか分からなくて怖い。
夜使うものでそこそこの大きさなもの……全く見当がつかない。変なものじゃないよね?
結依はまるでスキップをするみたいな足取りで、段ボールを持って寝室の中へと入っていった。
◆◆◆◆
夕食を食べ終えた後、昨日と同じように俺が先に風呂に入り結依を寝室で待つ。近くには結依が嬉しそうに運んだ段ボールが置かれている。中身が気になっているせいかすごい存在感を感じてしまう。
こっそり中身確認しようか迷っていると寝室の扉が開かれる。
「お待たせしました」
「あ、あぁ」
こっそり中身を見ようとしていたせいで歯切れの悪い返事になってしまった。
そんな俺の返答を気にした様子はなく、まっすぐ段ボールへと向かうと俺の目の前に運んでくる。
「それでは開けますね」
カッターもすでに準備されている。手際良く箱を開けていき、中から物を取り出した。
「じゃーん! どうですか?」
「なんだ、これ?」
見たこともない変な形ものが出てきた。
「もしかして、枕か?」
「正解です」
枕にしては変な形をしている。L字をしているというか、半分だけ縦に大きい。そして不自然に空洞ができている。
あまりに不思議な形をしているのでぱっと見枕だとわからなかった。
「そんな変な形の枕が欲しかったのか?」
正直拍子抜けって感じだ。ある意味予想外のものだったが、何でこんなのが欲しかったのかわからない。普通の枕だとダメなのだろうか?
「ふふんっ! 普通の枕ではないんです。これは腕枕用枕なんです」
「はい?」
不思議な説明に思わず聞き返してしまう。
「この枕は腕枕をするための枕なんです。百聞は一見にしかずです。まずは使ってみましょう!」
そう言うと今まで使っていた枕を退けて変な形の枕を置く。
「雪君、横になってみてください」
言われるままに横になる。
「あぁ! そこの隙間に腕を入れて横になるんです」
不自然な空洞はちょうど腕一本入るくらいの隙間ができている。
腕をその隙間に通し枕に頭を置く。本当になんだこれ?
「完璧です。そして私も横になれば完成です」
そして俺の腕が置かれている部分に横になる。たしかに腕枕をしているような感じになるが、枕で腕はガードされているため痛くない。
「どうですか? これなら痛くないですよね?」
驚いて結依の顔を見る。すると困ったというか申し訳ない表情になる。
「実は私も、雪君に腕枕をしてみたいって思ったんですけど、恥ずかしかったので寝ている最中にこっそりやってみたんです」
「え?」
「そうしたら思っていた以上に頭が重くて痛かったんです」
腕枕されたの? 本当に?
「痛いのに我慢してくれていたと思うと申し訳なくて……ごめんなさい」
「い、いや……大丈夫だったから」
そんなことよりも、腕枕をされたという方が衝撃的だ。どうせなら起きている時にして欲しかった。
「雪君に痛い思いはしてほしくないです……でも、どうしても腕枕してもらった時の安心感を忘れられなくて……」
そんなに気に入って貰えたのなら、痛みに耐えて枕になった甲斐があった。
「色々調べてみたらこの枕を見つけたんです。これなら大丈夫かなって……ダメですか?」
不安そうに目を潤ませながら上目遣いでこちらをみてくる。今は腕枕枕を使っているせいで距離も近い。ずるいと思う。
「ダメじゃない。結依が安心して寝れるならいくらでも協力する。俺は結依に買われた身だからな」
「雪君……ありがとうございます!」
不安な表情が消え、ぱぁっと笑顔になる。
「今日はこのまま寝ましょう。電気を消しますね」
電気が消えて暗くなったが、近くに結依の体温を感じる。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
しばらくの間もぞもぞと動いていたが、次第に静かになった。
それにしてもこんな枕が売っているなんて知らなかった。まさか腕枕をするための枕が存在するなんて考えたこともなかった。
これは……売れているのだろうか……?
腕枕をしてもらいたいだけでこんな不思議な枕を見つけてくる結依の行動力には驚かされる。おとなしくて、内気な性格だった頃からは想像できない。
腕が痛くないのでゆっくりと眠れそうだ。
目を閉じ結依の規則正しい寝息を聞きながら眠りについた。
腕枕用枕なんてものがあるなんて知りませんでした。たまたま見つけたので小説の題材にしてみました。
もし、変わった商品を知っている人がいればぜひ教えてください。小説のネタとして使うかもしれません。
そろそろ中村と一悶着あるかもしれません…




